第16話 世界管理者、地球へ帰還する
翌朝。
魔王城の一室に用意された巨大な寝台の上で目を覚ました私は、しばらく天井を眺めながら、昨日の出来事を思い返していた。
異世界に召喚されてから、まだ五日しか経っていない。
たった五日。
それなのに、私の人生は、まるで誰かが私の知らないところで勝手にシナリオを書き換えてしまったかのように、次から次へとあり得ない方向へ進んでいる。
普通の会社員だった私は、ある日突然、ウォーズと呼ばれるMMORPGそっくりの世界へ召喚された。
しかも、召喚した神様は、私を呼び出したことを悪びれもせず、「お詫びとしてスキルを三つ授ける」と言い出した駄女神――ユーノー。
私は怒った。
当然だ。
仕事も生活も、何もかも放り出して異世界へ強制転移させられたのだから、怒らない方がおかしい。
ところが、その後に色々と話を聞いてみれば、私は召喚された直後から五日間だけ地球に滞在できるらしく、その五日が過ぎれば強制的にウォーズの世界へ転移するという、とんでもない仕様まで判明した。
しかも、一度ウォーズへ転移した後なら、再び地球へ戻ることも可能。
その説明を聞いた時点で、私は密かに決めていた。
絶対に地球へ帰る。
何が何でも帰る。
私は別に、異世界へ移住したくて来たわけではない。
異世界生活そのものが嫌いなわけではないし、むしろゲームの世界に似た環境は、元MMORPGプレイヤーとしては興味深い。
レベルが存在する。
スキルが存在する。
アイテムボックスが存在する。
魔法が存在する。
モンスターが存在する。
そして何より、私自身がレベル九十九の魔族になっている。
そんな世界に興味を持つなという方が無理な話だ。
けれど。
だからといって。
日本の生活を完全に捨てられるかと言われれば、答えは決まっている。
無理。
絶対に無理。
私は日本人なのだ。
異世界に住んでいても、心のどこかには日本人としての生活習慣が染み付いている。
温かい風呂に入りたい。
コンビニへ行きたい。
スマートフォンを触りたい。
冷蔵庫を開けたい。
電子レンジを使いたい。
布団に入って動画を見たい。
スーパーで好きな食材を買いたい。
そして何より。
私は。
おにぎりが食べたい。
「……」
私は寝台から起き上がった。
窓の外から差し込む朝の光が、部屋の床を淡く照らしている。
魔王城の朝は静かだった。
地球の都市部のように、車の走る音が聞こえるわけでもない。
電車の音もない。
近所の家から掃除機の音が聞こえることもない。
ただ、遠くから鳥の鳴き声が聞こえ、城内を歩く兵士たちの足音が時折響いてくるだけだった。
それはそれで悪くない。
むしろ、穏やかで美しい朝だった。
けれど。
私はその穏やかな光景を眺めながら、心の中で呟いた。
――おにぎりが食べたい。
結局、そこに戻ってくる。
「……」
私はベッドから降りると、軽く伸びをした。
昨日の戦闘による疲労は、すでに完全に消えている。
レベル九十九。
成長促進∞。
体力七千二百三十一。
そして、異常なまでのステータス。
普通の人間ならば、一晩寝た程度では回復しないような疲労であっても、私にとっては大した問題ではない。
それどころか。
昨日は世界崩壊因子という、通常の攻撃では傷一つ付けられない存在と戦ったというのに、今の私には疲労感すらほとんど残っていなかった。
自分の身体なのに、時々、自分のものではないような気がする。
それほどまでに、私の身体能力は地球にいた頃とはかけ離れてしまっている。
「……まあ、考えても仕方ないか」
私はそう呟いて、窓へ近づいた。
昨日、空に現れた裂け目は消えている。
何事もなかったかのように、青空が広がっていた。
けれど。
私には分かっている。
あの異変は、終わったわけではない。
ただ、一時的に防いだだけだ。
世界崩壊因子。
あの存在が再び現れる可能性は高い。
そして、私を知っているという謎の少女。
