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災悪のアヴァロン【書籍7巻 コミック10巻 発売中!】  作者: 鳴沢明人


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180 丘の上の徒競走

 長い槍の、深く(えぐ)るような高速多段突きをバックステップで躱し、次に左右から迫る斬撃の隙間に体を滑り込ませてカウンターを狙う。しかし俺の斬撃は別の奴が受け流し、逆にカウンターまで仕掛けられる始末。

 

 個々を見れば今の俺のレベルには届いていない冒険者集団。魔力も武装も特別なものは無く、想定内のものばかり。だが高い対人経験と集団戦経験を積んでいるせいなのか、俺の変則的な動きにも急速に対応してきている。おかげで防御に回る時間が増えてしまっている。

 

(こりゃ、俺一人だったら苦戦してただろうな)


 怒り任せに俺だけで突撃していたらどうなっていたことか。一応奥の手はあるしそれを使えば勝てると思ってはいたが、これだけの冒険者集団が相手では事故率が高くならざるを得ず、勝率は五分あったかどうかも怪しい。無論“俺が一人だったら”の話である。

 

 後方に目を向ければ紫電を(まと)った真っ白い蜘蛛(アラクネ)が八本脚のうちの四本で斬撃を受け止めながら、口から吐いた糸で一度に数人を絡め捕ってブンブンと振り回していた。かなりお怒りのようで今にも殺しかねないほどの殺意を振りまいている。これはもう一度、確認しておくべきだろう。

 

『アーサー! 絶対に殺すなよっ!』

『分かってるさ! くそっ、(あきら)ちゃんのためとはいえ、こんなやつらっ!』


 天摩さんが負傷していると知らせるや「すぐに場所を教えろ! ぶっ殺してやる!」と怒りまかせの返信を何通もしてきたアーサー。元の世界では彼女のファンクラブのリーダーまで務めていたくらいだ。俺ごときでは推し量れないものもあるのだろうが、それは悪手でしかない。

 

 相手が神聖帝国のような話の通じない奴らならともかく、向こうは交渉を望んでいる狙いが見え隠れしている。それが証拠に黒執事達は負傷こそすれ死者は誰一人でていない。にもかかわらず、こちらから先に殺しをしてしまえば交渉する余地を潰してしまい、捕まっている天摩さんや黒崎さんにも危険が及ぶ可能性が一層高くなる。

 

 あくまで俺達の最優先目標は仲間を無事に奪還すること。せめてこいつらのボスを引きずり出して真意を聞くまでは不殺でいくべき。お前(アーサー)の実力を(もっ)てすればそれくらい可能なはずだ。

 

 追ってくる冒険者との距離を横目で確認しつつ、破裂音と共に飛んでくるウェポンスキルを横っ飛びで躱しながら我がライバル、アーサーの戦いっぷりを観察する。すると細長い脚と上半身である人間の腕を十全に使い、苛立ちをぶつけるように殴り飛ばしていた。ちゃんと不殺で戦ってくれて何よりだ。

 

 しかしアラクネというやたら手足が多い特殊な体を、ああも器用に扱えるのは何気に凄いことではなかろうか。体のバランスも大きく異なるわけで、どんな感覚なのか気にはなるが、このままどんどん敵の数を減らしていってもらいたい。


 俺も当然不殺でいくつもりだが、骨くらいは砕かせてもらおう。背中に向けて放たれた斬撃を伏せるようにして躱し、要所で反転して順に峰打ちで戦闘不能にさせていく。

 

 そうやってすべてが順調――にいくかと思われたが、問題というものは意図せぬ方向からやってくるものである。

 

(何でお前までいるんだよっ!)

