宿坊あやかし奇憚#28
『出来たよ~♪』
半時も経った頃、未来は嬉しげに声を上げた
『2首も出来ちゃった♪じゃぁ読むね・・』
「 滝川の 末に雪がれ 渋薄れ 長き現に 何に囚わる」
また1つになった流れに清められ、渋柿色の(衣の色も)薄くなったと言うのに
長い間、貴方は何を想い煩っているのか
「 遙かなる 想い手放し 白峰は 崑崙金に輝くが如き」
遠い昔の恨みはもう手放した(貴方な)のだから、
(この)白峰も天皇が着る衣の様に輝く事になるでしょう
「ほぉ・・拙いが想いが伝わる様だ」
『えへっ♪』
未来は嬉しそうに微笑んでいる
―― 拙いって言われてるが・・気にしないのか?
「瀬を早み 岩にせかるる 滝川のわれても末に 逢はむとぞ思ふ」
川の瀬の流れが速く、岩にせき止められた急流が2つに分かれ
また1つになるように、今は分かれてもいつかはきっと同じ流れになる
崇徳天皇が作った1首だ。
―― あれの返歌か・・・
2人の仲を引き裂かれても、いつかは会えるという恋の歌だが・・
未来は天皇家と崇徳の事として返歌した
もう怨みはない。そう言った崇徳に、じゃぁ何故その格好なのか?問うているのだ
「元の姿に戻るには、まだ時がかかるかもしれないが・・」
『戻ったら何がしたい?』
「何を・・?・・・神として日の本の安寧を・・」
『違うよ。自分の事』
「自分の事・・・女御に会いたい」
『会えば良いのに・・』
「会ってはいる。が・・顔は見せておらぬ」
『見たいって言わないの?』
「言われたが・・・」
『好きな人がどんな姿だろうと関係ないと思うけど・・』
「まだ・・決心がつかぬ」
『そっか・・でも戻れる。』
「あぁ・・戻る」
未来と崇徳2人でニッコリと笑った
「お嬢。そろそろ帰らねば・・・風邪をひきます」
長い時間、外に薄着でいるのだ半蔵は現実的な心配で声をかけた
『じゃぁ帰るね。顕仁様またね♪』
「では送ろう。・・・その名で呼ばれたのは久しぶりだ」
『そうなんだ? ん~送ってくれなくても良いよ。半蔵居るし』
「そうか・・では気を付けて帰れ」
『はい。』
パタリと本殿の扉が閉じると灯明も消える
「では帰りましょう」
そう言うと半蔵は未来を抱き上げた
『えっ?歩けるよ?』
「裸足では足が汚れます。傷つきます。」
半蔵は頑として抱き帰るつもりらしい・・
―― まぁ・・いいや。夢の中だし
『こうするの久しぶり~♪』
未来は甘える様にガバリと半蔵に抱きつく
「未来。危ない!」
バランスを崩しそうになり半蔵は声を荒げた
『そう呼ばれるのも久しぶり♪』
―― 顕仁さんも・・・やっぱり名前を呼んで欲しいよね・・
崇は気高い、尊ぶ。徳は精神の修養によってその身に得たすぐれた品性。
崇徳とは怨霊としての顕仁に付けられた諡号だ
「そうですね・・」
考え深げに半蔵は言うと未来を抱きなおした
お姫様抱っこというヤツだ
―― 半蔵ってあたたかいなぁ・・眠くなっちゃった
あれ・・夢の中でも眠く・・・なるのかなぁ・・・
未来は目を閉じる
―― この状況で目を閉じるか?
半蔵は未来の唇に自分の唇を寄せる
―― 寝てるのかよ?!
未来の安らかな寝息に肩透かしを喰らった半蔵だった