さらに、私自身がかつてこの世界を作ったかもしれないという、到底信じられない情報。
それらを考えれば、私が地球へ戻るという行動は、決して現実逃避ではない。
むしろ。
情報収集だ。
私はそう自分に言い聞かせた。
地球には、私が知らない何かがある。
天照大神。
宇賀神。
阿遅鉏高日子根神。
地球側の神々。
そして、私に女神チケットを渡した存在。
もし私が本当に、この世界と何らかの関係があるのなら。
地球へ戻ることで、何か手掛かりが得られるかもしれない。
それに。
私は。
女神チケットをまだ使い切っていない。
「……」
私は胸元に手を当てた。
そこにチケットが存在するわけではない。
それでも。
確かに感じる。
あの異常なほどの力を持つチケットの存在を。
ありとあらゆる願いを叶える。
そんなものが、本当に存在する。
なら。
私は。
もっと慎重に使うべきだ。
昨日のように、世界崩壊因子が現れた場合。
管理者権限には代償がある。
世界干渉にはポイントが必要だった。
ならば。
女神チケットは。
もしかすると。
この世界を救うための、最後の切り札になるかもしれない。
「……でも」
私は。
小さく笑った。
「今は、おにぎり」
世界の命運よりも先に。
私の胃袋の命運を救いたい。
私はそう考えながら、部屋を出た。
廊下へ出ると、すでにルナが待っていた。
「おはよう、ヒヨリ」
「おはよう、ルナ」
「眠れた?」
「うん」
私は頷いた。
「すごくよく眠れた」
「そう」
ルナは安心したように微笑んだ。
その隣には、ヴァルディアもいる。
どうやら二人とも、私が起きてくるのを待っていたらしい。
「おはよう」
ヴァルディアが言った。
「おはようございます、魔王様」
「……」
ヴァルディアが、少しだけ眉を寄せる。
「なぜ急に他人行儀になった?」
「昨日まではお世話になっている身だったから、丁寧にしておこうかなと思って」
「……」
「今日から地球へ帰るし」
「……」
ヴァルディアの表情が微妙に変化した。
「本当に帰るのか」
「帰るよ」
「……」
「何?」
「いや」
ヴァルディアはしばらく黙った後、ため息を吐いた。
「お前は昨日、世界を救うだの、創世神殿を探すだのと言っていたと思うのだが」
「うん」
「それなのに、今日は地球へ帰るのか」
「うん」
「……」
私は首を傾げた。
「何か問題ある?」
「……いや」
ヴァルディアは額に手を当てた。
「問題しかないような気がするが、もう何も言うまい」
「何よ、それ」
私は少しだけ頬を膨らませた。
すると。
ルナが笑い出した。
「ふふっ」
「ルナまで!」
「ごめん。でも、ヒヨリらしいなって思って」
「私らしい?」
「うん」
ルナは楽しそうに頷いた。
「どんなに大変なことが起きても、最後には自分のやりたいことをちゃんと考えてるから」
「……」
私は。
少しだけ。
黙った。
そして。
何となく。
胸の奥が温かくなった。
「……そうかな」
「そうだよ」
ルナが笑う。
「だから、私はヒヨリが地球に帰っても待ってる」
「……」
その言葉に。
私は。
少しだけ。
驚いた。
「待ってる?」
「うん」
「私が帰ってくるまで?」
「もちろん」
「……」
私は。
少しだけ。
ルナを見た。
異世界に来てから。
私は。
この少女に。
何度も助けられている。
最初は。
ただの知り合いだった。
けれど。
今では。
私にとって。
この世界で。
数少ない。
大切な友人になっている。
「……ありがとう」
「うん」
私は。
笑った。
「じゃあ、行ってくる」
「うん」
「なるべく早く戻るから」
「分かった」
「お土産買ってくる」
「お土産?」
「地球のもの」
「……」
ルナの目が輝いた。
「本当に?」
「うん」
「何でもいい?」
「何でもは無理だけど」
「じゃあ、お菓子!」
「分かった」
私は笑った。
「何か買ってくる」
「やった!」
