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災難です、駄女神様!  作者: 此花サギリ


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第6話 異世界生活二日目、街へ向かうはずが魔王城へ近づいている件

 翌朝。


 私は、目を覚ました瞬間から、嫌な予感がしていた。


 別に、何か悪い夢を見たわけではない。身体のどこかが痛いわけでもなければ、敵に襲撃されたわけでもない。むしろ、昨夜は異世界に来て初めてまともな寝床で眠ることができたため、睡眠の質だけを考えれば、地球にいた頃よりも遥かに良かったくらいだ。


 問題は。


 目を覚ました私の視界いっぱいに、誰かの顔があったことだった。


「…………」


「…………」


「…………」


 黒い髪。


 小さな角。


 赤みを帯びた瞳。


 そして。


 私の顔を、ものすごく近い距離から覗き込んでいるルナ。


「…………」


「…………」


「……おはよう?」


「おはよう」


 私が声を掛けると、ルナは平然とした顔で答えた。


 しかし。


 顔は近い。


 近すぎる。


 あと少しで鼻と鼻がぶつかりそうな距離だった。


「……ルナ」


「何?」


「近い」


「……」


「すごく近い」


「……そう?」


「うん」


 ルナは。


 しばらく私の顔を見つめてから。


 ゆっくりと後ろへ下がった。


「……ごめん」


「別にいいけど」


 私は身体を起こした。


 テントの中には、朝の冷たい空気が入り込んでいる。入口を開ければ、木々の間から朝日が差し込み、昨夜まで焚き火をしていた場所には、灰になった薪が残っていた。


 異世界二日目。


 地球に戻るまで、あと四日。


 私はぼんやりと、その数字を頭の中で思い浮かべた。


 そう。


 私には、五日間という猶予がある。


 ユーノーから説明された内容によれば、地球に五日間滞在した場合、私は強制的にウォーズの世界へ転移することになっていた。


 けれど。


 私は一度、ウォーズの世界へ転移した。


 そして。


 ユーノーの説明には、もう一つ重要な条件があった。


 転移直後であれば、再び地球へ行くことができる。


 つまり。


 私は。


 帰ろうと思えば。


 地球へ帰れる。


「……」


 私は。


 少しだけ。


 地球のことを考えた。


 会社。


 マンション。


 冷蔵庫。


 スマートフォン。


 銀行口座。


 そして。


 私がいつも通勤していた道。


 たった一日しか経っていないのに、妙に懐かしく感じる。


 それと同時に。


 私は。


 少しだけ。


 笑ってしまった。


「……戻れるんだよね」


「何が?」


「地球」


「……」


 ルナが。


 不思議そうな顔をした。


 私は。


 しまったと思った。


「……なんでもない」


「……」


 しかし。


 ルナは。


 何も言わなかった。


 私は。


 テントの外へ出た。


 朝の森は。


 昨夜とは。


 まるで違う顔をしていた。


 薄い霧が木々の間を漂い、湿った土の匂いがする。鳥のような生き物が遠くで鳴き、葉の上に溜まった水滴が、朝日を受けて小さな宝石のように輝いている。


 私は。


 その光景を。


 しばらく眺めていた。


「……綺麗」


「うん」


 後ろから。


 ルナの声がする。


「綺麗だね」


 私は。


 少し驚いた。


 昨夜までのルナなら、もっと警戒した反応を見せていたはずだ。


 けれど。


 今は。


 ほんの少しだけ。


 この世界を楽しんでいるように見えた。


「ルナ」


「何?」


「今日は、どうする?」


「……街へ行くんじゃないの?」


「そのつもり」


「……」


「でも」


 私は。


 周囲を見渡した。


「街の場所が分からない」


「……」


 ルナが。


 黙った。


「……」


「……」


「……」


 私は。


 ルナを見る。


「ルナ?」


「……分からない」


「やっぱり?」


「……うん」


 私は。


 大きなため息を吐いた。


「……仕方ない」


 私は。


 空間支配を発動した。


 昨夜。


 私は。


 地図を確認することができなかった。


 ゲームのマップ機能は。


 現在地を表示してくれない。


 しかし。


 空間支配∞。


 このスキルは。


 単純な空間魔法ではない。


 文字通り。


 私が認識できる範囲の空間を。


 支配する能力。


 そして。


 私は。


 このスキルを。


 まだ。


 完全には理解していない。


「……」


 意識を。


 広げる。


 周囲。


 十メートル。


 百メートル。


 一キロ。


 さらに。


