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前世で友達0人だった僕、男女比1:100の異世界で友達を作ろうとしたら婚約者が100人を超えていた ~淑女たちはクール(※内心は絶叫)~  作者: 中原九尾


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第11話 王都の休日

【リツ視点】


 入学して29日目。3回目の休日に、僕は初めて王都の街を歩いた。


 走り抜けたことなら1回ある。殿方館の帰りに、第88条を逆に覚えたまま全力で。あれは歩いたうちに入らない。


 学園長のオティーリエ先生が外出許可を出してくれたのだ。


「殿方館への訪問で、外出の手順には慣れたでしょう。護衛官の同行を条件に許可します」


 許可証には「人目につく行動は控えること」と書いてあった。もちろん守るつもりだ。僕は律儀の律なので。


 案内役はコルネリアさんにお願いした。王都の商会の娘だから、街のことなら何でも知っているはずだ。


 前の日の放課後に声をかけると、コルネリアさんは3秒固まってから「……承りましたわ」と言ってくれた。開いたままの帳面に、ペン先から黒い点がぽたりと落ちていた。


 *


 学園の門を出たところで、足が勝手に前へ出かけた。


 石畳がまっすぐ続いている。走ったら、さぞ気持ちがいいだろう。


 でも、ここは館の外だ。


 アルフォンスさんに教わった。僕の館は学園で、門の内側なら走っていい。門を1歩出たら、もう走ってはいけない。この前は逆に覚えていたせいで、王都の大通りを全力で走ってしまった。今日はちゃんと分かっている。


「イルゼさん。僕、今日は走りませんから」


「……承知しております」


 返事がいつもより少しだけ早かった。


 目の前を馬車が走り抜けていった。


 赤かった。


 次に来た馬車も赤い。その次も。乗合馬車も荷馬車も、どこかのお屋敷の馬車も、みんな赤い。


「コルネリアさん、王都の馬車って全部赤いんですか」


「……最近、流行っておりますの」


「へえ。この国の人も赤が好きなんですね」


 御者の女の人が手綱を振りながら叫んでいた。


「赤いんだから3倍で走りな!」


 すごい。この国にも、赤いと3倍という考え方があるらしい。前世で見たアニメと同じだ。


「じゃあ王都の馬車は、全部通常の3倍なんですね!」


 コルネリアさんは何も言わずに少しだけ早足になった。3mの間隔が、3m半になった。


 *


 大通りには店がずらりと並んでいた。


 布屋に雑貨屋に八百屋。どの店の前も人でいっぱいだ。


 ただ、僕が通ると道が開く。


 前を歩く人たちが、波が引くみたいに両側へよけていく。誰も僕を見ない。正確には、僕の頭の少し上を見ている。学園と同じだ。王都にも3mの決まりがあるのかもしれない。


 1軒だけ、よけきれないほど長い行列のできている店があった。


 パン屋だった。軒先に新しい木の看板が下がっている。


『殿方と同じパン 学園御用達』


「あ、これ」


 僕は看板を見上げた。


「僕が毎日食べてるパンだ」


 店の奥で、焼きたてのパンを棚に並べていた店主さんが止まった。両手に1つずつパンを持ったまま、棚ごと固まっている。行列の人たちも全員そろって前を向いたまま、動かなくなった。