その様子を見ていたヴァルディアが、呆れたように口を開く。
「……世界管理者が、地球旅行の土産話をしているようにしか見えんな」
「何よ」
「いや」
ヴァルディアは肩をすくめた。
「その方が、お前らしいのかもしれん」
「……」
私は。
少しだけ。
笑った。
それから。
私は。
地球へ帰る準備を始めた。
といっても。
特別な準備は必要ない。
私は。
もともと。
ほとんど荷物を持っていない。
この世界に来た時点で。
持っていたものは。
異世界生活の中で。
ほぼすべて。
アイテムボックスに収納している。
だから。
私は。
いつもの忍び装束のまま。
地球へ帰ることにした。
「……」
そして。
私は。
魔王城の一室で。
地球へ戻るための方法を確認した。
――転移。
場所。
地球。
帰還地点。
最後に存在した場所。
「……」
私は。
そこで。
少し。
考えた。
最後に存在した場所。
つまり。
私が異世界へ召喚される直前にいた場所。
それは。
自宅だった。
私は。
そのまま。
転移を実行した。
「じゃあ」
私は。
ルナを見る。
「行ってくるね」
「うん」
「ヴァルディアも」
「ああ」
「留守番よろしく」
「……」
魔王が。
深々と。
ため息を吐いた。
「俺は子供か」
「似たようなものでしょ」
「……」
「冗談よ」
私は。
笑った。
「それじゃあ」
私は。
魔力を。
集中する。
「転移」
次の瞬間。
世界が。
白くなった。
視界が。
歪む。
身体が。
何かに引っ張られるような感覚。
そして。
次の瞬間。
私は。
見慣れた場所に立っていた。
「……」
自宅。
私の。
部屋。
見慣れた家具。
見慣れたカーテン。
見慣れた机。
そして。
ベッド。
「……」
私は。
しばらく。
動けなかった。
「……帰ってきた」
その言葉が。
自然に。
口から出た。
地球。
日本。
私の。
故郷。
「……」
私は。
窓へ。
近づいた。
外を見る。
見慣れた街。
走る車。
歩く人。
電柱。
コンビニ。
マンション。
そして。
どこかから聞こえてくる。
生活音。
「……」
私は。
胸の奥が。
ぎゅっと。
締め付けられるような感覚を。
覚えた。
懐かしい。
それだけだった。
たった五日。
それなのに。
何年も。
帰ってこなかったような。
そんな感覚だった。
「……」
私は。
その場で。
しばらく。
立ち尽くしていた。
そして。
気付いた。
「……スマホ」
私は。
机の上に置かれていた。
スマートフォンを。
手に取った。
「……」
電源。
入る。
「……」
通知。
大量。
「……」
私は。
画面を。
眺めた。
会社からの連絡。
友人からの連絡。
ニュース。
広告。
SNS。
「……」
私は。
思わず。
笑った。
「……普通だ」
世界が。
何も変わっていない。
私が。
異世界へ行って。
魔王と出会い。
世界を救い。
謎の少女に。
自分の過去を。
知らされて。
それでも。
地球は。
何も知らず。
いつも通り。
回っている。
「……」
私は。
スマートフォンを。
握りしめた。
そして。
ふと。
思った。
この世界を。
守りたい。
ウォーズの世界も。
地球も。
どちらも。
私にとって。
大切なのだ。
だから。
私は。
世界管理者として。
両方を。
守る。
「……」
私は。
スマートフォンを。
机に置いた。
そして。
冷蔵庫へ。
向かった。
「……」
開ける。
「……」
何もない。
「……」
私は。
固まった。
「……」
そういえば。
異世界へ召喚された時。
突然。
五日間。
消えていたのだ。
冷蔵庫の中身など。
当然。
何もない。
「……」
私は。
ゆっくり。
冷蔵庫を。
閉じた。
「……」
そして。
スマートフォンを。
手に取る。
「……」
時間。
確認。
「……」
私は。
決めた。
「コンビニ」
行こう。
私は。
財布を。
確認した。
お金は。
ある。
日本円。
