宿坊あやかし奇憚#27
「賽銭なぞ要らぬ・・」
社殿の奥に座している男が突然に言うと
『あ~良かった♪』
未来は普通に返した
半蔵はさっと2人の間に入り未来を背に庇う
「何もせぬ・・」
態度が気になったのか男は言うが半蔵はどける気は無いらしい
未来が後ろから顔を出すと興味深く男を見つめた
男は渋柿色の狩衣姿で横を向き袖で顔を隠している
『何で顔を隠してるんですか?』
「醜い故・・・」
『え~?』
どこが?という風に未来が覗き込むと男は身を引く
渋柿色の狩衣は天狗が着るものとされている
崇徳天皇は生きながらに大魔縁・・天狗になり死して大天魔となった
保元の乱で讃岐に流刑されたが島での穏やかな生活の中で
仏教に深く傾倒し五部大乗経の写本作りに専念した崇徳
供養と反省の証に完成した五つの写本を京の寺に収めてほしいと朝廷に送る
しかし・・呪詛が込められているのではないかと疑われ
後白河法皇にこれを拒否し送り返された
それに激しく怒った祟徳上皇は舌を噛み切って写本に
「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん。
この経を魔道に回向す」と血で書き込み魔道へと投げ入れた
その後は爪や髪を伸ばし続け生きながら天狗になったとされている
平治の乱・平家の滅亡・上皇や天皇の病など忌まわしい出来事は
崇徳の怨霊仕業という事となったのである
明治維新の東征に際しても上皇の霊が朝敵に味方されないように祈願された
「過ぎし保元の年頃いましき御事の起こりてついには海路はるけきこの国に
さえ出まして御鬱憤の中に神あがらせたまえるはいかなる禍つ神の禍事に・・・」
勅使は奏上して、坂出・白峰御陵より御神霊の還御を乞うた
それが白峰神宮である
怨霊となってから800年余り・・・
『もう怨んでないんでしょ?』
衒い無く未来は聞いた
「最早、怨む心も祟る心も持ってはおらぬ・・・
ただ・・生きて魔道へと踏み込み成ったこの姿
これだけは変えられず消せず・・・我が身を苛む
今は己の浅墓な妄執に後悔の日々を送るだけだと言うのに」
『なぁんだ。そんな事で悩んで人見知りしてたのか~』
未来はのんびりと言うとバチッと音がし灯明の角が欠ける
「お嬢。そんな事と言っては失礼ですよ」
思わず半蔵が身構えながら未来を嗜めた
『あ・・ごめんなさい。
だって自分でその姿になったんでしょ?自分で治せるよ?』
「え?」
崇徳は驚きで思わず袖を下ろした
『別に・・・気にしなくても良さそうだけど・・?』
―― いや。普通・・気にするだろ?
未来の感覚はずれている・・のか?
崇徳の顔は未だ天狗たる容姿をしている
半蔵はそっと首を傾げた
「自分で治せる?」
『うん。だって・・・
自分の念で成ったんだから自分の想いで何とかなるよ
幽霊だって死んだ姿で現れたら血み泥とかでイヤだけど
そんな姿じゃなかったでしょ?元に戻ろうよって言ったら戻るよ~』
「そうか・・戻れるのか・・」
『うん』
未来は笑顔で頷くと
『そうだ!!半蔵、書く物ある?』
何かを思いついた様に半蔵に言った
「えぇ・・ありますが・・」
半蔵は未来に着せている上着を探るとペンとメモ帳を渡す
『ありがと。ちょっと待っててね~』
未来は半蔵にお礼を言うと崇徳に向けて言った