 広げる。


 空間の情報が。


 頭の中へ流れ込んでくる。


 木。


 土。


 岩。


 水。


 動物。


 モンスター。


 そして。


 人間。


「……いた」


「え?」


 ルナが。


 こちらを見る。


「人」


「人?」


「うん」


 私は。


 目を閉じた。


 空間支配を。


 さらに広げる。


 森の外。


 そこから。


 伸びている道。


 そして。


 道を歩いている人間。


 複数。


 さらに。


 遠く。


 大きな集団。


 馬車。


「……街道がある」


「本当?」


「うん」


「どっち?」


「……」


 私は。


 指を。


 右へ向けた。


「こっち」


「分かるの?」


「空間を調べたから」


「……」


「何?」


「……やっぱり、あなたって変」


「また?」


 私は。


 苦笑した。


「便利なスキルってことでいいじゃない」


「……そういうことにしておく」


 私たちは。


 森を抜けることにした。


 歩き始めてから。


 数時間。


 私は。


 何度か。


 立ち止まった。


 理由は。


 ルナだった。


「……ヒヨリ」


「何?」


「これ」


 ルナが。


 私の袖を引っ張った。


「何?」


「あれ」


 指差した先に。


 木の実があった。


「……」


「食べられる?」


「鑑定してみる」


 私は。


 解析鑑定∞を発動した。


『食用可能』


『栄養価:低』


『毒性:なし』


「食べられるわよ」


「……」


 ルナが。


 木の実を取った。


「食べる?」


「うん」


「……」


 私は。


 ルナが。


 木の実を食べるのを見ていた。


「……おいしい?」


「うん」


「そう」


 私も。


 一つ取って。


 食べてみた。


「……」


「どう?」


「……普通」


「……」


 ルナが。


 少し。


 笑った。


 その笑顔を見て。


 私は。


 少しだけ。


 安心した。


 この子は。


 昨夜まで。


 追われていた。


 命を狙われていた。


 魔王に。


 だから。


 もっと。


 怯えていると思っていた。


 でも。


 こうして歩いていると。


 普通の少女にしか見えない。


 木の実を食べ。


 美味しいものを喜び。


 知らないことに興味を持つ。


 普通の。


 女の子。


 なのに。


 その少女を。


 魔王が追っている。


「……」


 私は。


 少しだけ。


 嫌な気分になった。


「ヒヨリ?」


「何?」


「どうしたの?」


「……なんでもない」


 私は。


 笑った。


「先へ行きましょう」


 森を抜ける。


 その瞬間。


 視界が。


 一気に。


 開けた。


「……」


 私は。


 立ち止まった。


 目の前に。


 広大な平原が広がっている。


 遠くには。


 山。


 さらに。


 その向こうには。


 巨大な城壁が見える。


「……街」


 ルナが。


 呟いた。


「そうね」


 私は。


 頷いた。


 しかし。


 私は。


 その城壁を見て。


 少し。


 違和感を覚えた。


「……」


 私は。


 解析鑑定∞を発動する。


 距離。


 およそ。


 五十キロ。


 私たちがいる場所から。


 かなり遠い。


 しかし。


 私は。


 視界を拡大した。


 城壁。


 門。


 建物。


 そして。


 旗。


「……」


 私は。


 目を細めた。


「……おかしい」


「何が?」


 ルナが。


 私を見る。


「この街」


「……」


「私が知っている場所じゃない」


「……」


「ウォーズの地図に、こんな街はなかった」


 私は。


 呟いた。


 そして。


 その瞬間。


 私は。


 気が付いた。


「……」


 この世界は。


 私が知っているウォーズではない。


 正確には。


 ウォーズを模した世界。


 ユーノーは。


 そう言った。


 私は。


 勝手に。


 ゲームの世界だと。


 思い込んでいた。


 けれど。


 違う。


 この世界は。


 ゲームを模しているだけ。


 つまり。


 ゲームには存在しなかった場所も。


 ゲームには存在しなかった人物も。


 ゲームには存在しなかった歴史も。


 当然。


 存在する。


「……」


 私は。


 少し。


 頭を抱えた。


「……私のゲーム知識、あんまり役に立たないかも」


「ヒヨリ?」


「ううん」


 私は。


 ため息を吐いた。


「まあ、いいわ」


 私は。


 空を見上げた。


