宿坊あやかし奇憚#39
「孫はまだ若い。これから楽しい事も沢山あるじゃろう・・
じゃがそれは人の世に生まれ人として生きて味わい貫いて欲しいのじゃ
辛い事もあるじゃろうが・・・人として乗り越えて欲しい・・
そう思うのは爺のエゴかもしれない・・じゃが・・」
爺は高御産巣日神に土下座をしながら涙に声を詰まらせた
「大国主・・そちが戻るのなら問題は無い
ただ・・・1人残された孫はこれからどうする?」
高御産巣日神なりに心配しているらしい・・優しげな声色で言った
「心配には及びません。人は何時でも、それなりに人生を紡いで行く者です」
「ならば良い・・・1週間後、人としての手続きを終了してから参れ」
「はい。」
爺が深々と頭を下げると高御産巣日神は御簾の内から去った
人としての手続き終了とは、人の世での死を意味する。
その後、神世に戻り報告するのだが・・・
―― 1週間とは随分急な・・
神は神の時間尺度があり人のそれより長いものだ
だからこそ、未来が大人になるまで・・結婚し曾孫を抱くまで・・
と思ってた爺だったが
神の常識もまた違う。
必要あれば急集し、それ以上の用など優先させる事は許されない
未来が1人になってしまうから死を賜る・・神として最良だと思う処置だろうが・・
残された者の悲しみや気持ちは考えない。
人はそうして忘却の彼方に追いやられる者だから
「そろそろ帰りますか?」
沢山の食事を平らげた後の散歩中、湖の辺で死神は未来に聞いた
『帰れるの?』
ぱっと明るい表情をする未来
「えぇ・・・帰りたいですか?」
『うん。だって美弥も居るし・・お爺や半蔵も心配してるだろうし』
「・・・。」
死神は悲しそうに微笑むと未来を抱き締めた
『ねぇ。沙羅? 沙羅の携帯教えて?』
「未来が呼べばスグにでも行きますよ?」
『う~ん。それも嬉しいけどメールもしたいなって』
「それなら後程、私からメールしますよ」
『わかった♪』
笑顔の未来とは裏腹に、ふっ・・と暗い表情になる死神
未来の肩に頭を置くと
「・・・未来?帰したくないと言ったらどうします?」
答えが解っていながら聞いてみた
『う~ん・・どうするって・・
それじゃぁ何日か居ようか?って私が言って・・・沙羅は満足するの?』
―― これはまた・・意外な・・
それでも帰ると言うだろうと予想していた死神だが
譲歩の余地があったとは・・
「満足ですよ。」
あっさりと答える死神
『え~?!そう?2日居たら3日目も・・ってならない?』
「さぁ?そうなった事がないので解りませんが・・」
死神は首を傾げながら考える
『じゃぁケーキ! テーブルに色々な種類のケーキが並んでるとして
1個食べるでしょ?そうしたら、もう1個。これもあれも・・ってならない?』
「ケーキは1個で十分ですが・・・食べに行きますか?」
『わ~ぃ♪・・・・って・・そうじゃなくて!』
「未来と共に夜を過ごせるなら・・1夜だって満足です」
『・・・沙羅が言うとイヤラシイんだけど』
未来は真っ赤になりながら言う
―― イヤラシイって事は異性として意識はしてるんですね
「イヤラシイですか・・・キス以上はしませんよ?」
死神は微笑むと未来に提案する
『ほんと?』
「えぇ。未来に嘘はつきません」
『ケーキも食べさせてくれる?』
「勿論ですよ」
『わ~ぃ♪じゃぁ泊まる!!』
―― 餌付けの方が早いのでは・・・
意外な展開で願いが叶った死神は複雑な心持ちで1人考えるのだった




