プロローグ
海外のよくわからない動画を真似した、やかましい目覚ましで目が覚める。
調子に乗って奮発した遮光カーテンは、どんどんと人間らしさを奪うようで、少し恨めしくもなってくる。
カーテンを開ければ、入ってくる太陽の光も恨めしい。
どうでもいい朝の喧騒と、それを掻き消すためのくだらないニュース番組が、たった今は世界なのだ。
季節外れでもない、2月の大雪のニュースが流れている。
冷蔵庫を開ける、卵を2つ取り出す、朝食の準備を始める。
視線を上げると、そこには大きな扉がある。
家賃8万4000円、大都会東京の外れにあるこのアパートに、俺は大学1年の春から住み出した。
典型的な六畳一間のこの部屋は、日当たりが良い。
それを見てここに住むと決めたはずなのに、それを遮るカーテンを買ったのは、ある日そこに現れた扉が、部屋に影を差すのが億劫になったからかもしれない。
出来上がった2人分の朝食を置いて、扉が開くのを待った。
待つ間にも、ニュースは世界の流れを知らせてくる。
電車はどうやら、動いていない。
ニュース越しに、幾重もの架線と広大なビル群に積もった雪と、空気中に舞う柔らかい霧が、太陽の光に反射して世界を雪いでいる。
時間通りに、扉が開く。
中からは、やけに身綺麗な女性がこちらへ向かってくる。
彼女が、朝の挨拶をする。
「おはよう」
こちらも、同じように返す。
「おはよう、モリー。」
2人で何を言うでもなく、朝食の席につく。
妙に意味立った所作で、目玉焼きが乗ったトーストが消えていく。
ニュースでは、いつの間にかどこかのスーパーの特集が始まっている。
目の前に座る女性は、俺の恋人で、そして一ヶ月後には、どうしても別れなければならない。




