僕が初めて死んだ日
え~、なんとお詫びすればよいのかわかりませんが…………ずっと更新放置しててごめんなさい!
異世界人の容疑者を追いかけて森に入った僕達が目にしたのは、轟々と燃え上がる巨大な火柱だった。
傍らに佇むのは怪しい笑みを浮かべたケータロー・オーダー。
収まった炎の柱の中から、黒く焼け焦げたゴブリンらしき死骸が崩れ落ちるのが見えた。先ほどの絶叫はおそらく彼の断末魔だろう。
「凄え!やっぱり凄えぜ、この力!世界最強だろこんなの!」
歩鳥望遠の魔法で遠距離から様子を窺っているので何を言っているかまではわからないが、自分の使った力に酔いしれている様子だ。
「ついさっきスライム相手に腰を抜かしていたビギナー冒険者が高レベルの大魔法を使って高笑いか、完璧に黒じゃな。どうするガーランド?サクっとやっちまうか?」
「確かに奴の手札があれだけなら捕獲は簡単だが、捕まえた後で何か別の隠し玉を持っていた場合が怖い。異世界人ってのは何でもアリだからな。ここは慎重に一芝居打って情報を引き出そう」
「え~~~、もしかして、またアレやるの?」
「前回は儂がやったからな、今回はお前がやれよ」
「いやいや、ここは新人君の出番でしょ」
「う~ん、確かにイツキがやっても良さそうだが、同郷のチート持ちということで警戒されるかもしれんし、やっぱりサラに頼むわ」
「うへぇ……。まぁ、お仕事だから文句は言わないけどさぁ。明日は特別休暇を頂戴ね」
「許可しよう。しっかり頼むぞ」
何やら作戦があるらしいが、僕だけ蚊帳の外だ。
「じゃあ、やられ役はジャンケンな。さーいしょはグー、じゃーんけーんほい」
「え?あ、ホイ」
「勝ちじゃ」
「俺も勝ち。というわけで、イツキ。今からお前は、サラを襲う変態外道な奴隷商人だ」
「変態外道な奴隷商人――って、えええええええええ!?」
なんとなく状況が理解できた時には配役が決まってしまっていた。
「なに、筋書きは簡単だ。ちょっと離れた所で変態外道な奴隷商人イツキが、借金のカタに買われた奴隷のサラに無理やりエロいことをしようとする」
「エロいこと!?」
「言うまでもないけど、フリだからね?変なことしたら特殊な趣味の貴族に売り飛ばすわよ?」
「も、もちろんです」
「そこにケータローとかいう異世界人が助けに入るわけだ。イツキはケータローに倒され、感謝したサラはケータローに連れられて街へ向かう。そこでサラが褒めちぎりながら奴さんのチート能力を洗いざらい聞き出すって寸法だ。どうだ、簡単だろ?」
「確かに簡単ですけど、あんなすっごい魔法使う相手に攻撃されたら死んじゃいますよ!」
「そこは問題ない。お前は絶対に死なない。俺に任せとけ」
ガーランド隊長は自信満々だが、実のところ、僕はまだ隊長の実力を見たことが無い。
サラさんやリンデさんが圧倒的な実力の持ち主なのは確かだし、その二人を率いている隊長ならもっと凄いのだろうけれど、常に飄々として軽薄そうなこの隊長に命を預けるのはどうにも心配だ。
「わかりました、やってみます。演技に自信はないですけど……」
「そう心配そうな顔をするなよ、少なくとも『今日、お前は死なない。絶対にだ』」
隊長は僕の肩に手を置いて、念じるように呟いた。
「それとイツキ。俺に何か願い事を言ってみろ。出来るだけ贅沢なやつをだ。出来ることなら何でも一つ叶えてやる。ただし、今すぐに実現可能なことでな」
「願い事ですか?どうしたんです?急にそんなことを言われても…………」
「いいから、いいから。リンデのおっぱいを触りたいとか、サラのパンツが見たいとかなんでもいいから」
「おっぱ!?」
急に何を言い出してるんだ、この人は!
「それはお主の願望ではないか?」
「隊長の血が見たいとかでもいいわよ?」
「時間が無い、早く言うんだ。棒読みでもいいから!言うだけ言ってみろ!さぁ、早く!リピートアフタミー!リンデのおっぱい触りたい!」
「り、リンデのお……おっぱい……触り……た……い…」
凄い剣幕の隊長に言われるがまま、言わされてしまった。顔から火が出そうだ。リンデさんの顔がまともに見れない。
「よっしゃ!その願い叶えた!」
言うが早いか、隊長は僕の手首を掴んで、あろうことかリンデさんの大きな胸に力強く押し当てた。
「ええええええええええええええっ!!!?」
や、柔らか――じゃなくて!おっぱ……ええええええ!!!?ナニシテンノコノヒト!!??ありがとうござ……ナニシテンノオオオオオ!!!
「あー、セクハラじゃー。精神的苦痛じゃー。明日は有給もらうしかないのじゃー」
パニックな僕とは対照的に、全く動じていないリンデさん。完全に棒読みで、むしろちょっと笑っている。
僕に胸を触られたことなんて蚊に刺された程度にも気にしていない感じで、ちょっとショックだ。
「駄目だ、足りない」
「なんじゃと!儂の胸が不満じゃと!?」
「ププッ。男女の胸じゃイツキも満足出来ないってことよね~」
「いえ、僕は全くそんなことは――」
「リピートアフタミー!!サラのパンツ見たい!!!」
「サラさんのパンツ見たい!!!」
「ちょっ!?なんで今度はそんなに活舌良く――――――ファッ!?」
風が吹いた。
僕が言葉を紡ぎ終わるのを待たず、ガーランド隊長の右手が恐ろしく早いスピードで白い布切れを撫で、花吹雪が舞った…………そんな幻想が脳裏を過る。
僕でなければ見逃していただろう。永遠を感じた、一瞬の出来事。縞パン。
「我、願い、叶えたり」
この人に一生ついて行こうと決めた瞬間である。
「覚悟は完了してるのよね、ガーランド?」
「悪いが、これも仕事でな」
「そう。さようなら」
ドスン。
響きを聞くだけで息が詰まりそうな強烈なボディーブローがガーランド隊長の鳩尾に深々と刺さった。
崩れ落ちた隊長に跨り、マウントポジションからガスッ!ガスッ!と鈍い音が何度も何度も振り下される。
天国の景色は今や地獄絵図に変わっている。
隊長だったソレが動かなくなると、ゆっくりと立ち上がった羅刹が僕の方に顔を向ける。
おもむろに腰の短剣を抜きながら、一歩づつ近づいてくる。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
「満足したみたいねぇ……そんじゃあ、一回死んでみよっかぁ?」
「う、嘘ですよね?冗談でしょ?これは不可抗力で――――」
ザシュッ
頭が真っ白になった。
胸が熱くて、呼吸が出来ない。
視界が朱色に染まる。
この痛みは紛れもなく現実で。
冗談でも何でもなく、僕はサラさんに剣で胸を貫かれていて。
間違いなく僕はこのまま――――――――。
「……ごぷッ」
口から大量の鉄の味があふれ出て。
意識が朦朧として。
僕は――――――――
――――――――死んだ。




