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27 土葬都市ダイモスの迷宮①



 嫌な事を忘れるには思いっきり好きな事をするといい。

 そう、つまり俺の場合は迷宮探索だ。

 イーストエデンの東門から更に東へ、山を突っ切り三日ほど走るとそれは見えてくる。


 すり鉢状の地形の底に大きく口を開けた迷宮の入り口。

 そこへ至る為の階段が四方向から中央の入り口へ走っている。

 つまり(×)のような地形になっているのだ。

 外縁から中央に掛けては緩やかな勾配で、間の抜けた人が滑落しても……余程の悪条件が重ならない限りは怪我をする事も無いだろう。


 この迷宮は、かつてこの地に栄えていたダイモスという都市の成れの果て。

 古代の魔法使いが、現代には名も伝わっていない禁呪を使い土の中に都市を飲み込み迷宮化させたと言われている。何と言うか、月夜の迷宮もそうだけど、ここらへんに住んでいた大昔の魔法使いは迷宮作るの好き過ぎるだろう。もしかしたら、まだ古代の魔法使いの作った人造迷宮シリーズはあるかもしれない。


 ドレッドノートを呼び出して迷宮の入り口にマーキングをさせる。

 よし、それじゃあ迷宮へ向かおうか。

 俺は階段を下り、迷宮へと続く穴に向かう。


 ランタンを片手に洞穴へと足を踏み入れていく。

 石造りの階段はところどころ苔むしていて、非常に滑りやすい。

 注意が必要だろう。


 洞穴を進めば進むほど穴は狭くなっていく。

 最も狭い箇所では縦横は大人の男が出入りするのに最低限の広さしかない。

 少し大柄な男性なら屈まねばならないような狭さだ。


 この迷宮はイーストエデンまでの直線距離こそ近いものの、まともな街道は近くを通っていない。

 更に洞穴の狭さ、通り辛さも相まって、非常に冒険者からの人気が無い。


 じゃあ何故俺はここへ来たのか?


 それはこの迷宮で達成出来る依頼の多さと、個人的に欲しい宝石が手に入るからだ。

 

 人気が無い迷宮だけに、わざわざここで達成出来る依頼を受けに来る冒険者は少ない。

 下級の迷宮なので依頼達成の報酬が少ないだけでなく、迷宮への入り口が狭いせいで、大型の背負子(しょいこ)やバッグ、荷車などで大量に物資を回収するのが困難なのだ。要は報酬の少なさを依頼達成回数でカバーするのも通常の手段だと難しい。


 魔法の袋や空間魔法を使えれば、その問題を解消する事は一応出来る。

 だけど、そういった運搬方法を持っている冒険者というのは高ランクになっている場合がほとんど。

 そして高ランクの冒険者にはもっと割りのいい仕事がいくらでもあるみたいだ。


 だから、ここの依頼は必然塩漬けされている物が非常に多い。

 俺からすればたくさんの依頼を一度にこなせるから、赤石級冒険者に近付く為に最適の迷宮になりそうなんだけどね。


 あと、個人的に達成したいもうひとつの目的。

 それが深海宝石(ディープブルー)という宝石を出来るだけ集める事だ。

 今まで手をつけられていなかったドレッドノートによる魔法調合に使う素材のひとつだね。

 そんなに珍しい素材でもないようだから、見つけ次第水とかげの迷宮で手に入れたつるはしでさっさか掘って、じゃんじゃん集めていこう。


 地上と迷宮を繋ぐ狭い階段をなんとか下りきった。

 すると、視界は開け、中々衝撃的な光景が見えてきた。


 街ひとつをすっぽり覆えるほどの広い地下空間。

 数多くの塔と空中回廊が走るその光景はとても大昔の街並みとは思えない。

 迷宮の暗闇の中、摩天楼は静かに佇んでいる。


『すごい景色だな』

[あんまりよく見えないんだけど]


 ドレッドノートの目だと暗くて良く見えていないようだ。

 見えている方が異常なんだけどね。


『とりあえず、街の中心にある地下への階段を目指すぞ』

[この階層では戦わないの?]

『第一階層はコボルドぐらいしかいないみたいだからな』


 この迷宮は第二階層と第三階層が主な稼ぎ場だ。

 第一階層にはまるで旨味がない。


『飛ぶぞ』

[え?]