 学園の食堂のパンは、ここで焼いていたのか。毎朝おいしいので、いつかお礼を言いたいと思っていた。


「いつも、ごちそうさまです!」


 店主さんの両手から、パンが1つずつ落ちた。


「……次へ、参りましょう」


 コルネリアさんがいつもより早口で言った。


 *


 大通りの角を曲がると、女の子たちが遊んでいた。


 5人くらいだ。1人が小さな木の盾を構えていて、ほかの子は両手の人差し指を頭の上に立てている。ツノのつもりらしい。


「ぶもー!」


 ツノの子たちが突進する。盾の子は足をふんばって叫んだ。


「ここは、わたしに、まかせて! みんなは、さきに!」


 そして盾ごと、きれいに後ろへ転がった。


「ふっとんだー!」


「ほんものも、ふっとんだんだってー!」


 子どもたちはきゃあきゃあ笑いながら、また最初から始めた。


「たてのとのがた、やるひとー!」


「はーい!」


 盾を構えて前に出て、仲間を先に行かせる。そして吹っ飛ぶ。


 ……タンクだ。


「コルネリアさん! この国にもタンクの文化があるんですね!」


「……たんく?」


「みんなの前に出て、盾で攻撃を引きつける役です。この国にも、昔そういう殿方の英雄がいたんですか?」


 コルネリアさんは少し間を置いてから答えた。


「……最近の、英雄ですわ」


 最近。


 じゃあ、僕のほかにも盾を持って前に出る殿方がいるのだ。しかも、ちゃんと吹っ飛んでいる。タンクは吹っ飛ぶものだと、僕もこの前、身をもって知った。


「会ってみたいなあ。友達になれそうな気がします」


 イルゼさんがなぜか空を見上げた。


 盾の裏に、小さな焼き印が押してあるのが見えた。字は読めなかった。


 *


 大通りの途中に、剣と盾の絵の看板が出ていた。


 武器屋だ。


 本物の、武器屋だ。


「コルネリアさん! あそこ、入ってもいいですか!」


 コルネリアさんが振り返ってイルゼさんを見た。イルゼさんが小さくうなずいた。


 店の中は鉄と油の匂いがした。壁に剣がずらりと並んでいる。槍もある。盾もある。奥には鎧が飾ってある。


 カウンターの向こうで、がっしりした体格のおかみさんが布で剣を磨いていた。


「いらっしゃ……」


 おかみさんの手から布が落ちた。


 僕は棚の短剣を手に取った。ずっしり重い。ゲームでは軽々と振り回していたけれど、本物は重い。


 前世のゲームで何百回も見た台詞を思い出した。


「武器や防具は、装備しないと意味がないぞ」


 おかみさんが目を見開いた。


「……殿方が、装備を……」


「あ、いえ、故郷の言い回しで。買ったら、ちゃんと持たないとだめだよっていう」


「リツ様」


 イルゼさんが2歩後ろから静かに言った。


「殿方は、武器をお持ちになれません。男性保護法第14条です」


「そうなんですか」


 残念だ。でも決まりなら仕方ない。


 僕は短剣を棚に戻した。


「すみません、見るだけで。いいお店ですね!」


 おかみさんは何も言わずに、カウンターの下へゆっくり沈んでいった。


 しゃがんで何かを探しているのだと思う。


 *


 広場へ向かう途中の道ばたに、紙を並べた露店があった。


 見出しに見覚えがある。


『殿方いわく「赤は3倍速い」』


『まーじゃんのすべて』


 リゼットさんの号外だ。学園で配っていたものを、誰かが1枚ずつ手で書き写したらしい。四角い九筒の絵まで、ちゃんと写してある。値札には「1枚 銅貨2枚」。


「これ……海賊版だ」


「かいぞく?」


「勝手に写して売ってるやつです。リゼットさんに教えてあげないと」


 でも、ちょっとうれしかった。部員1人の新聞部の記事が、王都でこんなに読まれている。


 露店のおばあさんは僕を見ると、並べた紙を1枚ずつ、ていねいに裏返していった。


 *


 大通りを抜けると、噴水のある広場に出た。


 広場の入り口に、腕章をつけた女の人が立っていた。大きな荷物を背負った旅人に、はきはきと言っている。


「ここは王都ルーメリアの中央広場です」


 僕は思わず立ち止まった。


 本当に言う人がいた。


「……村人Aだ」


 小さな声が出た。ゲームの街の入り口には、必ず同じことを教えてくれる人がいる。殿方館の門番さんは何も言ってくれなかったので、異世界に来て1か月、やっと会えた。


 案内係の人は僕に気づくと、口を開けたまま固まった。次の旅人が来ても、もう何も言わない。


 村人Aが、止まってしまった。


 *


 広場の周りには茶店が並んでいて、どの店でも、女の人たちが4人ずつ卓を囲んでいた。


 卓の上には小さな白い牌。


「……麻雀だ」


 コルネリアさんの肩がびくっと跳ねた。それから早足で茶店の入り口へ向かい、看板の前で止まった。ちょうど体がかぶさる位置だ。看板の端に「まーじゃん」の字だけが見えた。この国では、麻雀をそう呼ぶらしい。