「知らない世界なら」


 そして。


 笑った。


「自分で見て回ればいいだけだもの」


「……」


 ルナが。


 私を見る。


「ヒヨリは」


「うん?」


「怖くないの?」


「何が?」


「この世界」


 私は。


 少し。


 考えた。


 怖くない。


 そう言えば。


 嘘になる。


 私は。


 平凡なOLだった。


 戦闘経験なんて。


 ゲームの中だけ。


 剣を握ったこともない。


 魔法を使ったこともない。


 モンスターと戦ったこともない。


 それなのに。


 今。


 私は。


 レベル九十九。


 ステータスも。


 ゲーム内では。


 異常なほど高い。


 そして。


 スキルも。


 異常なほど多い。


 だから。


 怖くない。


 そう思っていた。


 けれど。


 本当は。


 怖い。


 この世界が。


 何なのか。


 分からない。


 ルナが。


 何者なのか。


 分からない。


 昨夜の男が。


 何者なのか。


 分からない。


 そして。


 ユーノーが。


 何を隠しているのか。


 分からない。


 分からないことだらけ。


 それでも。


「……怖いわよ」


 私は。


 正直に。


 答えた。


「……」


 ルナが。


 驚いた顔をする。


「でも」


 私は。


 笑った。


「怖いからって、何もしないわけにもいかないでしょう?」


「……」


「それに」


 私は。


 ルナを見る。


「一人じゃないし」


「……」


 ルナの瞳が。


 大きく揺れた。


「私がいるでしょう?」


「……」


「あなたもいる」


「……」


「だったら」


 私は。


 前を向いた。


「何とかなるわよ」


 ルナは。


 しばらく。


 黙っていた。


 そして。


「……うん」


 小さく。


 頷いた。


 私たちは。


 街へ向かって。


 歩き出した。


 しかし。


 その道中。


 私は。


 奇妙な集団と出会った。


 街道を歩いていると。


 前方から。


 馬車が。


 やってくる。


 荷馬車。


 その周囲を。


 武装した人間たちが。


 護衛している。


 冒険者。


 おそらく。


 商人の護衛だろう。


 私は。


 道の端へ。


 避けた。


 そのとき。


「……」


 一人の男が。


 私たちを見た。


 そして。


 馬車が。


 止まった。


「……?」


 私は。


 首を傾げた。


 馬車から。


 一人の男が。


 降りてくる。


 年齢は。


 四十代。


 立派な服装。


 商人。


 だろうか。


「失礼」


 男が。


 私たちへ。


 近づいてくる。


「……何か?」


 私は。


 警戒しながら。


 尋ねた。


「その方」


 男が。


 ルナを見る。


「……」


 ルナの身体が。


 強張った。


「どちらへ?」


「……」


 私は。


 一歩。


 ルナの前へ。


 出た。


「私たちに何か?」


「いえ」


 男は。


 笑った。


「ただ」


 その目が。


 ルナを。


 見つめている。


「珍しい種族だと思いまして」


「……」


 私は。


 解析鑑定を。


 発動した。


 男。


 レベル二十七。


 商人。


 戦闘能力。


 低。


 しかし。


 その男の。


 後ろにいる護衛。


 レベル三十。


 三十二。


 三十五。


 それほど。


 強くはない。


 私なら。


 問題なく倒せる。


 でも。


 男の情報を。


 さらに調べる。


「……」


 私は。


 眉をひそめた。


 称号。


『魔王軍協力者』


「……」


 私は。


 即座に。


 警戒を強めた。


「ルナ」


「……」


「下がって」


「……うん」


 ルナが。


 私の後ろへ。


 移動する。


 商人の男が。


 目を細めた。


「……なるほど」


「何が?」


「いえ」


 男は。


 笑った。


「あなた」


「……」


「その少女を」


 男の声が。


 低くなる。


「どこで拾いました?」


 私は。


 答えなかった。


 男の後ろ。


 護衛たちが。


 武器に手をかける。


「……」


 私は。


 ため息を吐いた。


「面倒」


「何ですって?」


「いえ」


 私は。


 妖刀村正の柄に。


 手を添えた。


「別に」


 男の顔から。


 笑顔が消えた。


「その少女を渡してください」


「断る」


「……」


「嫌よ」


「あなた」


 男の目が。


 冷たくなる。


「何も知らないようですね」


「何を?」