 

 遠くでチーちゃんがびっくりするくらいの速度で冒険者集団を引き離して魔法戦に持ち込んでいたのは確認していたのだが、気付けばその隣で我が妹――仮面を被っているが間違いない――も並走しているではないか。

 

 他にも顔を隠した二人の少女が参戦している。断定はできないが一人は大きな杖を持ち、おさげ髪なのでサツキだと推測できる。アーサーが連絡したのだろう。

 

 早速合流してチーちゃんと共闘してくれるのか……と思いきや、それは最初だけ。いつの間にか華乃とチーちゃんは砂ぼこりを上げて共に物凄い速度であらぬ方向に走り去ってしまった。どこへ行ったのかと思えば、戦うわけでも敵を引き付けるわけでもなく、丘をぐるりと回って並走しているだけである。もしかしたら俺の知らない巨大魔法陣でも描いているのかもしれない。


 しかしそのせいでサツキともう一人の少女が置き去りになり、冒険者達に追いかけられるハメになってしまっている。心配になってハラハラしながら横目で見ていたら、後頭部目掛けて飛んできた斬撃が直撃しそうになり、慌てて首を引っ込めて間一髪で回避。このクラスの斬撃は当たれば簡単に首が落ちるので痛いでは済まされない。


 バランスを崩したためとっさに草原へ飛び込むように転がると、即座に多方向から斬撃が殺到してきた。流れ出る冷や汗すら拭けないほどの防戦一方になってしまうが、サツキ達をこのまま放ってはおくことはできない。天摩さんを助けに来たらサツキが死んでしまった、なんてことがあれば本末転倒。絶対にあってはならぬことである。

 

 一瞬の隙を突くように急遽反転。直角に曲がるフェイントを入れつつ、全速力で引きはがしながらサツキの方を見れば、もう一人の少女のほうが足が遅いらしく、半ば引きずられるようにして走っているのが確認できた。あれでは追いつかれるのも時間の問題だ。

 

 上がる息を落ち着かせる暇もなく、無理やり足に活を入れて加速。サツキ達を追いかけていた冒険者の背後から飛びかかって殴り飛ばし、隣にいた冒険者も蹴り飛ばす。そして残り少なくなった魔力をかき集めて放出し、注意を俺に引き付ける。


 かかって来いよとばかりに指でチョイチョイと挑発してやれば、入れ食い状態だ。十人近い冒険者が怒りの形相で殺到する。


「舐めやがって!!」「死んどけやぁぁ!!」

 

 当然、正面から迎え撃つわけがない。絶対に囲まれないよう距離を開けたり縮めたりしながら必死に逃げ回っていると、突如斬撃がよく見えるようになり、力と体力がふつふつと湧き出てくるようになる。サツキがバフ魔法をかけてくれたようだ。


『はぁ、良かった! 華乃ちゃんが勝手にどこかに――』

〖……オンブ……シロ〗

 

 ゼイゼイと息を荒げ、ふらつきながら俺の後ろへ回る二人の少女。その一人であるサツキによれば、クラスメイトとゲート探しのため行動してたところ、華乃の方から天摩さんが襲われたとの緊急連絡が来たため、慌てて一緒に駆けつけたと言う。ちなみにリサは残ってクラスの引率である。

 

 しかし途中から華乃とチーちゃんで“どっちが速いのか”という言い合いが突然始まり、どこかに走り去ってしまったという。物凄い速度で丘をぐるりと走り回っていたので何かと思えば……このクソ忙しいときに徒競走だと? というかチーちゃんは賢い子のはずなのに、華乃といると急激にポンコツ化するのは何故なのか。

 

 膨れ上がりそうな脱力感を何とか抑え込み、ウェポンスキルを放つ――と見せかけて、目の前にいる複数人の動きを硬直させる。同時に背後から迫る斬撃を冷静に受け流しながらも峰打ちを決めていき、四苦八苦しながら次々に仕留めていく。

 

 体力をかなり消耗してしまったが、残りはあと一人。

 

 じりじりと俺と距離を保ちながら武器を水平に傾ける剣士。受けの構えをしつつ精一杯の魔力をぶつけてくる。圧倒的な力量差を見せたにもかかわらず闘志が衰えていないのはさすがだが、俺を警戒しすぎだ。そうなると簡単にフェイントに引っかかるのでやりやすい。

 

 騙しの魔力操作とスキルモーションを織り交ぜて距離を潰し、思うように動きを誘導。バランスを崩させてからすれ違いざまにボディブローを叩き込む。するとすぐに白目を()いて崩れ落ちた。

 

 

 近くに敵がいなくなったのを確認し、荒い息を整えながら小さいほうの少女を見てみれば……なんと人間ではなく、背中に羽を生やした妖精(フェアリー)であった。被っていた仮面を放り投げてだらしなく舌を出し、その場で座り込んでいる。

