宿坊あやかし奇憚#31
「呪いは返されたって事で・・どうですか?」
死神はフッと笑むと静かに狗神に言う
「解ったよ。ここまでされたらな・・俺は奴を殺れれば良いし」
狗神は顎を擦りながら言った
呪いは返されると倍になり術者に返る
人を呪わば穴2つ・・・呪いへの戒めとしてよく使われる言葉だが
術を掛ける為に1つ、返された時に更に1つの墓穴
(魂)が必要だという事だ。
術者の命以上のモノが払えなければ、やるべきではない。
「主まで殺るなって言わないよな?」
狗神は未来に向かって聞いた
『いや。そこはその人の自業自得でしょ。』
未来はあっさりと言うと肩を竦める
「だよな?・・・お前。変わった女だな~。
・・・よし!決めた。
お前になら無償で使役されても良いぜ。俺に名を付けろ」
『え?使役?・・・名前?』
「良いから。早く決めろ!」
『う~ん・・・ポチ。』
「おい!!俺は裏の畑でここ掘れって言わないぞ!」
『だって~犬の名前って言ったらポチじゃない?』
「却下。」
『え~?・・・じゃあ・・・・天狼』
―― 天狼・・・大犬座のシリウスですか・・
私の時もそうでしたが・・
未来は意味を理解して付けてるんですかね・・
「よし。決まりな!何時でも呼べよ!」
天狼は嬉しそうにニッコリと笑う
『何時でもって・・・呪いたい相手なんて居ないよ~』
「まぁ良いから!何時でも呼べ!」
『うん・・』
「無くし物とか探してくれるかもしれませんよ?」
「俺は犬か?!」
―― 犬じゃん・・・
「さぁて・・・じゃぁ帰るか」
狗神は可愛い顔に似合わぬ怖い様な笑みを浮かべると掻き消えた
『沙羅。ありがとう』
「何のお礼ですか?」
『だって・・・天狼を止めに来てくれたんでしょ?事故が起きない様に』
「寿命ではない死でしたから・・止められたんですけどね」
『寿命ではない?』
「えぇ。呪術による死は時に寿命では無い時があるんですよ・・
体を失うと・・手遅れですけどね・・」
『寿命ではない魂はどうなるの?』
「大概が・・・贄として奉げられます。今の場合は、あの犬に喰われます」
『・・・・。』
未来は悲しげに眉根を寄せた
「そんな顔をさせるつもりは無かったんですけどね・・」
死神は言うと未来を抱き締め頭を撫でる
「未来は優しい・・・」
『そんな事ないよ?知らなければ放っておくし・・』
未来は顔を上げるとキッパリと返し
―― 普通・・知らなければ何の対応も出来ないのでは・・?
未来の斜めに向かった思考に死神は首を傾げた
「知ってしまったら、今みたいに放っておけないじゃないですか・・」
『うん・・・でもそれは私が腹立つからだよ?
私が殴りたいから殴るだけ。それだけだから。』
「でも先程の様に他人の事にも心を痛める・・優しいんですよ未来は」
そう言うと死神は未来の頬にキスをする
『・・・お礼?』
顔を赤らめながら未来は聞いた
「えぇ・・」
もう片方の頬にもキスをする
『命を・・救ってくれたんじゃないの?』
「おや。そういうと言う事は未来を頂けるのですか?」
―― 意味を解って聞いてるのですかね・・・
質問したい事を素直に聞いてるだけ・・ですよね。
『・・い・・頂くって』
未来は思い出したように顔を更に赤くすると下を向く
―― やはり・・
「今回はキスだけで良いですよ。命は救っては、いませんので」
『救っていない?』
「えぇ。未来は怪我をする程度で済みます」
『え~?じゃぁ何で?』
「未来が怪我をするなんて・・私には耐えられませんから」
そう言うとまた頬にキスをする
思いがけないキスの嵐に未来はギュッと目を瞑った
―― ここで目を瞑ったら・・唇にされると思いませんかね・・
思いませんよね・・・未来ですから
死神はフッと笑うと
「未来?ここで目を閉じると唇にしても良いと言う事になりますが・・?」
からかう様に言った
『え―?!そうなの?!』
「はい。他の人の時は気を付けて下さいね?」
『は~ぃ』
死神は未来の頭を撫でると、では帰りますと言ってフワリと消えた




