宿坊あやかし奇憚 ( 獏 編3)
「未来様を見つけました。」
そう烏が報告に来た時、すでに夜も遅い時間だった
星も見えない今夜は闇が一層濃い気がする
「あぁ。ありがとう」
少ないが・・・そう言うと半蔵は烏に酒を2升差し出した
烏は舌なめずりすると笑顔で帰っていく
―― 仕方が無いとは言え随分かかったな・・
まぁ・・死神が一緒なら危険は無いと思うが・・・
貞操の危機は未来が自分で防ぐだろう・・
半蔵は酒を呑みながら数日前、未来に蹴られた事を思い出し顔を赤らめた
『 ぃや!! やだ!!・・・やめて!!』
豪華なベッドに似つかわしくない叫び声を上げて未来は目覚めた
どうやら、眠れるか?という自分の心配を明後日の方向に置き
あのまま寝てしまったらしい・・・
―― やっぱり。家に居たから覚えてなかったんだ・・
夢の内容は判ったけど・・・
未来が「イヤな夢」と判じた夢の内容は半蔵が未来にキスをする夢だった・・
しかも場面が変わる度に毎回・・・優しげに自分とは違う名前を呼ぶ
半蔵が時代ががった衣装・・
歴史の教科書で見た様な服だったりしてるのは気にかかるが
そんな事より名前を呼ばない所か、違う名前で自分を呼ぶ半蔵が悲しかった
「未来。大丈夫ですか?」
叫び声を隣の部屋で聞きつけやってきたらしい死神が声をかけた
『・・・うん。』
起き上がった未来は下を向いたままだ
「大丈夫には見えませんが?」
『・・・うん。』
「話してもらえませんか?」
『・・・いや。』
未来がそう言い顔を上げた時ポロリと涙が1粒落ちた
「未来・・」
堪らず死神が未来を抱き寄せようとすると、その手を止め
『だめ。』
きっぱりと言う未来
「何故ですか?」
『何故って・・』
―― 半蔵の事で悩んでるのに・・
「良いですよ。」
死神はふっと笑むと未来を引き寄せ抱き締めた
何時もと違い身を硬くする未来
「未来の悲しむ顔を見て私が難とも思わない筈がないじゃないですか・・
どんな理由であろうと、こうして抱き締めたくなってしまう。
未来なら、どんな時でも私に甘えて良いんですよ」
そう言い死神は未来の頭を優しく撫でた
『沙羅・・・ありがとう』
鼻にかかった声で未来は言うと緊張を溶く様に力を抜き身を寄せる
またポロポロと涙が幾たりか落ちた
―― 大人の女性の慰め方なら知っているんですがね・・・
死神は子供にする様に未来の背中をポンポンとすると小さく溜め息をついた
―― そろそろ・・潮時なのか・・
誰も居ない宿坊で半蔵は酒を煽りながら思いに耽っていた
お爺の3回忌・・・自分で未来に伝えろと言われた運命の話は・・
まだしていない。
突然に話し、強制した様にはしたくなかったからだ
今まで話さなくても結ばれて来た事もある・・・
過去世を思い出し受け入れた者も居た
全ては遠い過去から繋がる1つの魂だ
しかし・・・今回は全てを話さなければならない気がしている
感と言うには儚げで贖罪の念に駆られているのでは?とも思えるが・・
未来は俺の過去がどうであろうと気にせず側に居てくれるだろうか?
それだけは半蔵にも見当がつかなかった