 羽織っていた外套がひとりでに裂けていき翼を形作っていく。

 最初は中々手間取ったが、イーストエデンからこの迷宮へ辿り着くまでの道中で訓練済みだ。

 墜落せず飛べるようになっている。


[マジックアイテム?]

『ああ、かまきりから手に入れたんだ』

[ふーん]

『……明かりを持っている俺が先導する、ついてきてくれ』


 軽く外套に魔力を込め、地価都市の上を飛んでいく。

 外套が羽のような形に変形しているが、別に羽ばたく必要は無い。

 最初はゆっくりと浮き上がる、そこから徐々に加速したり横に滑るように動いてみる。

 問題ない。地上でも地下でも同じ様に動作するようだ。


 そこから一気に加速して目的地へ向かおうと考えたが。

 その前に聞いておくべき事があるな。


『今まであまり気にしていなかったが、お前はどのぐらいの速さで空を飛べるんだ?』

[正直速さにはあまり自信がないわね、これ以上ペースを上げる事も可能ではあるけど……すぐに疲れてしまうわ]

『そうか』


 ドレッドノートの泳ぐ早さはそれほど速くは無いようだ。

 俺はまだまだ速く飛べる気がする。

 マジックアイテム頼りだからあまり自慢にはならないけどね。

 俺はドレッドノートの速度に合わせ、ゆったりと第二階層への階段へ向かった。




◆◆◆◆◆




 第二階層へ続く階段の周囲に数匹のコボルドがいたが、幸運剣の相手ではなかった。

 無造作に切り捨て階段を下りていく。

 迷宮へ至るまでの階段と違い、石造りのしっかりとした階段だ。


(上の階段ももう少しマシにしてくれればな)

(鎧を纏い盾を背負った状態でアレを抜けるのはきつかった)


 正直コボルドと戦うより厄介だった。

 盾や鎧の端ががりがりと階段の床や壁を擦れていき、俺の精神も同様に削れていった。

 ……帰りは転移魔法で帰れるから俺はまだマシか、二度とあそこは通りたくない。


 しばらくすると、階段が終わり通路に出た。

 床や壁が洞穴形迷宮のように岩壁だ。

 広さは大人が手を広げて三人並べる程度。

 天井はさほど高くも無い、精々中型のコボルドと同程度の高さだ。

 通路の壁には所々穴があいている、主要な通路の脇に横道があるのだ。


『とりあえず外を見てみるか』

[外?]


 今俺達は第二階層の中央部分。

 全ての階層を繋ぐ大きな塔の内部にいる。

 塔の周囲には第三階層まで足場の無い途轍もない大きさの穴が開いている。

 そして、塔のいくつかの箇所から迷宮の外周へ向けて通路が走っている。

 俺たちが欲しい物は塔から空中回廊を通った先、この迷宮の外周部分で手に入るはずだ。

 まずは塔を出て外を見てみよう。


 塔の外へ向かう道中、微かに床が揺れているような気がした。

 床に耳を当ててみると──どうやらかなり前の方に魔物がいるようだ。

 依頼に関係するような魔物だと嬉しい、俺が前に出て様子を窺う。


 音を頼りに近付いてみると、そこには岩で出来た魔物が居た。

 灰色の岩で出来た魔物で、背は高くないが肩幅が異常に広い。

 巨腕を持った不思議な……ゴーレムかな?


 ゴーレムは見上げるほど大きな巨体だと本で読んだが、種類が違うのだろうか?

 石で出来た魔物は他にも何種類か思い当たる。

 しかし、目の前にいる魔物と似た特徴の魔物は思い浮かばなかった。

 

(まあ、なんでもいいか)


 俺は魔法の袋から音も無くひとつのつるはしを取り出す。

 水とかげの迷宮で石箱から手に入れた──水精のつるはしだ。

 本来は魔法石を採掘する際に使う、魔法石以外の土や岩を砕くためのつるはし。

 その刃は石で作られた魔物に対しては強力な武器にもなる。

 まさに目の前の魔物を殺す為にあるような武器だ。


 ゴーレムは何かを探すように周囲を見回しながらゆっくりと通路を歩いていく。

 俺はその視界(?)に映らないように奴の背後に忍び寄る。


 先ほどまでゆっくりと歩いていたゴーレムが、素早くこちらへ振り向いた。

 その眼前には両手で振り抜いたつるはしが既に迫っている。


 貰った!