 

 闇妖精が何故こんなところに……と思ったが、よく観察すればその鮮やかな金色の瞳と、黒い花のドレスに強烈な既視感が呼び起こされ、縮み上がりそうになる。


『サツキ! 離れろっ!』

『えっ、どうしたの?』

 

 慌ててサツキを背中に隠し、ポケットから対状態異常アイテム[魔人(アーサー)の角]を取り出し握りしめる。可愛い見た目に騙されてはいけない。コイツは単なる妖精ではなく、気付けば思考力と魔力を根こそぎ奪われて衰弱死させられるという極悪モンスター、闇百合の妖精(シャドウ・リリー)である。俺が警戒していたモンスターの1つだ。

 

 しかし闇の魔力が淀んだ場所のみに生息するレア個体が、どうしてこんなところに……いや待てよ、様子が変だ。先ほどから俺を見ながら〖……オンブ……シロ〗と念仏のように唱えている。精神操作系の魔術詠唱か。

 

 後ろにいるサツキが『この子はね、頼りになるのっ』と訳の分からないことを言っており、すでに思考を操られている可能性もある。その場合は回復が難しく、時間を要してしまうだろう。

 

 ひりつくような緊張の中、現状の打破とサツキのダメージ回復について考えを巡らせていると、人騒がせなコンビが帰ってきやがった。

 

『どりゃあああーーー勝ちましたーーーーっ!!』

『ああっ、あとちょっとだったのにーー!』 


 徒競走には僅差でチーちゃんが勝ったようで、地団駄を踏んで悔しがる華乃を見下ろすように得意げに胸を張って誇っている。往生際が悪く負けず嫌いの華乃は『その速度ブーストアイテムのおかげだよ!』などと悔し紛れの言い訳をすると、チーちゃんはさらに胸を張って『装備も実力のうちです』などと言い返したため『ズルい!』『ズルくありません!』などと不毛な論争が始まった。

 

 だが二人して地面を抉るように急ブレーキをかけて止まったため、多量の土埃が舞い上がり、その空気を吸い込んだ闇百合の妖精(シャドウ・リリー)がブホッゲホッと盛大に(むせ)て転げ回っているではないか。

 

 短時間で激変する現状を理解するのに四苦八苦するしかないが――


『おにぃ! 何か……何か速くなるアイテムかスキルを――あがっ』

 

 終いにはこっちに泣きついてきたので脳天にゲンコツを喰らわしておく。俺が汗だくになりながら必死に戦い、あれこれと悩んでいた間にお前達は何をやっているのか。そう聞けば、そこでへたり込んでいる妖精が〖ドッチガ……ハヤイ、ノ?〗と聞いてきたため勝負へと発展したと言うが……その妖精とは何者なのか。もう少し話を聞く必要がありそうだ。



 丘の中央では冒険者が入り乱れ、爆風を伴ったウェポンスキルが飛び交っている。その中心にいるのはもちろんアラクネのアーサーだ。死角から同時に放たれているというのに何もかもが見えているようで、上半身の腕を組みながら白い前脚だけですべてのスキルを難なく弾いていた。

 

 その鉄壁の防御は数十人がかりでも崩すことができず、次々に糸で絡め捕られていく。足元にはグルグル巻きにされた冒険者が無数に転がっており、すでに立っている者は十人もいない。制圧は時間の問題だろう。

 

 一方で、手足を縛られて身動きのできない執事達がこちらに向かって「早く紐を解け!」と怒鳴っている。(あるじ)である天摩さんに危害を加えられ、怒り心頭というのは十分に理解できるが、ここは無視しておく。勝手に突撃し死者がでてしまっては収拾がつかなくなるし、戦力ならアーサーだけで事足りている。解放するにしても向こうが何者で何が狙いなのかを見極めてからにしたい。

 

 少し離れたところに建てられているドーム状の天幕。その中に天摩さんとメイド、そして“ボス”とやらがいるはずだ。邪魔な奴らはほぼ蹴散らし終わったし、出向いてやろうじゃないの。

 