「その少女が」


 男は。


 ルナを見る。


「どれほど危険な存在なのか」


「……」


「その少女を庇うということは」


 男が。


 笑う。


「あなたも魔王様の敵になるということですよ」


「……」


 私は。


 少しだけ。


 考えた。


 そして。


「そう」


 頷いた。


「じゃあ」


 私は。


 刀を。


 抜いた。


「敵でいいわ」


「……」


「私」


 私は。


 笑った。


「魔王様に会ったことないし」


「……」


「嫌いでも好きでもないのよね」


「……」


「だから」


 私は。


 刀身を。


 男たちへ向けた。


「ルナを渡せって言われても」


 私は。


 笑った。


「断るわ」


 次の瞬間。


 空気が。


 変わった。


 護衛たちが。


 一斉に。


 武器を抜いた。


 私は。


 ため息を吐く。


「……はあ」


 そして。


 思った。


 異世界生活二日目。


 街へ行くはずだった。


 ただ。


 街へ。


 行きたかっただけなのに。


 どうして。


 魔王軍の協力者と。


 戦うことになっているのだろう。


 私は。


 心の中で。


 ユーノーへ。


 文句を言った。


 駄女神。


 あなた。


 私に。


 平凡な異世界生活を。


 させる気。


 ないでしょう。


 当然。


 返事は。


 ない。


 代わりに。


 私の背後から。


 ルナの声が。


 聞こえた。


「……ヒヨリ」


「何?」


「気を付けて」


「大丈夫」


「でも」


「大丈夫よ」


 私は。


 振り返らずに。


 答えた。


「あなたを守るくらい」


 私は。


 妖刀村正を。


 握り直した。


「私には簡単だから」


 その瞬間。


 護衛の一人が。


 地面を蹴った。


 こちらへ。


 突っ込んでくる。


 私は。


 一歩。


 横へ移動した。


 剣が。


 空を切る。


 私は。


 相手の手首を。


 掴んだ。


 そして。


 軽く。


 捻った。


「――――ぐっ!」


 男が。


 地面へ倒れる。


 次。


 その隣から。


 槍。


 私は。


 避ける。


 そして。


 槍の柄を。


 掴んだ。


 そのまま。


 引く。


「うわっ!」


 男が。


 前へ。


 倒れる。


 私は。


 その背中を。


 軽く。


 押した。


 男は。


 地面へ。


 転がった。


「……」


 私は。


 思った。


 弱い。


 あまりにも。


 弱い。


 これなら。


 武器を使う必要すら。


 ない。


 けれど。


 私が。


 次の相手へ。


 視線を向けた瞬間。


「――――ヒヨリ!」


 ルナが。


 叫んだ。


 私は。


 反射的に。


 振り返った。


 そこには。


 商人の男が。


 立っている。


 しかし。


 男の手には。


 剣ではない。


 黒い。


 魔道具。


 その先端が。


 ルナへ。


 向けられていた。


「――――っ!」


 私は。


 一瞬で。


 ルナの前へ。


 移動した。


 そして。


 魔法が。


 発動した。


「……」


 何も。


 起きなかった。


 いや。


 正確には。


 私の目の前で。


 魔法が。


 消滅した。


「……え?」


 男が。


 呆然とする。


 私は。


 自分の手を。


 見た。


「……」


 空間支配。


 無意識に。


 発動していた。


 私の周囲に。


 存在する空間。


 そのすべてを。


 私が。


 支配している。


 だから。


 私の許可なく。


 魔法が。


 通らない。


「……」


 私は。


 男を。


 見た。


「今」


「……」


「ルナに」


 私は。


 ゆっくり。


 歩き出した。


「何をしたの?」


「……」


 男が。


 一歩。


 後ずさる。


「……化け物」


 その言葉を聞いた瞬間。


 私は。


 足を止めた。


「……」


 そして。


 少しだけ。


 悲しくなった。


 地球では。


 普通の人間だった。


 ただの。


 OLだった。


 それなのに。


 この世界では。


 私は。


 化け物と呼ばれる。


「……」


 私は。


 妖刀村正を。


 鞘へ戻した。


「……もういい」


「え?」


「帰って」


「……」


「今日のところは」


 私は。


 男を。


 見た。


「見逃してあげる」


「……」


「次に」


 私は。


 笑った。


「ルナに手を出したら」


「……」


