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前世で友達0人だった僕、男女比1:100の異世界で友達を作ろうとしたら婚約者が100人を超えていた ~淑女たちはクール(※内心は絶叫)~  作者: 中原九尾
第一部 「友達になってください」は求婚でした

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第29話 背中が煤けてるぜ

【リツ視点】


 入学して104日目の休日。王国まーじゃん大会の本戦の日が来た。


 王都中央広場の真ん中に、卓が4台だけ並んでいる。7日前の予選では250台が並んでいた広場だ。今日はその4台を何千人もの人が囲んでいた。広場に面した建物の窓という窓から人が顔を出している。屋根の上にもいる。


 広場の入り口に白い馬車が止まった。


 降りてきたのはアルフォンスさんとエミールくんとノルベルトくん。後ろに館長さんが続く。


「リツ殿!」


 ノルベルトくんが手を振りながら駆けてきた。館の外だけど、もう誰も止めない。館長さんも止めなかった。何も持っていない右手を口元へ運びかけて下ろしただけだ。


「赤い! 今日も馬車が全部赤い!」


 エミールくんは両手で何かを大事そうに抱えていた。


 白い鳥の置物だった。足が長くて、くちばしの先に小さな布の包みをぶら下げている。


「エミールくん、それ」


「こうのとり、です。ヴァーレン商会の。お守りに」


 置物の台座に小さく字が彫ってあった。


『殿方の故郷の縁起物 子宝の鳥』


 僕はそっと目をそらした。


 殿方館の噴水の縁で、苦しまぎれに言った一言だ。それが14日で置物になっている。


「本店のいちばん目立つ棚にありました。母上にも、1つ送りました」


 ますます目をそらすしかなかった。


 アルフォンスさんは白い手袋をはめていた。僕が胸のポケットから手袋を出してはめ、右手を差し出すと、アルフォンスさんは少し考えてから自分の手袋を外した。


「殿方どうしの握手に、手袋は要らぬ」


「あ、そうですよね」


 僕も手袋を外した。


 素手で握手をした。アルフォンスさんの手は少し冷たくて指が長い。毎朝庭を走っているせいか、前より手のひらが硬くなっていた。


 素手で握手をしても、何の意味にもならない相手がいる。


 握手の本当の意味を知ってから、僕は誰かと握手するたびに少しだけ緊張していた。だから今は、それだけでなんだかすごく安心した。


 周りの何千人もが、同時に少しだけ揺れた気がした。


 *


 本戦は16人。4人ずつ4つの卓に分かれて半荘を1回打つ。午前は第1卓と第2卓、午後は第3卓と第4卓。卓で1位になった4人が明日の決勝に進む。


 くじを引くと、僕は第1卓だった。


 同じ卓はリゼットさんとノルベルトくん。それから東部警備隊のドーラさんだ。


 ドーラさんは鎧を着たまま座っていた。予選を勝ち抜いてきたらしい。砦の詰め所で、毎晩打っているのだという。


「リツ殿。本日は、全力でまいります」


 そう言って頭を下げた瞬間、ドーラさんの兜が卓の上に落ちた。


 これで1回目。


 リゼットさんは牌を並べる前から帳面を開いていた。右手にペン、左手で帳面を押さえている。牌はどうするんだろう。


 ノルベルトくんは椅子の上で小さく跳ねていた。


「殿方館では毎晩打ってるんだ。館長も入って」


 観覧席の館長さんが、また右手を口元へ運びかけた。


 *


 東1局。


 僕の手は早かった。6巡目で、あと1枚の形になる。


「リーチ!」


 1000点棒を卓に置いた。


 卓の空気が止まった。


 ドーラさんが背筋を伸ばして、僕の点棒をじっと見ている。


「……リツ殿。今、りーち、と声に出されましたか」


「あと1枚で上がれますよ、っていう宣言です」


「宣言。口に出して、でありますか」


 ドーラさんの声が少し低くなった。