 ポケットから取り出したポーションの種類を確認していると、サツキの回復魔法を受けている金の目をした妖精が目に入る。極度にスタミナが無いようで、いまだに大の字になってゼェゼェと息を整えている。華乃が言うには本当に味方らしい。

 

『――それで、これがあのダークピクシーが成長したやつだって?』

『はい、リリーちゃんと言います』

 

 東京のクランパーティーで魔法陣の探知用に呼び出したダークピクシー。ソレに高位魔石を食べさせたところ、コレになったとチーちゃんが顔を綻ばせながら説明してくれる。だがおかしい。

 

 ダークピクシーの進化系にはいくつかあるが、通常進化すると闇の妖精(ダークフェアリー)になるはずだ。一方、闇百合の妖精(シャドウ・リリー)に進化させるには条件が非常に厳しく手間もかかり、たまたま進化するものではない。しかし現実としてその特殊進化系が目の前にいるので考えても仕方がないことなのだろう。

 

 とはいえ、ダンエクでは数多の冒険者の血を啜ってきた極悪モンスターだけに、近くにいると落ち着かない。

 

『おにぃ! リリーちゃんみたいな子を欲しいんだけどっ、私も契約できないかなっ?』

『やめておけ、精霊との契約はいろいろと大変なんだ』


 だらしなく転がっている妖精を見て『自分も欲しい』と言ってくる華乃。だが契約した精霊からの憎愛は非常に大きく重いものである。しかも厄介なことに、力が強い精霊ほど繋がっている魔力量も多くなり、より強固な契約が必要となる。確認してはいないが、チーちゃんも闇百合の妖精(シャドウ・リリー)ほどの精霊と契約したのなら、体のどこかにタトゥーのような契約魔法が深々と刻まれているはずだ。

 

 ゆえに精霊が望むことを無視し続けたり裏切ったりすれば、契約魔法が呪いと化し、身を焼くような恐ろしい報復となって返ってくる。そんなリスクを背負うくらいなら最初から契約しないほうがいいというのが俺の考えだ。

 

『ですが、リリーちゃんと契約してから魔力がもの凄く増えた気がします』


 デメリットを述べると『そのようなことは些細なことです』とチーちゃんが割り込んでくる。そう、精霊と契約するメリットに魔力量の増加がある。加えて強力な精霊と契約できたなら、スキル枠を消費せずに珍しいスキルも覚えることがある。もしかしたらチーちゃんも覚えたのかもしれないな。

 

 だが精霊というのは見た目こそ人間っぽいが、思考も常識も人間のそれとはかけ離れている。現に天摩さんも精霊との確執で長く苦しんでおり、そういった存在と共に歩むというのは相応の覚悟が求められるのだ。チーちゃんにもその辺りの話をしっかりと言い聞かせねばならない。

 

 しかしそれよりもまずは先にやることがある。

 

 最後の一人を糸でグルグル巻きにして絡め捕り、つまらなそうにポイッと放り投げるアーサー。ウェポンスキルすら受け止められる表皮に、やられたところで死に繋がらない魔法の体。そこに他を圧倒する戦闘経験とレベルまで持っているなら、もう負けることなどありえない。

 

 こんなことなら俺が必死こいて戦う必要などなかったわけで、無駄に精神を擦り減らした感が否めないが……まずは無事に第一関門クリアだ。早速、次にいく準備をしたいので、この場は親友に任せるとしよう。


『サツキ、俺はアーサーと一緒にあの天幕へ行ってくる。もう少し経ったら執事と久我さんの解放を頼めるかな』

『うんっ、任せて。瞬視の加護よ、皆の瞳に――』


 二つ返事で頼みを受けてくれるサツキが、大杖を掲げて回復魔法とバフ魔法の両方を俺にかけて送り出してくれる。新たな仲間となる天摩さんのためにこうして命を懸けて駆けつけてくれたのも含め、背中を預けるには最高に信頼のおける仲間である。

 

 そして当然のようについて来ようとする華乃とチーちゃん、おまけに妖精だが、もちろん駄目に決まっている。相手が強くて危険である可能性を伝えても『わたくしは見届ける義務があるのです』『絶対についていく!』〖オマエ……タヨリナイ〗などと言って聞く耳を持とうとしない。

 

 なので俺はグルグル巻きにしてもらうようアーサーに頼むことにした。


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