 つるはしは見事にゴーレムの表面を削り取った!

 ……あれ?


 よくよく見てみると、ゴーレムのつるはしで表面を削られた部分が紫色に輝いている。

 うん、綺麗だな。まるで宝石……いや、魔法石のようだ。


(まずい!)


 水精のつるはしは魔法石を採掘するのに最適な特殊性能を持っている。

 魔法石を傷つけず、その周囲を削り取る為の力を持っているのだ。

 つまり、このつるはしで魔法石を削ったり割ったりする事は出来ない。


 つるはしを手放し盾や剣を構えるか?

 しかし、剣でこの岩で出来た身体を砕けるだろうか?

 難しそうに見える。


 神秘盾ならこの岩を砕けるか?

 不可能では無い様に思える。

 だが、あまり適しているとも言えないだろう。

 特殊性能のおかげで骨を砕く力があるため誤認しがちだが、神秘盾は強力な打撃を与える為の武器ではない。あくまで滅茶苦茶重い盾なのだ。ハンマーのようには使えない。


 考えているうちにゴーレムの巨腕が何度も迫る。

 速さはともかく膂力は凄まじいのだろう。

 俺を掴み損ねた腕が迷宮の壁を砕き、クモの巣状の亀裂が走る。


 ゴーレムの巨腕を避け、つるはしを振るう。

 ゴーレムの右腕の指が二本飛んだ。身体の全てが魔法石というわけではないようだ。


(とりあえずつるはしで削れる部分を削るか)

(この迷宮を出たら、こういう魔物用の武器を買おう)


 まずは腕を出来るだけ削る。

 本当は足を削りたかったが、巨大な腕が邪魔で懐に入り込むのは困難だ。

 指には魔法石が無かったようだが、手の甲の部分にはぎっしり入っているようだ。


(この魔法石は全て繋がっているのか?)

(そうでないなら、切れ目を探して断ち切りたいな)


 手を指先から肩にかけて丸裸にする作戦だ。

 まずは表面の岩を削りきらない事には話は始まらない。


 俺の行動の意図に気付いたのかゴーレムが右腕を庇い、左腕を積極的に使い始めた。

 つまり、逆説的に右腕を削られ続けるのは都合が悪いんだろう。


『馬鹿が』


 俺は右腕を庇うゴーレムの左足を強打した。

 くるぶしの部分だ、想像以上にここには魔法石が使われていないらしい。

 一撃で大部分のパーツが吹き飛んだ、ゴーレムは当然バランスを崩す。


 転倒したゴーレムの背中に思い切りつるはしを叩きつける。

 多くの岩が砕け散ったが、探し物が見つからない。

 この魔物に同じ法則が当てはまるかは分からないが、通常のゴーレムなら魔石とは別に魂が宿る核とも呼べる部位があり、そこを砕く事によって止めを刺す事が出来るらしい。


 だから俺はゴーレムの身体を削ってそれらしき部位を探しているんだけど……。

 これは最悪のパターンかもなあ。

 ゴーレムの岩の肌を削った先、紫色の魔法石の中に核があった場合──魔法石をどうにかして割る必要が出てくる。途轍もなく面倒な作業になる、それだけは勘弁して欲しいが……。




 結局、ゴーレムの全身をくまなく削ったが核は見つからなかった。

 仕方がないので流星に祝福をかけ、魔法石の部分を八つ裂きにした。

 こういう、硬過ぎる相手には祝福をかけておけば大体何とかなるのは分かる。

 分かるんだけど、それをやっちゃうと剣や冒険者としての技量がいつまで経っても成長しない気がするんだよなあ。祝福が万能とは限らない、あまり依存し過ぎない様にしていきたい。



 ゴーレム産の魔法石や魔石、そして石箱を魔法の袋にしまった後食事休憩にした。

 石箱があるって事は……放浪個体だったんだろうな、こんなに頻繁に出会うものなんだな。

 出来るだけ手を出さずに報告を、とか言われてたけど……倒しちゃったし仕方ないよね?

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