ばいばい、勇者様
「先程は助けて頂き、本当にありがとうございました勇者様」
街へ向かう道すがら、ありったけの営業スマイルで媚びを売ってみる。
「大したことはありませんよ、エルフのお嬢さん。それに俺はまだ勇者ではなく、冒険者を始めたばかりのケータロー・オーダーという者です」
「あのような凄い呪文を使われた方がまさか駆け出しだなんて!信じられませんわ!(……まだってなんだよ、まだって)」
「いやいや、あんなに弱い相手に少しだけとはいえ本気を出してしまうなんて、俺もまだまだ未熟ですよ。はっはっは」
「きっと近いうちに勇者になられるに違いありません。貴方のような方に出会えて本当によかったですわ。(駆け出しがまだまだ未熟ってw)」
「ええ、魔王に苦しめられている人々を救う為に勇者となって、きっと世界を救ってみせますよ!」
勇者ですかー、そうですかー、でももう間に合ってるんですよねー。
会話するのも疲れたし、さっさと情報を引き出して元の世界に送り返そう。全ては私の有給休暇の為に。
「ケータロー様はどちらから来られたのですか?この辺りでは珍しいお名前だと思うのですが」
「ここより遥か東のニホンという国です」
「ニホン!?かの伝説の勇者様がやってこられたという国ではありませんか!やはり貴方は本当に勇者様になられる方では!?」
「え!?伝説の勇者も!?」
あ、そこは知らなかったのか。いらない情報を与えてしまった。妙に嬉しそうな顔がムカつく。
「やはり貴方様も特別な能力をお持ちなのですか?もしかして先程の魔法も?」
「………………他の人には内緒ですよ」
「やっぱり!凄い凄い!一体どんな能力なんですか?」
「ふふふ、この能力を俺は夢想幻想と呼んでいます」
「ダサッ」
「!?」
「ああ、すみません!ついエルフ語が。ええっと、そのエルフ族の伝説の神の力と同じ名前だったもので驚いてしまって。凄いとかそんな意味の言葉です。はい」
「あ、ああ。そうだったんですね!」
「ちなみに、具体的にはどういう能力なんですか?」
「想像力がそのまま力に変わる能力とでも言いましょうか。出来ると思えば何でも出来るチカラですね」
「何でも……凄い」
これは本当に驚いた。いままで色々なチート能力を見てきたが、これはトビキリだ。
「大きな岩を剣で切れると信じれば真っ二つに出来るし、森を焼き尽くせると信じれば特大の火炎魔法を生み出せる。正直言って、魔王など相手にもなりませんよ」
「無敵じゃないですか!」
「ええ。ただ、弱点が無いわけではないんですよ」
「そんな凄い力に弱点なんてあるんですか?」
そこ大事、とても大事。
「心の何処かで少しでも疑ってしまうと発動しないんです」
「なるほど。心から出来ると信じていないといけないんですね」
「はい。なので力を完全に制御できるようになるまではこの辺りで修行しようかと。もしよかったら俺とパーティーを組んで――――」
「風雷暴」
「エ、エルフさん!?」
振り向き様にありったけの魔力を込めた一撃を放つ。
情報収集が完了したことを知らせる合図だ。
仕留め損なった……もとい、偶然にも魔法が直撃したリンデが魔法防壁の向こうから睨んでくるが、これも仕事なので仕方がないことなのだ。
「敵です。ケータロー様」
「さっきの奴隷商人とその仲間達か!生きていたとは!下がってエルフさん」
言われるままにケータローの後ろに隠れる。
「フハハハハ!逃げ切れると思ったのか薄汚い牝奴れ……綺麗なエルフめが!」
「生きていたのねキチーク。あんたなんかこの勇者ケータロー様の夢想幻想で八つ裂きよ」
「夢想幻想だと?」
「そうよ、心から信じたことがそのまま力になる凄い能力なんだから!」
「まじっすか!?」
「ちょっとでも疑うと発動しないらしいけど、凄いんだからね!」
「あの、エルフさん?あんまりそういう情報は敵には……」
「なるほどな。こいつぁ、情報収集しといて本当に良かったぜ。総員、状況開始!」
「奴隷商はともかく、戦士と魔法使いが厄介そうだ。エルフさん、援護をお願いしま――」
『エルフ膝カックン』
「ヌあっ!?」
突然、両膝の裏側に衝撃を受け、前のめりに突っ伏した。
「今だっ、リンデ!イツキ!思いっきり踏め」
「了解じゃ」
「え、えええ~~!?」
不意打ちで倒れたケータローを相手に、見事な連携でボコボコに蹴りまくる隊長達。
異世界ファンタジーはおろか、とても国家公務員の所業には見えない。
「なにやってんの新入り!あんたもさっさとこっち来てこいつしばきなさいよ」
「は、はい!」
恐る恐る参加し、無数に繰り出される容赦ない足技の中に控えめに蹴りを入れてみる。
世界の治安を守る為の行為だと理解しているのだが、無性に心が痛い。
「グぶっ、ゴヘッ、ガッ、たすk」
「ちょっとリンデ、いま私の足蹴ったでしょ!」
「偶然じゃ。合図の魔法が偶々こっちに飛んできたようにな」
「おい、二人とももういいぞ。そろそろやり過ぎになる」
もう十分にやり過ぎだと思いますが。ボロ雑巾という表現がピッタリになってきている。
「もっとこう、剣や魔法で戦うものとばかり思ってましたが」
