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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
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宿坊あやかし奇憚 (桃太郎 編 7 )

『旅の方ですか?』


美味そうに粥を食べる吉備津日子に微笑みながら女は聞いた


「いや・・・」


言葉が継げない吉備津日子に女はどう思ったのか


『急がれないのなら体が回復するまで逗留して下さい』


どこまでも優しげな笑みで言った


「ご迷惑では・・」


『私1人暮らしですから気兼ねなど要りません』


「失礼だが・・父母は?」


『いません。子供の時に病で父が亡くなり、母も前年・・・』


「それは・・辛い事を聞いてしまったな」


『いいえ。大丈夫です』


女は薄っすらと涙を浮かべたものの気丈そうに微笑んだ



「しかし・・女の1人身であれば、何処の者とも知れぬ男が家に居るのは・・」



『あぁ。気にしないで下さい。


 母は薬草に詳しくて薬師の様な事をしていました


 私も母に習い村人を診たりしています


 この家で病人等の面倒を見ていても誰も何とも思いません』


女は安心させる様に微笑む


「それならば・・世話になる」


吉備津日子はその笑顔に見惚れながら軽く頭を下げた


『何と呼べば良いですか?名は・・?』


「吉備・・・吉彦(きちひこ)だ。そちらは?」


『すごい! 凄い偶然!!』


「え?」


『私、お吉(よし)っていいます。でも本当は吉(きち)なんですよ


 村の人は呼び易いのか、お吉って言うんですけどね・・』


 何だか家族が増えたみたいで嬉しい・・と一層微笑むお吉に


 吉備津日子は何とも言えず苦笑いの様な顔しか出来なかった。




それから数日、病でもなく衰弱していただけの吉備津日子・・・吉彦は回復していった


これと言ってする事も無く行く宛ても無い吉彦はただ吉の手伝いをして過ごしていた



山へ行き薬草を集めたり、畑で自分達の食べ物を作る・・


そんな普通の・・


庶民の生活を知らなかった吉彦には毎日が新鮮で全て吉が先生だった


不思議な事に・・吉と共に居れば嫌な夢は見ないのも不思議で安堵できる



そうして過ごす内、当然の様に2人は愛し合い村でも評判の鴛鴦夫婦となった










―― 10年後 ――



『ねぇ吉彦? 今日、村の人に変な事言われたの』


吉は思い出し笑いの様にクスクス笑うと続けた


『村の人達が吉彦が全然老けないから、不老の薬でも造ったのか?ですって』


「それで・・・吉は何と答えたんだ?」


『そんな物があるなら私が使ってるわよ。って言っておいたわ』


可笑しいでしょ?吉はまだクスクスと笑っていたが


吉彦はハッとした顔で吉を見つめていた


出合ったのは吉が17歳の時・・・それから10年、吉は27歳となり


女としても熟して来た方だ、吉彦は10歳上の37歳。


平均寿命が50歳というこの時代・・・吉彦はもう初老と言ってもいい風体な筈だ




―― まさか・・



吉彦はじっと吉を見つめる。


そうして自分がしてきた事・・島の討伐・贅沢な暮らしの中でニンカンを食べた事


妻に催促され逃げ出した事・・全てを吉に話した


『 ・・・不老・・不死?』


「あぁ・・」


『え~!! 吉彦だけズルイ!!』


「え?・・・ズルイ?」


『私もそうなら、ずーっと一緒に居てあげられるのに・・』


「ずっと・・」


『うん。あ!でも看取って貰えるね?』


「あぁ。・・・俺が・・怖くないのか?」


『え?怖くないわよ? 何で吉彦が怖いの?』


「いや・・人じゃないから・・」


『え~?! 人じゃないと駄目なの?』


「いや。それは吉が決める事だが・・」


『じゃぁ良いじゃない?私は何であろうと吉彦が良い』



―― そんな・・簡単な事なのか?



『どうして吉彦が暗い顔してるのよ?』


「いや・・良いのか?」


『良いって言ってるじゃない?


 あ!!そうだ。次も、その次の世も・・私を探して。夫婦になって?』



「え・・・?!」


『イヤなの? だって吉彦・・・私が居ないと暇になっちゃうでしょ?』


「暇って・・・」


『えー?だって不老不死って凄く暇そう』


「ぷっ・・」


『やっと笑った♪ 約束して。私を探してくれるって』


吉は微笑みながら小指を出す


「わかった。約束だ」



―― 暇潰しなどと言いながら・・俺に希望を与えたのか・・



吉彦は指を絡めながら吉に感謝した





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