雷帝龍の荒れ狂う怒りの鉾
俺の名は織田啓太郎――――いや、その名は棄てたのだ。
そう、俺様こそがこの世界の救世主、ケータロー・オーダーである。
女神に貰ったチート能力により、あらゆる富と栄光が約束された男なのだ。
とはいえ、まだこの世界に来て日が浅い。あまり目立つような行動は控え、着実に一歩ずつ力を磨いていくべきだろう。
手始めにゴブリン退治の仕事を受けてみたが、なんのことはない。簡単すぎて拍子抜けもいいところだ。
俺の大魔法『デスフレイム』でゴブリンは一瞬で灰になってしまった。そういえばギルドの少年は証拠の品としてゴブリンの耳を持ってこいとか言っていたな。次からはもう少し手加減してやる必要がありそうだ。
超大型ルーキーとしては、華々しいデビューを飾る為にもゴブリンの数は二桁は狩りたい。それにもっと大物も退治しておきたいところだ。
フッ、ギルドに帰ったら女冒険者達がキャーキャー言って寄って来るだろう。見てくれが良ければ仲間にしてやってもいいな。あまり強い娘やマッチョな女戦士はノーサンキューだ。
「しっかし、シケた森だな。スライムやゴブリン程度のザコしかいないとは。これじゃあ俺の実力が存分に発揮出来ないじゃないか。始まりの街近くじゃこんなもんだろうけど、せめて金髪エルフでも出て来るような気の利いたイベントは起こらんもんかね」
草木を掻き分けながらしばらくモンスターを探していると、何か声が聞こえた気がした。
耳を澄まし、周囲を警戒すると再び声が聞こえた。女の声だ。
「――――――――ケテー」
「若い女だ。声だけでわかる、絶対可愛い女の子だ」
元の世界で声優ソムリエを嗜んでいた俺には解る。
「タスケテー!変態奴隷商人が私を――――」
「うおおおおおおおおおお!?出会いイベント発生じゃねーーーかあああああ!!!」
これはアレじゃん!
異世界に来て最初に助けた女の子が俺の仲間になって、頼りになる俺にどんどん惚れていって、メンバーの女の子達と俺の奪い合いをするんだけど、最終的に正妻ポジションになって、魔王を倒した後に元の世界についてくるメインヒロインとの出会いに間違いない!
「タスケテー!変態奴隷商人が私を捕まえていやらしいことをいっぱいするのーーー」
少々、台詞が棒読み臭いが透き通るような綺麗な声だ。磨けば光ると見たね!
俺は走った。人生で一番走った。
とっておきのポーションを惜しげもなく半分飲んでまで走った。
美少女ボイスの進路を先回りすることに成功し、息を整えて待つ。
そう、出会いはドラマティックじゃなければならない。
あくまで偶然に。あくまで自然な流れで彼女を助けるのだ。
「タスケテー!変態奴隷商人が……あっ!えっと、そこの冒険者様!」
「エ、エルッッフ!?じゃなくて、ど、どうかしたかい?君、そんなに慌てて!」
どうみても貴方の方が慌てているでしょうが、とは言わない。
「追われているんです!助けて下さい!」
「わかった!俺がぶっ殺してやる!」
何がどう分かったのか知らないが、いきなり殺す気満々だよ。
まぁ、こっちとしては願ったり叶ったりの展開で助かるのだが。
「ふひゃひゃひゃひゃ!もう逃げれんぞ牝奴隷が!大人しく俺の愛人に――ん?なんだその強そうな男は!邪魔する気ならタダでは済まんぞ!」
「もう駄目。貴方だけでも逃げて下さい勇者様。あの変態外道な奴隷商人キチークは凄く強いんです。いくら貴方でも――」
あ、ダメだ。これは駄目だ。
出会ったばかりの冒険者をいきなり勇者様呼ばわりは無理があるでしょ。
てか、キチークて。
台本?いいわよそんなの。アドリブよ、ア・ド・リ・ブ。アンタがこのサラファーユ先輩の邪魔さえしなけりゃ万事上手くいくんだから。とか言っていたのは誰だったのか。
「――――――別に、本気を出してしまっても構わんのだろう?」
ノリノリだあああああああああ!!!
しかも、パクった台詞でドヤ顔してるううううううううう!!!
微妙に変えて、さもオリジナルっぽく言ってるのが腹が立つ!!!
「………………」
「どうした奴隷商。来ないならこちらから行くぞ?」
一発くらい殴りたい。喧嘩なんて片手で数えるくらいしかしたことないけど、こっちは今日一日不死身なわけだし、一発くらい殴れるかもしれない。
いや、これも安定した職にありつく為の試練だ。
「うぬううううううううううううん!」
そこらで拾っておいた太い棒切れを振りかぶり、力を貯める。フリをする。
魔力とか練ってそうなイメージだ。
後は「遅いッ!」とか言って攻撃してくるだろうから、それを我慢して受けるのみ。
死んだふりをしていれば後はサラさんが上手くやってくれるだろう。
「おっ、おい!ホントにやる気か!?し、死んでも知らんぞ!?」
ここで日和るんかいいいいいいいいいい!!!
ぶっ殺してやるとか言ってたじゃないか!!!
攻撃して貰わないと困るんですけど!!!
「うぬううううううううううううううううううううううううん!」
「やるからな?ホントにやるからな?」
やってよ!早く!もうなんか魔力とか溜まってるよ!実戦ならもう発射されてるよ!
「うぬうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううん!」
「勇者様!今です!何か凄い魔法でやっつけて下さい!早くッ!!」
若干、キレ気味だけどナイスフォローです、サラさん。
「わ、わかった!よし見てろよ俺の大魔法!遍く虚空に満ちる――」
詠唱始めちゃったよコノヒト!!?
遅いよ!遅すぎるよ!こっちはもう魔力溜まってるよ!300%くらい溜まってるよ!
仕方ない、こっちも合わせて詠唱して時間を稼ぐしかない。なんかそれっぽいので!
「こ、混沌の……海の底の…………魔王の力をもって…………」
は、恥ずかしい!これは恥ずかし過ぎる!殺して!早く僕を殺して!
「聖霊よ!古の契約に基づき、我が前にその威を示せ!」
「こ、この魔法は何!?こんな詠唱は聞いたことがないわ!」
サラさんがいい感じに場を盛り上げてくれる。もしかしたら本当に知らない魔法で驚いているのかもしれないが、とにかくこの恥ずかしい状況からようやく解放されそうだ。
「炎よ!風よ!大地よ!水よ!」
続くんかいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
力が抜けて尻餅をついてしまう。
それを見たケータロー・オーダーがニヤリと嗤う。
そうじゃないよ!ビビったんじゃないから!
『|雷帝龍の荒れ狂う怒りの鉾!!!』
――――――炎とか風とか大地とか水とか何処行ったのさ。
そうして僕は無事に黒焦げとなり、ミッションは完了した。
「お疲れ、イツキ。その……なんだ。大変だったな」
「ええ、疲れました。主に心が」
「儂も笑いすぎて疲れたわ!あ~、まだ腹が痛いのぅ」
「ともあれ、後はサラが奴のチートを暴けば仕上げに移れる。疲れているところ悪いが、尾行を続けるぞ」
「了解です、隊長」
「うむ。さっさと終わらせて打ち上げじゃ」
僕らはケータロー・オーダーとサラさんを追い、森を出た。