 萬子と筒子と索子。字牌。僕が厚紙で作ったのと同じ絵柄が、骨と竹の立派な牌に彫られている。


 店の奥から声がした。


「ロン。……御無礼」


 御無礼まである。


「コルネリアさん! この国にも麻雀があったんですね! 御無礼まで!」


「……そ、そのようですわね」


 一番近い卓をのぞきこんで、僕は気がついた。


 九筒の丸が、少しだけ四角い。


「この九筒、丸がちょっと四角いですね」


 卓の4人がいっせいに固まった。


「僕も九筒を描くと、こうなっちゃうんです。この国にも、僕と同じ癖の人がいたんだなあ」


 うれしかった。


 会ったこともない誰かと、同じところでつまずいている。それだけで、この国が少し近くに感じられた。


 *


 広場の向こうの大きな石造りの建物の前に、女の人の長い行列ができていた。100人はいるだろうか。みんな手に紙を持っている。


「あそこ、人気のお店ですか? すごい行列ですね」


 イルゼさんとコルネリアさんが、同時に答えた。


「役所です」


「役所ですわ」


 そろっていた。


 そういえば、異世界の大きな街には冒険者ギルドがあるのが定番だ。依頼の貼り出された掲示板があって、受付のお姉さんがいて。


「コルネリアさん、この街に冒険者ギルドってありますか?」


「ぼうけんしゃ……?」


「魔物を倒す依頼を受ける所です」


「それは、騎士団の仕事ですわ」


 ないらしい。ちょっと残念だった。


 行列の先の建物には看板がかかっていた。読もうとしたら、イルゼさんが僕の前にすっと立った。


「リツ様。そろそろ、お茶の時間です」


 *


 帰り道に屋台で飴を買った。


 王国からもらっている殿方手当で、小さな丸い飴を5つ。赤いのを1つと黄色いのを4つ。


「今日の案内のお礼です。赤いの、どうぞ」


 コルネリアさんは飴を見つめたまま動かなかった。


「……これは、リツ殿が、お作りに?」


「いえ、屋台で買ったやつです」


「……そう、ですの」


 少しほっとしたような、少しがっかりしたような顔だった。気のせいかもしれない。コルネリアさんは両手で飴を受け取って、ハンカチに包んでしまった。


 食べないのかな。


 イルゼさんにも1つ渡した。イルゼさんは「任務中ですので」と言って胸のポケットにしまった。


 残りのうち2つは、リゼットさんとロジーナさんの分だ。最後の1つは僕が食べた。


 甘かった。


 初めての王都は、赤くて、にぎやかで、麻雀があって、盾を持った子どもたちがいた。


 1回も走っていない。


 いい国だと思う。


――――――――――――――――――

【コルネリア視点】


 ヴァーレン商会の三女、コルネリア。


 本日、わたくしは殿方の案内役という大役を務めた。


 同時に、隠し事を4つ抱えていた。


 *


 隠し事その1。王都の馬車が赤いのは、わたくしの家の早馬車とリゼットの号外のせいである。


 隠し事その2。赤い塗料の4割は、ヴァーレン商会の取引先から出ている。


 隠し事その3。広場で流行っているまーじゃんは、ヴァーレン商会が売り出したものである。


 隠し事その4。茶店の看板には、大きくこう書いてある。


『殿方考案の遊戯 まーじゃん』


 殿方が看板を読んだら、全部終わる。


 前の晩、わたくしは寮の部屋に王都の地図を広げて、広場を通らない道順を3通り考えた。3通りとも、殿方が「噴水が見たい」とおっしゃったら終わる道順だった。


 *


 案内を頼まれたのは前日の放課後である。


「コルネリアさん、明日、王都を案内してもらえませんか」


 殿方が。わたくしに。頼みごとを。


 落ち着きなさい、コルネリア。これは商談である。殿方はお客様。わたくしは案内人。案内料は……いただけない。いただけるわけがない。では何だ。何なのだ、これは。


 答えが出るまで3秒かかった。


「……承りましたわ」