「砦では、りーちは黙って点棒を置くものと教わっております。淑女が卓で声を上げるのは、はしたないので」


 そういえば予選の日も広場で「リーチ」と言っている人は1人もいなかった。点棒の置かれる音だけが、こつ、こつと鳴っていた気がする。


「殿方が声に出して宣言される。……りーちとは、宣戦布告でありますか」


「えっと、まあ、そんな感じです」


 ドーラさんは無言で立ち上がった。


 卓の上の兜を両手で持ち上げて、卓の角に逆さに置き直す。それから僕の点棒を兜の中にそっと移した。


「宣戦布告を受けた騎士は、兜を脱いで受けて立つのが作法です。……すでに脱げておりましたが」


 兜はそのまま点棒置きになった。ちょうどいい深さだ。


 僕のリーチは結局上がれなかった。流局して、兜の中の点棒は次の局に持ち越しになった。


 *


 東3局で、僕はリゼットさんの捨てた牌で上がった。


 リゼットさんは牌を切ったあとも帳面に何か書いていた。ペンを持ったまま、小指と薬指で牌をつまんで捨てる。器用だ。


 その牌が、僕の待っていた牌だった。


「リゼットさん、それ、ロンです。……御無礼」


 リゼットさんのペンが止まった。


 帳面の上で、ペンの先が細かく震えている。インクの点がだんだん大きくなっていく。


「……はい」


 リゼットさんは点棒を出して、それから帳面に何かを書いた。


 ちらっと見えた字が、すごく大きかった。


 *


 ノルベルトくんは強かった。


 東4局、ノルベルトくんは3回目の鳴きからすぐにツモで上がった。


「ツモ! 満貫!」


 大きな声だった。殿方は卓で喜んでも、はしたなくないらしい。


 殿方館で毎晩打っているだけあって、鳴くのが早い。迷いがない。東場が終わったときにはノルベルトくんがトップで、僕が2位だった。


「リツ殿、見てた? 館長にも、まだ3回しか負けてないんだ」


「すごいです!」


 ドーラさんも満貫を1回上がっていた。上がったときに小さく「……規定どおりです」と言っていた。何の規定かは、今日も分からない。


 僕はうれしくなって言った。


「ドーラさん、ナイスです。麻雀って、楽しいですよね!」


 ドーラさんの肘が卓の角に当たった。


 兜が地面に落ちる。中は空っぽだったので、からんと高い音がした。


 これで2回目。ドーラさんは黙って兜を拾い、もう一度卓の角に置き直した。耳が赤い。


 *


 南場に入って、ノルベルトくんがドーラさんに大きな手を振りこんだ。


「ロン。……跳満、であります」


 ノルベルトくんは椅子の背もたれにぐったりもたれて空を見上げた。背中が丸まって、肩が落ちている。さっきまでの元気がどこにもない。


 前世の麻雀漫画で、こういうときに言う台詞がある。


 一度でいいから、本物の卓で言ってみたかった。


「ノルベルトくん。背中が煤けてるぜ」


 ノルベルトくんはびっくりして、両手で自分の背中をばんばん叩いた。


「すすけてる? どこ? 馬車の煤?」


「あ、いえ、そういう意味じゃなくて」


「エミール! 背中、黒い?」


 観覧席のエミールくんが、コウノトリを抱えたまま首を横に振った。


 ドーラさんの兜がまた落ちた。


 3回目だ。


 *


 オーラス。


 ノルベルトくんとの点差は少しだけ。僕が上がれば逆転できる。


 ノルベルトくんが切った牌で、僕は手牌を倒した。


「ロン。……御無礼」


 ノルベルトくんは一瞬だけ悔しそうな顔をして、それから笑った。


「リツ殿。GG」


「GG!」


 卓の周りの何百人もが、同時に座りこんだ。


 *


 昼の休憩のとき、学園長が僕のところへ来た。


「リツ殿。1つ、伺ってもよろしいですか」


「はい」


「殿方の故郷では、大きな手を狙うときに何か唱える言葉はございますか」


 学園長の顔はいつもどおりだ。でも声がほんの少しだけ弾んでいる気がする。7日前、部室で笑った顔を見てしまったからかもしれない。


「えっと……点数を倍にしたいときなら、『倍プッシュ』ですかね」


