宿坊あやかし奇憚#18
あれはまだ平安時代・・仁明天皇の時代だったでしょうか・・
小野小町は都に競う者無し。という美貌と歌の才で名が通っていました
「私の所に100晩通ったら・・思いを遂げさせてあげますよ?」
小町は秀麗な笑顔で少将の使いに言った
御簾越しに驚きを隠せない従者ではあったが
小町は用は終わったとばかりに退席してしまう
従者は仕方なく「100晩通ったらと申しておりまして・・」
冷や汗をかきながら主に報告した
―― 100晩・・・小町の家までは徒歩1時間はかかる
馬に乗れば然程ではないが・・・
少将は誠意を見せるため100晩徒歩で通う事にした
雨の日も・・風の日も・・少将は小町の元に通い
来た証として榧の実を置いて行った
そうして99日目・・・
突然の吹雪にも関わらず少将は榧の実を持ち小町の元に出かけた
当然、家の者には止められたが
「なぁに・・通い慣れた道だ。こんな雪で中止なんぞ出来ないよ」
もう少しで小町が手に入るからか少将は愉快そうに笑うと出かけて行った
「そうして翌日・・少将は凍死体で発見されました
・・・・手には榧の実を握り締めていたそうです」
死神はそう締めくくると刹那さを吐き出す様に溜め息をつく
「私はあの方を殺したのよ・・
最初は少将と会うのは面倒だと思ったの・・
だから難題を突きつけた。
100日も通える訳が無い・・そう思っていたのに
それでも少将は毎日、毎日やって来た・・
そうして気が付いたの・・
毎日、待ってる私が居る事に・・・。
だけど99日目、少将はやって来なかった
どうして?ここまで来て・・私に愛想が尽きた?
引き裂かれそうな心で一晩・・眠れぬ夜を過ごしたわ・・
そうして翌日・・少将が死んだと聞いたのよ・・・
どんなに後悔したか・・・
自分の気持ちに気が付いた時に会っていれば・・・死ななかった。
素直になっていれば・・・
私は供養に・・と少将が持ってきた榧の実を小野の里に蒔いた」
小町は俯きながら小声で言い募る
「でも木々は成長と共に私を苛む・・風に揺れる度
殺した・・お前に殺された・・と囁きが聞こえる・・
そうして尚、愛してると・・・」
小町は今でも聞こえるとでも言う様に耳を塞ぐ
―― 木々から少将の想いを抜いたのは何百年前でしたかね・・
それでも小町は想いに囚われてしまう・・
「小町の嘆きに邪が集まり・・私が篁に頼まれたんですよ」
『祓いを?』
「えぇ。そして邪に寄らない様に私が気晴らしの話し相手をしているんです」
『・・・それなら小町さんさっさと成仏しなきゃ!!』
「「え?」」
未来の意外な言葉に思わず小町が顔を上げる
死神は不思議そうな顔で未来を見つめた