当然。
異世界では。
使えない。
だから。
地球へ戻ってきた。
今。
私の財布には。
日本円が。
入っている。
それだけで。
妙に。
安心した。
私は。
着替えた。
普通の服に。
着替える。
鏡を見る。
そこには。
いつもの。
私がいる。
秋月燈由。
普通の。
OL。
――だった。
今は。
魔族。
レベル九十九。
忍者。
世界管理者。
そして。
世界干渉スキル持ち。
「……」
私は。
鏡を。
見ながら。
苦笑した。
「……人生って」
何が起こるか。
本当に。
分からない。
私は。
部屋を出た。
そして。
近所のコンビニへ。
向かった。
外へ出た瞬間。
私は。
思わず。
深呼吸した。
「……」
空気。
日本の。
空気。
排気ガス。
人の匂い。
アスファルトの匂い。
コンビニの前を通り過ぎる人。
自転車。
車。
信号。
すべてが。
懐かしい。
私は。
そのまま。
コンビニへ。
入った。
「いらっしゃいませ」
店員の声。
「……」
私は。
思わず。
泣きそうになった。
「……」
いや。
何で。
コンビニに入っただけで。
泣きそうになるのだ。
私は。
自分自身に。
呆れながら。
店内を。
歩く。
そして。
おにぎりコーナー。
「……」
私は。
立ち止まった。
「……」
鮭。
ツナマヨ。
昆布。
明太子。
梅。
焼きたらこ。
「……」
私は。
全部。
買った。
そして。
お弁当。
サンドイッチ。
唐揚げ。
スイーツ。
飲み物。
「……」
気付けば。
買い物かごが。
いっぱいになっていた。
「……」
私は。
ふと。
思った。
異世界でも。
食料は。
買える。
料理も。
できる。
それでも。
やっぱり。
日本の。
コンビニは。
特別だった。
私は。
レジへ。
向かった。
「袋、どうされますか?」
「お願いします」
店員が。
商品を。
袋へ。
入れていく。
「お会計、二千八百六十四円です」
「はい」
私は。
財布から。
お金を。
出した。
――二千八百六十四円。
その金額を。
支払った。
「ありがとうございました」
「……」
私は。
コンビニを。
出た。
そして。
袋を。
見た。
「……」
たった。
二千八百六十四円。
それなのに。
妙に。
嬉しかった。
異世界では。
大量の金貨を。
持っている。
白金貨。
金貨。
銀貨。
銅貨。
青銅貨。
それでも。
私は。
日本円で。
コンビニの。
おにぎりを。
買ったことが。
嬉しかった。
「……」
私は。
自宅へ。
戻った。
そして。
テーブルに。
買ってきたものを。
並べた。
「……」
私は。
おにぎりを。
一つ。
手に取った。
包装を。
開く。
海苔の。
香り。
「……」
私は。
一口。
食べた。
「……」
美味しい。
普通の。
コンビニおにぎり。
なのに。
どうして。
こんなに。
美味しいのだろう。
「……」
私は。
無言で。
食べ続けた。
そして。
気付けば。
全部。
食べていた。
「……」
満足。
私は。
ソファーに。
座った。
スマートフォンを。
手に取る。
そして。
ネットを。
開いた。
ニュースを見る。
動画を見る。
SNSを見る。
それだけなのに。
私は。
妙に。
安心した。
地球は。
何も変わっていない。
私が。
戻ってきたことを。
誰も知らない。
誰も。
私が。
異世界にいたことを。
知らない。
私は。
普通の。
秋月燈由。
そのはずだった。
「……」
私は。
スマートフォンを。
置いた。
そして。
ふと。
思った。
――現実化。
昨日。
見つけた。
スキル。
必要ポイント。
1000000pt。
私の。
残りポイント。
1169000pt。
買える。
私は。
少しだけ。
迷った。
このスキルを。
使えば。
地球で。
ウォーズ世界の。
システムを。
使えるかもしれない。
もし。
本当に。
使えるなら。
私の。
生活は。
劇的に。
変わる。
魔法。
アイテム。
