宿坊あやかし奇憚#44
「お嬢。御飯の前に御爺様を起こしてきて下さい」
『は~い!!』
起こさなければ御飯があたらない・・とばかりに
未来は爺の部屋に駆けて行くと勢い良く戸を開ける
『お爺!!御飯だよ!!もぉ~夕べ半蔵とあんなに呑むから・・』
大抵声をかけなくても起きる爺だが・・文句の1つも言いたい所だ
『何時まで呑んでたのよ!! お爺が来ないと御飯お預けなんだからね!』
言い募るが爺は一向に起きなかった
『・・・・お爺?? ねぇ・・・お爺?』
体を揺さぶっても何の反応もない
『 は・・半蔵!! 半蔵!!』
未来はその場に座り込むとただ半蔵を呼ぶ事しか出来なかった
「お嬢。どうしたんです?!」
未来の声に半蔵はすぐに部屋へ来ると言うが
ただ黙って爺を指差す未来
半蔵は眉根を寄せ爺の様子を確かめると短く首を振った
それから病院へ行き死亡宣告を受け遺体を引き取り葬儀の準備をする
ぼんやりとしている未来の代わりに半蔵は忙しく動き回っていた
今、未来は御棺の前に座り人形の様にピクリとも動かない
時々線香を絶やさぬ為に動くのが生きてる証かのようだ
―― 逝く日ぐらい言っておけよ・・・クソ爺・・
爺の死の訳を知っている半蔵には悲しみは無い
未来の心を心配しながらも現実の忙しさに振り回されていた
「 篁―!! 世話になりに来たぞ!」
爺は三途の川の橋を渡ると、ある建物の前で大声を上げる
驚いた雑式は篁へと知らせに走る羽目となった
「御爺様・・・また急な・・」
急ぎ来た篁は珍しく息を切らしている
「1週間と言われておったからのぉ~」
「それは・・あの者は知っているのですか?」
「半蔵か?・・・知っとるじゃろ・・・・・・多分。」
「あぁ・・それより死神をやらなければ」
「もう良いじゃろ・・こうして此処に居るんじゃし」
「そういう問題ではありません」
「硬いのぉ~」
「仕事ですから」
「・・・修羅場にならなきゃ良いがのぉ」
言葉とは裏腹に爺は愉快そうな声色で言った
「他の死神に・・と言う訳にもいかないと思います
未来ちゃんの事ですし・・あいつは長官ですから」
「見たいのぉ~」
「御爺様・・・」
完全に面白がっている爺に篁はこっそりと溜め息をついた
「おい。未来!何時でも呼べって言っただろ!!」
弔問客も落ち着いた頃、庭から突然に声がかかった
少年はつかつかと居間へと上がると隣に行き
座布団ごとクルリと未来を自分の方に向ける
ぼんやりと見つめる未来
『 天狼だって・・呪いたい人いないし・・』
「そうじゃないだろ!!」
『 え・・だって探し物もないし・・』
「 ここ・・皺寄ってるぞ」
そう言うと狗神は未来の眉間をつつく
未来は唇を噛み締め瞳には溢れんばかりの涙を溜めていた
「 馬鹿だな・・ほら・・」
狗神は優しげな笑みを作り両手を広げると
未来の頬を止め処なく涙が伝う
『うわぁぁぁぁぁん 爺が・・爺が・・』
未来は狗神の胸に顔を埋め子供の様に泣き叫ぶ
声に驚き飛んできた半蔵はそんな未来を見ている事しか出来なかった




