宿坊あやかし奇憚 ( 桃太郎 編 6 )
「・・・大丈夫か?」
話を途中で止めると半蔵は心配そうに未来に聞いた
眉根を寄せ、何かを堪える様に自分の手を握り締めていたからだ
『・・大丈夫』
「でも・・」
半蔵は切なそうな未来が堪らなく抱き寄せようと手を取る
『触らないで。 いいから・・続き話して・・』
キッパリとした否定に弾かれる様に手を離す半蔵
「あぁ・・・」
―― 聞く気はあるのか・・
半蔵は乾いた口を湿らす様に酒を呑むと話を続けた
「あなた?毎日、お酒を召してるのも良いのですけど
そろそろ鬼退治に行っていただかなくては・・
財宝も無くなってしまうわ」
妻の催促に耳を疑った吉備津日子
蔵を見ると一生遊んで暮らせると思った財宝は案外早く底を着いてきた
贅沢に慣れた妻だけを責める事はできないが・・
「何故、こんな事に・・・」
吉備津日子は聞かずには居られなかった
「良いじゃない?また鬼退治に行けば」
あっさりと言う妻が酷く醜く見えた。そうして自分も・・・
―― あの島の者達の方が・・・清い。
隷属するより死を選んだ長が眩しいくらいに清く思えた
最後に斬った女の顔が蘇る
「人とは何処までも傲慢で弱いだけではないか!!」
―― あぁ・・傲慢だ。我等は正義を騙った盗賊ではないか・・
「この怨み忘れない!!忘れさせはしない!!」
―― 忘れられる訳が無い・・
吉備津日子はもう着いている筈も無い血糊を拭く様に顔を何度も拭った
それから毎日、あの時の光景を夢で見ては飛び起きる事が続いた
眠れない夜が続き
妻は顔を見る度、鬼退治へ行けと言い募る
耐えられなくなった吉備津日子は幾ばかりかの金と剣だけを持ち
討伐へ行くと称して家を出た
贅沢な暮らしに慣れてしまった吉備津日子が餓えるのに大して日はかからなかった
金も無い・・・着ていた物も汚れてきた。
何より・・ここ何日か何も食べていない・・・
突如、目の前が霞みバタリと倒れこむ吉備津日子
意識が遠のく刹那・・・殺した女の笑い声が聞こえた気がした
「・・・笑うな!!やめろ!!」
吉備津日子が自分の声で目を覚ますと見知らぬ天井が見えた
『大丈夫ですか?』
若い女が心配げに覗き込む
「ここは・・」
『私の家です。あなた・・そこの道端で倒れていたんですよ?
私だけでは無理なので村の人に言ってここに運んでもらったんです』
「それは・・・」
すまない事をした。と礼を言いかけたが盛大に鳴った腹の虫に邪魔された
『お腹が空いているんですか?』
クスクスと笑いながら女が聞くと本人よりも腹の虫が返事をする
吉備津日子は顔を赤らめるしかなかった
女はさっと立ち上がると椀を用意して吉備津日子の前に置く
『粟粥しかありませんが・・起き上がれますか?』
「あぁ・・」
眩暈を感じたが支えてもらいながら起き上がり漸く椀を持った
1口すする
―― 美味い!!
贅沢な方々の山海の幸よりも、たった1杯の粟粥が胃と心に沁みた