スキル。
ポーション。
武器。
防具。
そして。
もしかすると。
ウォーズ世界の。
アイテムを。
地球へ。
持ち込める。
「……」
私は。
スキル画面を。
開いた。
そして。
【現実化】を。
選択する。
「……」
購入。
その文字を。
見つめる。
私は。
考えた。
地球で。
これを。
使う。
その意味。
もし。
魔法が。
現実になれば。
世界は。
変わる。
もし。
スキルが。
現実になれば。
社会は。
変わる。
もし。
ウォーズ世界の。
アイテムが。
地球で。
使えるなら。
それは。
人類の。
歴史を。
変えるほどの。
力になる。
「……」
私は。
画面を。
閉じた。
「……」
まだ。
買わない。
今は。
まだ。
早い。
私は。
そう判断した。
この力は。
強すぎる。
だから。
もっと。
慎重に。
考える必要がある。
「……」
私は。
ソファーに。
深く。
身体を。
預けた。
そして。
天井を。
見上げる。
「……」
その時。
スマートフォンが。
鳴った。
「……?」
私は。
画面を見る。
知らない番号。
「……」
私は。
少し。
迷った。
そして。
電話に。
出た。
「もしもし?」
『――秋月燈由』
「……」
私は。
固まった。
『ようやく』
聞き覚えのない。
声。
『地球へ戻ったか』
「……」
私は。
立ち上がった。
「あなた、誰?」
『……』
「どうして私の名前を知ってるの?」
『それより』
電話の向こう。
声が。
笑った。
『お前は、何を持ち帰った?』
「……」
私は。
息を。
止めた。
『ウォーズから』
私は。
黙っていた。
『何を持ち帰った?』
「……」
『スキルか』
「……」
『アイテムか』
「……」
『それとも』
声が。
低くなる。
『世界そのものか』
私は。
電話を。
切った。
「……」
静寂。
部屋の中に。
静寂が。
戻る。
私は。
スマートフォンを。
見つめた。
「……」
そして。
私は。
気付いた。
自分の。
右手。
そこに。
淡い光が。
浮かんでいる。
「……」
私は。
目を。
細めた。
光の中に。
一つの。
文字が。
浮かんでいる。
――――――――――
【警告】
【現実化スキルの取得を検知】
【世界境界への干渉を確認】
【地球側管理権限が反応しています】
――――――――――
「……」
私は。
息を呑んだ。
地球にも。
管理者が。
いる。
いや。
違う。
地球そのものが。
管理されている。
そして。
私が。
現実化スキルを。
取得することを。
何者かが。
監視している。
「……」
私は。
静かに。
立ち上がった。
そして。
部屋の。
中央へ。
歩く。
「……」
私は。
右手を。
前へ。
突き出した。
「……」
その瞬間。
目の前に。
見慣れた。
ステータス画面が。
浮かび上がった。
しかし。
そこには。
今まで。
存在しなかった。
新しい項目が。
表示されていた。
――――――――――
【世界所属】
現在地:地球
世界階級:上位世界
管理権限:天照大神
異世界干渉権限:許可
世界間移動:許可
――――――――――
「……」
私は。
呆然とした。
地球。
上位世界。
管理権限。
天照大神。
「……」
そして。
私は。
理解した。
ユーノーが。
私を。
ウォーズ世界へ。
召喚した。
けれど。
ウォーズ世界は。
地球より。
下位。
つまり。
私は。
下位世界から。
上位世界へ。
戻ってきた。
そして。
地球には。
天照大神がいる。
私が。
女神チケットを。
持っている。
その理由も。
少しだけ。
分かった気がした。
「……」
私は。
静かに。
呟いた。
「天照大神」
その瞬間。
部屋の中が。
突然。
明るくなった。
「……!」
私は。
反射的に。
身構える。
しかし。
そこに。
敵は。
いなかった。
ただ。
私の。
目の前に。
一人の。
女性が。
立っていた。
長い髪。
穏やかな。
笑顔。