 帳面には、インクの染みが1つ残った。


 *


 馬車は覚悟していたとおりだった。


「この国の人も、赤が好きなんですね」


 好きなのではない。あなたが赤を3倍にしたのだ。


 御者が「赤いんだから3倍で走りな」と叫んだときは、心臓が止まるかと思った。殿方は「全部通常の3倍なんですね!」とおっしゃった。


 全部ではない。ヴァーレン商会の早馬車は、4倍を目指している。


 わたくしは足を速めた。3mは保ったつもりである。あとで歩幅で数え直したら、3m半あった。商人の娘が、寸法を半mも測り違えた。王都の石畳が悪い。そういうことにしておく。


 *


 パン屋は、当家とは関係がない。


 学園の食堂にパンを卸している大通りの店である。入学の日、殿方と同じパンがその日のうちに売り切れたことは、わたくしの帳面にも「需要、極めて大」と書いてある。書いただけで、何もしなかった。


 パン屋は自力で看板を出した。


 商人として、少しだけ悔しい。


 そこへ殿方が「僕が毎日食べてるパンだ」とおっしゃった。看板の文句が、ご本人の口で本当になった。その上「いつも、ごちそうさまです」。店主が棚の前で固まるのは当然である。明日から、あの店の行列は倍になる。わたくしの見立てでは2.5倍。


 隠し事ではないので、これは数えない。


 *


 隠し事その5は、大通りの角で見つかった。


 子どもたちの、たてのとのがたごっこである。


 野外実習の件は号外にならなかった。それでも王都に届いた。学園の生徒は180人。180の家に手紙が届けば、届かないほうがおかしい。殿方が淑女の前に立ち、盾を構え、「ここは僕に任せて」とおっしゃった。古い恋歌の最後の一節とほとんど同じ言葉である。この国の淑女で、あの歌を知らない者はいない。子どもでさえ知っている。


 その遊びを、ご本人が見ておられる。


 落ち着きなさい、コルネリア。子どもの遊びである。商いとは関係が……。


 盾の裏に焼き印があった。


 ヴァーレン商会の印だった。


 本店の玩具部が、わたくしに一言の相談もなく、子ども用の木の盾を売り出していたのである。知らなかった。知らなかったが、今知った。知った以上、これは隠し事である。


「この国にも、たんくの文化があるんですね!」


 殿方は目を輝かせておられた。そのたんくの元祖が誰なのか、ご存じない。


「この国にも、昔そういう殿方の英雄がいたんですか?」


 昔ではない。19日前である。


「……最近の、英雄ですわ」


 嘘は言っていない。言っていないのに、帳面を持つ指が湿った。


 殿方は「会ってみたいなあ」とおっしゃった。


 鏡をお持ちすればよかった。


 *


 武器屋では、おかみさんがカウンターの下に沈んでいった。


 殿方が、短剣を、手に。「装備しないと意味がないぞ」と。


 あのおかみさんも、盾の殿方の噂は知っていたはずである。その殿方が、今度は自分の店で剣を手に取った。それは沈む。わたくしでも沈む。


 *


 号外の写しの露店については、わたくしは何も知らない。


 本当に知らない。誰が写し、誰が売り出したのか。1枚銅貨2枚という値付けが、少し安すぎると思っただけである。


 殿方は「かいぞくばん」とおっしゃった。勝手に写して売るもの、という意味らしい。殿方の故郷では、それを海の賊と同じ名で呼ぶ。厳しい国である。


 リゼットに伝えるべきか、考えた。記者として怒るか、喜ぶか。たぶん両方である。


 *


 問題は広場である。


 殿方が噴水を見たいとおっしゃった。3通りの道順は、3通りともそこで終わりである。


 入り口では案内係が「ここは王都ルーメリアの中央広場です」と旅人に告げていた。殿方は立ち止まって「……むらびとえー」とつぶやかれた。意味は分からない。案内係は殿方に気づくと、口を開けたまま広場の名を言わなくなった。本日の午後に着いた旅人は、そこがどこなのか分からなかったと思う。


