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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
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宿坊あやかし奇憚 ( 桃太郎 編 5 )

「従ったとて・・・何だと言うのだ?」


「・・・。」



「調査が終わりました」


長の沈黙を破る様に犬飼が吉備津日子に声をかけた



「考えてみてくれ」


吉備津日子は長にそう言うと犬飼を外へと誘う





「ここでは男が蹈鞴製鉄を女は絹織物を行ってる様です


 島とは言え、これだけ緑が豊かなら鉄製品を作るのにも困らないでしょう


 それに・・鉄や絹で何所かと交流していたらしいです


 金銀は勿論、赤珊瑚・水晶・玉など・・・財宝が沢山あります」



「そうか・・・」


吉備津日子は先程の言葉を考えた



―― 従ったとて・・・その全てを奪われるだけ・・



長はそう続けたかったに違いない。



「長との話合いはどうだったのですか?」


楽々森彦が聞くと


「討伐ですか?」


鳥飼いの留玉臣が空かさず言う



「従わぬ。とはまだ言わぬ」


吉備津日子は眉根を寄せると長の元に戻った




















「考えは決まりましたか?」


「はい。隷属は出来ません」


「隷属などとは言っておらんが・・」


「同じで御座います」



男達は蹈鞴の技術を・・女達は養蚕と絹と男達の為に使われる


自分達の意思に関係なしに働く事は奴隷と同じだ



「それでは討伐させて頂く」


吉備津日子の目が冷たく光る


長はその目をジッと見つめると首を晒す様に下を向いた


躊躇なく斬りつける吉備津日子


長は斬られたその瞬間、一言も発しなかった




吉備津日子は顔についた返り血を袖で拭うと


「討伐だ!!」と外の3人に怒鳴った



3人は手近な者から斬り付ける


殺戮を繰り返す様はまるで地獄絵図だ


男は勿論の事、逃げ惑う女、泣き叫ぶ子供を容赦なく斬り捨てる


視界が無慈悲な紅へと染まっていった






「何故、このような無体が許される!?


 容姿が違うからか?


 姿が違っても我等も1人1つの魂を持っておるのに!!


 鬼と呼び蔑み殺されても当たり前だと言うのか!!


 人は人だというだけで偉いとでも言うのか?尊いとでも?


 人とは何処までも傲慢で弱いだけではないか!!


 この怨み忘れない!!忘れさせはしない!!


 いいか。覚えておれ!!末代まで祟ってやろうぞ・・」



吉備津日子は追い詰めた女の言葉諸共、斬り捨てる様に剣を振るった

























討伐が終わると財宝を積めるだけ船に積み島を後にした


分け前は4等分、それでも一生遊んで暮らせるだけの財があった




どうせ天皇にはなれない・・・討伐へ向かえば死すら覚悟する


これはその報酬だ。贅沢に暮らして何が悪い?







「あなた。珍しい物が手に入りました」


「ほぉ?珍しい物とは?」


「まずは召し上がって下さいな」


すっかり贅沢に慣れた妻は着飾り艶やかに笑うと勧める


「肉のようだが・・・」


「はい。越から取り寄せた珍しい物で御座います」


「どれ・・」


朱の肉を1つ口に入れる吉備津日子


「美味い!!」


それは生肝の様な食感で肉とも魚とも言い難い旨味がある


そこへ酒を流し込むと酔いと相俟って脳髄に甘美な快感が走った


夢中で食べる吉備津日子



「まぁ気に入って頂けた様で」


「あぁ。これは何と言う物だ?」


「ニンカンで御座います」


「半身は人、半身は魚だと伝えられる・・あの?」


「えぇ。」


貴方には長生きしていただかなければ・・・


妻はそう言うと一層、艶やかに笑った




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