「ばい、ぷっしゅ?」


「勢いで言う言葉です。意味は、あんまりないです」


「勢い?」


 学園長はうなずいて、午後の第3卓へ歩いていった。


 *


 夕方、全部の卓の結果が広場の掲示板に貼り出された。


 第2卓はアルフォンスさんが1位。同じ卓にはエミールくんと、掲示板によると『クラリッサ(王都婚姻院)』という人がいたらしい。


 第3卓は学園長が1位だった。倍満を上がる前に、本当に言ったそうだ。


「倍、ぷっしゅ」


 同じ卓の3人が、同時に後ろに倒れたらしい。勢いは伝わったみたいだ。


 最後の第4卓の1位は、名前のところにこう書いてあった。


『灰色の淑女』


 灰色のフードをかぶった人だった。展覧会で会った、女王様によく似た人だ。後ろには顔に古い傷のある背の高い人が立っていて、誰かが近づくたびに「失礼いたします」と頭を下げている。あの人も展覧会で見た気がする。


「あの人、麻雀も強いんですね」


 2歩後ろで、イルゼさんの手袋の革がきゅっと鳴った。


 振り返ると、イルゼさんは広場の空を見ていた。雲ひとつない空だった。


――――――――――――――――――

【リゼット視点】


 学園新聞部、部長。部員1名。


 遊戯部、部員。


 本日、わたしは号外を5号書いた。


 1日で。


 *


 朝いちばんに、広場の隅に臨時の印刷台を据えた。


 コルネリアの商会から借りた小さな手刷りの機械である。貸し賃は「号外の隅に商会の名を1行」。商人の娘は部員仲間にも値札をつける。


 殿方館の白い馬車が着いたのが、朝の9時。第9号を刷り上げたのが9時40分。


  セレスタ学園新聞 号外 第9号(速報)

  見出し:本戦開幕 殿方館より殿方3名、王都の地を踏む

  殿方館の殿方3名が本日の王国まーじゃん大会の本戦に特別枠として出場された。殿方館の殿方が公の場で遊戯に加わるのは、記録に残る限り初めてのことである。

  殿方アルフォンス殿と殿方リツ殿は手袋を外して握手をされた。殿方どうしにつき、婚姻院への届けは要しない。

  なお殿方エミール殿は、ヴァーレン商会の「子宝の鳥」の置物を持参された。

  (印刷機の貸与:ヴァーレン商会)


 刷ったら配る。配ったら観覧席。観覧席から掲示板。掲示板から印刷台。そしてまた観覧席。


 帳面の端に広場を回った数の線を引いていたが、昼前に数えるのをやめた。5本ひとかたまりの線が8つを超えたあたりで。


 *


 卓の組み合わせはくじで決まった。


 わたしは殿方の卓を引いた。


 記者として、これほどの幸運はない。真正面から殿方の打ち筋を書き取れる。


 ただ、問題が1つあった。打ちながら書くと、手が足りない。


 わたしは左手で帳面を押さえ、右手でペンを持ったまま牌を小指と薬指で切った。


 東1局、殿方が「りーち!」と声に出された。


 この国の淑女はりーちを黙って点棒で示す。声に出すのは殿方だけだ。副官殿は「宣戦布告でありますか」と聞いて、兜を点棒置きにされた。


 わたしは帳面に『殿方、宣戦を布告さる(東1局)』と書いた。書いてから盛りすぎだと思った。消しはしない。


 *


 東3局。


 わたしはペンを持ったまま、牌を1枚切った。


「リゼットさん、それ、ロンです。……御無礼」


 殿方が、わたしの名を呼んで、わたしの捨てた牌で、わたしに御無礼とおっしゃった。


 落ち着け、わたし。


 記者は事実だけを書く。


 事実:殿方に、御無礼された。


 見出しだ。見出しを立てろ。


『本紙記者、御無礼さる』


 ちがう。


『御無礼、ついに本紙に』


 ちがう。


『殿方、名を呼んでから御無礼 その間わずか』


 測っていない。


『記者リゼット、殿方の点棒となる』


 点棒になってどうする。


『御無礼の正面、その景色』『第2号の続報 御無礼、実は論評できる』『東3局の衝撃』『本紙、ロンされる(本紙のみ)』『殿方の御無礼、右からか左からか(正面からであった)』


