宿坊あやかし奇憚 (清姫編2)
10数分前・・・
何故だか未来に持たされたお膳を手に足で襖を開け坂田は驚いた
清姫が半蔵の首へと手を回し椿のような紅い唇を重ねている真っ最中だったからだ
「何やってるんだよ?!」
「なんだ・・・女将かと思ったのに。残念・・」
清姫は坂田に気が付き離れると悪戯を見つかった子供の様に口を窄める
「だから何しに来たんだ?!お前まで・・」
半蔵は唇に着いた紅を手の甲で拭うと坂田を睨んだ
「いや。俺は・・・止めたんだけど・・」
「何って・・確かめに・・かしら?」
「はぁ?!何を?」
「ねぇ・・女将呼んできてよ。 さぁ座って・・呑みましょう」
問いには答えず清姫は坂田に言うと半蔵に座る様促した
『お料理とお酒をお持ち致しました』
「は~い。どうぞ」
『失礼いたします』
手を添え襖を開けると鍋を持っている坂田を先に部屋に入れ
続いて自分も入ると襖を閉める
―― 普段は雑だが、この所作も板についたか・・・
半蔵が考え深げに見ていると未来と目が合ったが・・・逸らされた
―― 半蔵ったら口の端・・紅いし
いや。でも彼女なら当たり前か・・
でも何か・・イヤだなぁ・・
取り皿と酒を置きながら未来は複雑な想いに駆られていた
部屋を飛び出したい衝動を抑えながらも
『それでは・・これで失礼いたします』
丁寧に挨拶をし出て行こうとする。
「ちょっと待って。女将さんも1杯付き合ってくださいな」
清姫は半蔵に凭れながらグラスを差し出した
―― 早く出たいんだけど・・・お客様だし・・
拒否権無い・・よね?
『じゃぁ1杯だけ・・』
「そうこなくっちゃ・・」
清姫はグラスを渡すと酒を波々と注ぎ
未来は秀麗な笑みを浮かべると一気に飲み干した
「・・いい呑みっぷり!さぁ・・もう1杯」
清姫が空のグラスに酒を注ごうとするのを未来は止め
『いいえ。まだ仕事が残ってますから・・』
そう言うと微笑み失礼致しますと部屋を出て行く
―― 未来って・・・あんなに綺麗だったか?
確かに麗しいと言われるのを何度も聞いた事はある・・
しかし半蔵は溌剌で可愛い未来しか見た事が無いため
何時も可憐だろ・・と突っ込んでたのだが
秀麗な笑みを浮かべる未来はハッとする程、美しい
半蔵は未来が出て行った方を暫く見つめていた
『あ~ぁ・・冷めちゃった・・』
未来は戻ってくると冷めたおでんを見つめ悲しげに眉根を寄せた
『・・・。』
―― 温め直すのも面倒だし・・・何だか・・食べたくないなぁ・・
・・・・半蔵の・・馬鹿ぁ
未来は残っていた酒を飲み干すと残りを片付け始めた
胸がチクチクと痛む・・
心の奥底から徐々に凍て付くような孤独感を持て余すかの様に
未来は深い溜め息をつくと部屋へと戻った