そして。
圧倒的な。
神気。
「……」
私は。
その姿を。
見た瞬間。
理解した。
「……天照大神」
「はい」
女神は。
微笑んだ。
「久しぶりですね」
「……」
私は。
言葉を。
失った。
そして。
ようやく。
気付いた。
私は。
この人を。
知っている。
いや。
正確には。
知っている気がする。
私の。
遠い記憶の。
どこかで。
何度も。
会ったことがあるような。
そんな感覚。
「……」
天照大神が。
私を見る。
「燈由」
「……」
「あなたは」
女神が。
優しく。
笑った。
「また、世界を救うつもりなのですね」
「……」
私は。
答えられなかった。
「……私」
私は。
ゆっくり。
口を開く。
「昔」
「はい」
「この世界を」
「……」
「知っていた?」
「ええ」
「……」
天照大神は。
否定しなかった。
「知っています」
私は。
拳を。
握った。
「じゃあ」
「……」
「私が何者なのか」
「……」
「知ってるの?」
天照大神は。
しばらく。
黙った。
そして。
静かに。
答えた。
「知っています」
「……」
私は。
息を呑んだ。
「なら」
私は。
女神へ。
一歩。
近づいた。
「教えて」
「……」
「私は」
私は。
自分の胸へ。
手を当てる。
「一体、何者なの?」
天照大神は。
私を。
まっすぐ。
見つめた。
そして。
その瞬間。
私は。
初めて。
自分自身の。
本当の過去へ。
繋がる。
扉の前に。
立っていることを。
知った。
女神は。
ゆっくりと。
口を開いた。
「あなたは」
「……」
「かつて」
その言葉を。
聞いた瞬間。
私の。
ステータス画面が。
突然。
激しく。
点滅した。
――――――――――
【緊急警告】
【禁則情報へのアクセスを確認】
【世界崩壊因子による干渉を確認】
【世界間境界が破壊されています】
――――――――――
「……え?」
私は。
画面を。
見た。
天照大神の表情が。
変わる。
「……まさか」
「どうしたの?」
「早すぎます」
「……」
「まだ、あなたが」
天照大神が。
私を見る。
「記憶を取り戻すには」
その瞬間。
部屋の。
壁が。
黒く染まった。
「……!」
私は。
即座に。
妖刀村正を。
取り出した。
地球。
私の部屋。
その空間に。
黒い亀裂が。
生まれていく。
私は。
息を呑んだ。
「……嘘」
世界崩壊因子。
あいつらが。
追ってきた。
「天照大神!」
「はい」
「これ」
「ええ」
女神は。
静かに。
頷いた。
「地球まで」
「……」
「追ってきました」
私は。
村正を。
握りしめる。
そして。
思った。
地球へ。
帰ってきた。
ただ。
それだけなのに。
私は。
また。
戦うことになった。
「……」
私は。
ため息を。
吐いた。
「……」
そして。
私は。
笑った。
「本当に」
「……」
「異世界って」
私は。
黒い亀裂を。
睨みつける。
「休ませてくれないのね!」
その瞬間。
黒い亀裂の向こうから。
昨日聞いた。
あの声が。
響いた。
『――秋月燈由』
私は。
村正を。
構える。
『――ようやく見つけた』
「……」
私は。
笑った。
「悪いけど」
私は。
魔力を。
一気に。
解放した。
「私は今」
地球に。
帰ってきたばかりなの。
「……」
私は。
村正を。
構える。
「お土産も」
私は。
笑う。
「まだ買ってないのよ」
世界崩壊因子。
地球への侵入。
天照大神。
そして。
私自身の。
失われた過去。
異世界から。
地球へ帰ってきた。
それだけだったはずの。
私の帰還は。
わずか数時間で。
新たな戦いへと。
変わろうとしていた。
そして。
私は。
まだ知らない。
この戦いが。
私自身の。
失われた記憶を。
取り戻すための。
最初の一歩になることを。
そして。
地球とウォーズ。
二つの世界を巻き込んだ。
新たな物語が。
今。
始まろうとしていることを。