「そういうときもある」
「うむ。一応、体を張った仕事じゃからな。常に何があるかわからん。体力や魔力は極力温存するのがこの世界で生き抜くコツなのじゃ」
「さぁ、隊長。さっさと仕上げしてよね。私は酒場に行って席とっとくから」
サラさんは転移魔法を唱えて消えてしまう。うーん、形の上では命の恩人を罠に嵌めて不意打ちでボコった挙句にあっさり放置。ドライかつスタイリッシュだ。
「さて、ケータロー・オーダーさん。突然の無礼を許して欲しい」
「お、おまへらは……いったい……」
絶対許さねえと顔に書いてある。そりゃそうでしょう。
「我々は異世界召喚特別対策部隊。俺は隊長のガーラーンド・イノーウェという者だ」
「いせかひ……たいさ……く……ぶたい?」
「そう。せっかくこの世界に来て貰って申し訳ないんだけどさ、こっちにも色々事情があって、元の世界に帰って貰いたいんだよね」
「ふ、ふざけるな!女神に頼まれてきた……んだ……ぞ。そんな勝手に」
「あ~、女神召喚系の人なのね。なら簡単に送り返せる」
「だ、だれが帰るか!俺はま、魔王を倒して世界を平和にするっ!」
「そう言われてもなぁ。あんたみたいなチート持ちがいると世界のバランスが崩れちまうんだよ。それに、あんたに本当に魔王が倒せるのかい?」
「倒せる!」
「じゃあ、約束出来るか?あんたが魔王を倒すっていうなら命は助けてやる。そして、魔王を倒したら大人しく元の世界に帰ってくれるかい?」
「い、いいだろう。約束する」
「オーケー。契約完了だ」
どう見ても嘘を吐いている顔だが、隊長は一仕事終えたといった感じだ。
というか、人類と魔族の平和の為には、魔王を倒して貰っては困るはずなのだが。
「やれやれじゃな。小僧とガーランドは下がっておれ。ヒーリング」
リンデさんは僕達を下がらせると、ケータローさんに回復魔法を掛けた。
「痛みが消えた!?これが回復魔法ってやつか」
「さぁ、これで大丈夫じゃ。頑張って魔王を倒すんじゃな、雑魚勇者様よ」
「ああ…………ありがと…ヨッ!!!」
「ゴフッ!?」
「リンデさんっ!!」
ケータロー・オーダーの持つ剣がリンデさんの身体を貫き、彼女の身体が崩れ落ちた。
「クケ、ケケケケッ!ざまぁみろ!好き勝手やってくれやがってこの糞共が!お前らもあの糞エルフも皆殺しにしてやるぜ!ひゃーっはっはっは」
「あーあ、リンデ死んじゃった。痛そ」
「隊長!リンデさんが!リンデさんが!」
「ん、あー。あれは即死だな。酷い奴だぜ」
ガーランド隊長は平然とリンデさんの死体を眺めている。変だよ、やっぱりこの人どっかおかしいよ!
「なに余裕こいてんだお前。今度はお前の番なんだよ!命乞いでもしてみたらどうだ」
「んー?どうしようかなぁ」
「舐めてんじゃねーぞ?見ろ、俺の力を!」
ケータロー・オーダーの持つ安物の剣が光を放ち、その姿を変えていく。
「うおっ!?すげえ、超強そうな剣に変わったぞ!」
「この斬鉄剣に切れない物は無い」
「そりゃすげえ」
そして、今度は纏っている服が鎧に変化する。
「この鎧を着ている限り、俺にはどんな攻撃も効かない」
「いーなー。それ欲しいな」
あくまで余裕の態度で彼を挑発するガーランド隊長。
「イカレてんのか?お前、これから死ぬんだぞ?それともこの俺に勝てるとでも思ってんのかよ」
「いやいや、なんでも切れる剣に無敵の鎧なんだろ?勝てるわけないじゃんそんなもん」
「だったら何をヘラヘラ笑ってやがんだよ!」
「約束したろ?魔王を倒したら大人しく元の世界に帰るって」
「ハッ!そんなもん誰が守るかよ。俺様が魔王を倒して世界の王になるんだよ」
「あんたもう魔王倒してんじゃん」
「あぁん?」
隊長が何を言っているかわからない。
「だから、あんたが今殺したリンデは魔王なんだってば」
「リンデさんが魔王?」
「そ。といっても現代の魔王じゃなくて、過去の世界から転生してきた魔王なんだけどな」
「何言ってんだお前。それが本当だとして、それがどうしたっていうんだよ」
「ケータロー・オーダー。あんたは魔王を倒した。だから、約束通り元の世界に帰らなきゃいけないってことだ」
「だから、俺はそんな口約束は守らねえってさっきから……な、なんだこれは!」
ケータロー・オーダーとガーランド隊長の体が淡い光を放ちだした。
「リンデの命を代償に契約は果たされた。ばいばい、勇者様」
「おい、これは一体――――」
瞬間、異世界人が一人このナーロゥから消え去った。
「お疲れ、イツキ。これで任務完了だ。酒場のバイト生活も終わりだな」
「そうか!これも隊長のチート能力で」
「そゆこと。今回の相手は上手く条件に嵌ってくれたから良かったぜ。魔王討伐が目的じゃなかったら『決め事』で送り返せなくて、最悪、殺し合いになってたからな」
「そ、そうだ!リンデさんが!」
「あ~、死んだ死んだ。やっぱり何度死んでもこればっかりは慣れんのぅ」
「リンデさん!?」
「お疲れ。ナイス対応だったぜ」
「さ、とっとと酒場で慰労会じゃ」
そして僕の初任務は無事、成功を納めた。