「……麻雀だ」


 終わった、と思った。


 わたくしは茶店の入り口へ急いだ。


 落ち着きなさい、コルネリア。相場は逃げない。看板の文字は12。わたくしの背丈で隠せるのは7文字。「殿方考案の遊戯」の7文字を隠せば、残りは「まーじゃん」の5文字。残り5文字は運に任せる。


 殿方は看板をご覧にならなかった。卓をのぞきこんでおられた。


 店の奥で誰かが「ロン。……御無礼」と言った。殿方の顔が、ぱっと明るくなった。


「この国にも麻雀があったんですね! 御無礼まで!」


 あった。


 3週間前から。


 殿方はご自分が考えたものだと気づいておられない。わたくしは胸の内で初代に詫びた。儲けたときこそ、客に頭を下げよ。わたくしは今、お客様に隠し事をしている。それも5つ。


 そして殿方は、九筒に気づかれた。


「この九筒、丸がちょっと四角いですね」


 四角い。


 当然である。わたくしが発注書に「九筒の丸は、少しだけ四角く」と書いたのだから。殿方の手描きを、職人に一筆ずつ写させたのだから。


「この国にも、僕と同じ癖の人がいたんだなあ」


 いない。


 あなたしかいない。


 殿方はうれしそうに笑っておられた。会ったこともない誰かと同じ癖を分け合っている、と信じて。その誰かがご自分だとも知らずに。


 わたくしは看板の前に立ったまま、淑女の平静を保った。保ちながら、少しだけ胸が痛んだ。


 *


 婚姻院の前の行列は予定外だった。


 あれは婚姻法第3条の問い合わせの列である。殿方の卵焼きはどこで手に入るのか、と尋ねる淑女が毎日100人並んでいるという。


 殿方は「人気のお店ですか」とおっしゃった。騎士様とわたくしは同時に「役所です」と答えた。


 看板は騎士様が体で隠した。騎士様の背丈は、わたくしより頭ひとつ高い。看板が丸ごと隠れた。


 うらやましかった。


 *


 帰り道に、殿方から飴をいただいた。


「今日の案内のお礼です。赤いの、どうぞ」


 わたくしは婚姻法第3条を頭の中で読み上げた。


 殿方が、手ずから作った食を、淑女に分け与え。


 手ずから、作った。


「……これは、リツ殿が、お作りに?」


「いえ、屋台で買ったやつです」


 屋台。手ずからではない。第3条には当たらない。


 ほっとした。


 ほっとしたのと同じくらい、がっかりした。


 自分でも、どちらが本当の気持ちなのか分からなかった。


 *


 その夜、わたくしは帳面を開いた。


  殿方取り分

  まーじゃん牌の売り上げ(3週間):1200組

  赤い塗料の売り上げ:前回より増加

  子ども用の木の盾:本日判明。本店に照会中

  現在の積立額:金貨14枚、銀貨30枚

  本日の案内料:受け取らず

  代わりに受け取ったもの:赤い飴1つ

  金額:家宝


 最後の行を見て、ペンが止まった。


 金額の欄である。値段を書く欄に、気がつくと「家宝」と書いていた。家宝は値段ではない。直そうとしてペン先を置くと、インクがじわりと広がって、「家宝」の2文字を丸く囲んだ。


 直すのはやめた。


 引き出しを開けて、白紙の申請書の封筒の隣に、ハンカチに包んだ赤い飴を置いた。


 食べられるわけがない。


 隠し事が、6つになった。

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