 全部ちがう。全部、わたしの私事だ。記事ではない。日記である。しかも見出しにしたら、いちばん売れるのは日記のほうだ。


 10本立てて、9本ボツにした。


 残った1本を帳面に書いた。


『第1卓東3局、殿方リツ殿、上がられる』


 事実である。これが記事だ。


 ただ、字が大きかった。


 『第1卓』まではいつもの大きさ。『東3局』で少し大きくなり、『殿方リツ殿』で倍になって、『上がられる』は行からはみ出している。


 次の行に『御無礼』と書こうとした。


 『御』の1文字で、ページがいっぱいになった。


 点棒は払った。ちゃんと払ったはずだ。手が震えて、1本を副官殿の兜の中に落としたけれど。副官殿は黙ってそれを拾い、わたしに返してくださった。


 東3局からあとは、牌がインクだらけ。南2局では、自分が何を待っているのかも分からなくなっていた。


 わたしは4位だった。


 記者としては、勝ちである。


 *


 南場では、殿方ノルベルト殿が副官殿に大きな手を振りこまれた。


 背もたれにもたれて空を見上げたノルベルト殿に、殿方リツ殿が何かおっしゃる。ノルベルト殿は背中を叩いて煤を探し、副官殿の兜はまた落ちた。


 昼の休憩のあいだに、わたしは印刷台まで走った。


  セレスタ学園新聞 号外 第10号(速報)

  見出し:殿方いわく「背中が煤けてるぜ」

  殿方リツ殿は、殿方ノルベルト殿が大きな手を振りこまれた際に「背中が煤けてるぜ」と述べられた。

  ノルベルト殿はご自身の背中を叩いて煤を探されたが、煤はなかった。観覧席のエミール殿も、なかったと証言している。

  殿方に伺ったところ、背中が丸まり肩が落ちた、運に見放された者の姿を言い表す殿方の故郷の言い回しとのこと。

  なお殿方は同卓の東部警備隊副官ドーラ殿に「まーじゃんって、楽しいですよね」とも述べられた。副官殿の兜は、本日3度落ちた。

  第1卓の1位は殿方リツ殿。本紙記者は4位。


 最後の1行は、書かなくてもよかった。でも事実である。


 *


 観覧席に、気になる椅子が3つあった。


 卓のすぐ横の、いちばんよく見える場所だ。


 1つには婚姻院の院長が座っていた。60歳を過ぎた、静かな方である。


 1つにはローデ家の隠居が座っていた。ロジーナの祖母だと、ロジーナが教えてくれた。ロジーナは観覧席の後ろのほうで両手で顔を覆っていた。祖母に見つかったのか、見つかりたくなかったのかは分からない。


 3つ目の椅子は空いていた。


 午後、学園長はご自分の卓の半荘を終えると、その椅子のところへ歩いていかれた。


 院長が何か言う。隠居が何か言う。


 学園長が笑った。


 声を出して、肩を揺らして。


 学園で40年、表情を一度も変えたことがないと言われる方が。


 帳面を開く。ペンを持つ。


 頭の中で、11本目の見出しが立ちかけた。


 わたしはそれが立ち上がる前に、ペンを置いた。


 これは、号外にしなくてもいいことだと思った。


 *


  セレスタ学園新聞 号外 第11号(速報)

