宿坊あやかし奇憚#22
源氏の遺児である紗那王は母が平清盛の妾になる事で命拾いし
京の寺に預けられ剃髪して仏門に入る予定であったが・・
そこで天狗に修行をつけてもらい強くなる・・・
この時、息抜きに五条大橋で笛を吹いていた遮那王
賀茂の青龍と会ったのはそんな時だった
最初は黙って笛の音に聞き入っていたのだが
遮那王が声をかけ話す内に
すっかり話の聞き役にもなっていた
「お~い賀茂の青龍ー!!居るんだろ?」
遮那王は橋の欄干に座りながら声をかけた
その声に川面が波立ち蒼い鱗が閃く
「誰も居ないから出て来いよー!」
遮那王の声に導かれる様に水面から狩衣姿の男が現れる
「遮那王様・・今宵は如何なされた・・?」
いつもの時刻よりかなり遅い
「奥州に行く事になったんだ・・」
遮那王は川面を見つめたまま足をプラプラさせながら何気に言った
強くなる遮那王に母は思い悩み
今度は奥州藤原氏に預ける事となったのだ
「・・・そう・・ですか。あの男も一緒に?」
「あぁ。弁慶も一緒に行く事になる。なぁ・・・お前も来ないか?」
京の護りの一部として青龍はここから離れられない
それを知っていても尚、遮那王は来いと言ってみたかった
「行きたい・・・」
青龍は呟く様に言った
行きたいと行けるのは別である・・
想いを行動に移すには青龍の背負っている物はあまりにも重い
―― 私が空を翔るただの龍であれば・・何処までも共に行けたのに・・
青龍は現実離れな想いに唇を噛んだ
「そうか。そう言って貰えただけで嬉しいよ」
遮那王はピョンと欄干から飛び降りると笑顔で続ける
「そうだ!帰ってきたら笛を吹きにまた此処へ来よう」
屈託の無い顔で笑うと帰って行った
―― 遮那王様・・どうか御無事で・・・
奥州で暮すも、兄の出兵を知った紗那王は居ても立ってもいられず
3人の共を連れ、兄のもとへ急いだ。
平泉に預けられている弟がたった3人の従者を連れ駆けつけた事に
兄は不信に思ったに違いない。
義経にしてみれば、取る物も取り敢えず駆けつけた・・・という形にしても
兄の義経への不安は、義経の並外れた強さにもある
平家討伐後、とうとう義経は謀反の嫌疑をかけられ奥州へ逃れる事となった
「また奥州へと行く事となった・・」
「遮那王様・・・いえ。今は義経様ですね・・此度は?」
「さぁて・・幾日になるか・・・青龍。遮那王で良いよ」
遮那王は溜め息混じりに青龍に言うとじっと見る
長じた遮那王は精悍な男性へとなっていたが瞳の輝きだけは変わらぬ気がした
「笛の約束はまた今度・・ですね」
態と明るい声音で言うと遮那王は頷いた
今回、京へ戻ってきてからの遮那王は忙しかった
やっと五条へ来れたと思ったら別れの挨拶になろうとは・・
「私は・・兄弟仲良く暮らしたかっただけなんだ
平家を倒しバラバラにされた家族を・・取り戻したかっただけ」
どこで間違えたのかなぁ・・そう呟くと川面を見つめる
「遮那王様は間違えてなどおりません。」
青龍はきっぱりと言い切った
遮那王の考えに間違いは無い。純粋で・・あるのは愛のみだ
ただその想いを受け取る側に邪念があれば・・それは鏡の如く映り込む
そうして自分の不安を遮那王に映した兄は怯え恐怖を潰え様とする
「そうか。・・じゃぁ・・・行ってくる」
青龍の言葉に顔を上げると遮那王はニコッと笑う
「約束。忘れないで下さいよ?」
青龍もそう言うとつられて笑った
―― 遮那王様・・どうか御無事で・・・