「今度は」


 私は。


 男の目を。


 真っ直ぐ見た。


「本当に斬るから」


 男たちは。


 何も言わなかった。


 そして。


 逃げていった。


 私は。


 その背中を。


 見送った。


「……」


 ルナが。


 隣へ来る。


「ヒヨリ」


「何?」


「……怖くないの?」


「何が?」


「さっき」


「……」


「私を庇ったこと」


 私は。


 少し。


 考えた。


「怖いわよ」


「……」


「でも」


 私は。


 ルナの頭を。


 そっと。


 撫でた。


「あなたが怖がっている方が」


「……」


「私は嫌だから」


 ルナが。


 目を見開く。


 そして。


 小さく。


 呟いた。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 私は。


 笑った。


 しかし。


 その直後。


 私は。


 ふと。


 気が付いた。


 遠く。


 街の方向。


 そこから。


 何か。


 巨大な気配が。


 こちらへ。


 近づいてくる。


「……」


 私は。


 顔を上げた。


「……何?」


 ルナが。


 尋ねる。


 私は。


 空間支配を。


 広げた。


 そして。


 絶句した。


「……」


 街。


 城壁。


 門。


 そのすべてを。


 覆うほどの。


 巨大な魔力。


 そして。


 その中心に。


 一つの。


 存在。


「……嘘」


「ヒヨリ?」


「……」


 私は。


 思わず。


 呟いた。


「魔王」


 ルナの顔から。


 血の気が。


 引いた。


「……」


 遠く。


 城壁の向こう。


 何かが。


 動いた。


 そして。


 私の。


 解析鑑定∞が。


 初めて。


 完全な情報を。


 表示した。


『対象:魔王』


『レベル:90』


『種族:魔族』


『称号:魔王』


『状態:正常』


 そして。


 最後に。


 一つ。


 見慣れない表示が。


 浮かび上がった。


『対象は、あなたを認識しています』


「……」


 私は。


 固まった。


 次の瞬間。


 遠く離れた場所にいるはずの魔王が。


 こちらを。


 見た。


 距離。


 五十キロ。


 それなのに。


 確かに。


 目が合った。


 そして。


 魔王が。


 笑った。


「……」


 私は。


 無意識に。


 ルナの前へ。


 立った。


 魔王の声が。


 聞こえる。


 そんなはずはない。


 距離が。


 遠すぎる。


 なのに。


 私の耳元で。


 直接。


 囁かれたように。


 その声が。


 聞こえた。


『――――ようやく見つけたぞ』


 私は。


 息を呑んだ。


『異邦人』


 そして。


 魔王の視線が。


 私の後ろにいる。


 ルナへ。


 向けられる。


『我が娘よ』


 ルナが。


 震えた。


「……」


 私は。


 ゆっくり。


 振り返った。


 ルナの顔が。


 真っ青になっている。


「……ヒヨリ」


「……」


「逃げて」


「……」


「私を置いて」


 私は。


 ルナを。


 見た。


「……嫌よ」


「でも!」


「嫌」


「ヒヨリ!」


「だって」


 私は。


 笑った。


「もう」


 私は。


 妖刀村正を。


 抜いた。


「仲間でしょう?」


「……」


 ルナの瞳から。


 一粒。


 涙が。


 落ちた。


 そして。


 私は。


 遠く離れた魔王を。


 見た。


「……魔王」


 私の声が。


 風に乗る。


「あなた」


 私は。


 刀を。


 構えた。


「娘を返してほしいなら」


 そして。


 笑った。


「自分で来なさいよ」


 その瞬間。


 世界が。


 揺れた。


 遠く。


 魔王城の方向から。


 巨大な魔力が。


 噴き上がる。


 空が。


 黒く染まる。


 そして。


 私は。


 悟った。


 異世界生活二日目。


 街へ行く。


 ただ。


 それだけの予定だった。


 なのに。


 私たちは。


 魔王に。


 見つかった。


 そして。


 どうやら。


 私は。


 魔王の娘を。


 知らないうちに。


 拾ってしまったらしい。


 私は。


 空を見上げた。


「……」


 そして。


 心の中で。


 ユーノーへ。


 叫んだ。


 駄女神。


 あなた。


 本当に。


 何してくれてるのよ――――!


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