  見出し:学園長、「倍、ぷっしゅ」と発せられる

  学園長オティーリエ殿は第3卓にて倍満を上がられた。上がる前に「倍、ぷっしゅ」と発せられた。昼の休憩中に殿方から教わった言葉とのこと。

  同卓の3名は同時に後方へ倒れた。

  意味については、殿方も「勢いで言う言葉です」としか説明されなかった。

  また午前の第2卓では、殿方アルフォンス殿が婚姻院のクラリッサ殿から上がられ、「……御無礼」と発せられた。クラリッサ殿は「受付の仕事より重い」と述べて眼鏡を外して目元を押さえられた。


 *


 第4卓の「灰色の淑女」については、何も書かなかった。


 書く必要がなかった。広場の全員が分かっていたからだ。


 灰色のフードの下から黒い髪がのぞいている。背筋がまっすぐで牌を切る手に迷いがない。その後ろには顔に古い傷のある背の高い付き添いが立っている。付き添いは誰かが近づくたびに「失礼いたします」と言った。


 何千人もの淑女が全員で淑女の平静を保ち、全員で気づかないふりをしていた。


 この国の淑女の、いちばん見事な平静だったと思う。


 ただ殿方だけは、本当に気づいておられなかった。


「あの人、麻雀も強いんですね」


 わたしはその一言だけを、帳面に書いた。普通の大きさの字で。


 *


 半荘のあとで、灰色の淑女は観覧席のほうを見た。


 3つ目の、空いた椅子を。


 それから学園長のほうを見た。学園長は小さくうなずかれた。


 灰色の淑女はフードの奥で何かを言った。わたしの席からは聞こえない。ただ、口の動きは見えた。


 たぶん「母上の席か」だったと思う。


 *


  セレスタ学園新聞 号外 第12号(速報)

  見出し:決勝の4名、決まる

  殿方リツ殿(セレスタ学園)

  殿方アルフォンス殿(殿方館)

  学園長オティーリエ殿(セレスタ学園)

  灰色の淑女(所属:通りすがり)

  決勝は明日、同じ会場にて行う。半荘2回、合計の点数にて優勝を決める。


 *


 夕方、もう1つ知らせが入った。


 決勝の卓に使う机が変わるという。


 学園長が大会の主催者に申し出られたそうだ。主催者のコルネリアはその場で承知した。灰色の淑女の付き添いもどこかへ走っていき、すぐに戻ってきて「承知とのことです」と言った。


 決勝で使う机は、セレスタ学園遊戯部の部室の机。


 天板に古い傷のある、あの四角い机だ。


 わたしたちが雑巾がけ競争をした床の、すぐ横にあった机である。


 *


  セレスタ学園新聞 号外 第13号(速報)

  見出し:決勝の卓は、遊戯部の机

  決勝の卓には、セレスタ学園遊戯部の部室の机が用いられる。

  天板には古い点数の刻みと4つの印がある。冠。筆。鍵。笑った顔。

  印の由来について、学園長は「昔の生徒のいたずらです」とのみ述べられた。

  机は明朝、殿方の専属護衛官殿が広場まで運ばれる予定。

  なお観覧席の3つ目の椅子は、明日も空けておくとのこと。


 *


 5号目を書き終えたのは夜中だった。


 新聞部の部室で帳面を閉じた。


 机が1つと椅子が1つ。印刷機と紙の束。


 それから、壁に貼った号外が13枚。


 第1号は入学初日の夜に書いた。「殿方、入学初日に『友の契り』を公募」。あのころは殿方のことを書くのが記者の務めだと思っていた。


 今日、わたしは殿方と同じ卓で打って4位だった。


 インクのついた牌で、何を待っているのかも分からなくなって。


 それでも楽しかった。


 帳面をもう一度開いた。『御』の1文字のページは、閉じても開いても『御』のままだ。


 その次のページに、1行だけ書いた。号外には載せない1行だ。


 『明日の決勝は記者として見る。それから部員として応援する』


 今度は、字は大きくならなかった。


 遊戯部の部員は、わたしを入れて4人である。

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