宿坊あやかし奇憚#17
「おまたせ~ってあれ?」
美弥が支払いを済ませ店の外に出ると爽耶が1人で地面を見ていた
「どうしたの?未来達は?」
「・・・落ちた」
「落ちた?」
意味が解らなくて美弥が聞き返す
「あぁ・・」
呟く様に返事をする爽耶の顔が青ざめていた
落ちる・・と思った時、死神は未来の手を取り抱き寄せたが
2人で落ちて行くのを止められなかった
―― どうやら目的地に着くまで贖えない様ですね・・
「未来・・貴女を私事に巻き込んでしまったかもしれません」
死神は痛い顔をすると未来を抱く手に力を入れた
―― 死神のプライベートって・・・?
不思議そうに死神の顔を覗き込む未来
やがて地面が見えると死神はフワリと着地した
さっきまで昼間だったのに此処は夜らしい
辺りの暗さは深夜の静けさを伴う
死神の髪が月の光の様に輝いた
「大丈夫ですか?」
『うん。沙羅が来てくれたから大丈夫だよ』
笑顔でさらりと言う未来に
「・・・。」
珍しく死神が顔を赤くしていると
「へぇ~近くで見ると、まぁまぁ可愛いじゃない?私程では無いけど」
後ろから声がかかった
『ありがとう。てか・・あんた誰?』
「・・褒めてないんだけど」
女は形の整った眉を寄せる
「小町・・・」
死神は未来を護りつつ女の名前を口にした
『小町?・・・小野の?』
「えぇ」
「京に来てるのにどうして私の所に来てくれないのかしら?
待ってても来ないから迎えに来たのよ」
小町は悪戯っぽく笑った
「迎えに?」
「えぇ」
「どう考えても未来を浚おうとしたのではないですか?」
「どっちでも同じじゃない?貴方が来たわ」
ふふっと嬉しそうに笑う小町を死神は睨んだ
「その表情も素敵だわ・・」
「それはありがとうございます」
死神は褒められ慣れているのか単調にお礼を述べる
「今のは褒めたのよ」
小町は何故か未来に念を押すように言った
―― 私・・痴話喧嘩に巻き込まれたのかなぁ?
2人とも知り合いみたいだけど・・
沙羅を見ていると恋人では無い・・気がするし・・
普段どう女性に接してるか解らないけどさ・・
「さぁ未来。帰りましょう」
死神は未来に言うとニコリと笑った
「帰れるかしら?」
それを睨みながら小町は不適に笑う
「私は、篁に頼まれて
貴女の話し相手に度々来ているだけです。私を縛る権利は無いでしょうに・・」
―― 篁って・・・やっぱり小野の?
井戸から冥府に行き閻魔大王の補佐をしていたという・・あの?
武蔵に行った時、狐が火を燈して迎えたという・・あの 篁さん?
『ねぇ沙羅? 篁さんと知り合いなの?』
「えぇ。小町は篁の孫にあたります」
『今度会える?』
「そう伝えておきますか?」
『うん。』
嬉しそうに頷く未来。
「ちょっと!!私を無視してるんじゃないわよ!」
『あぁごめん。・・で?何だっけ?』
「貴女に話してないわよ!もぅ・・なんなのこの子?!」
「・・聞かない方がいいですよ?」
死神の含み笑いをどう取ったのか小町は「そう」と言うと片手を上げる
空が俄に掻き曇り途端に雨が降り出した
雷鳴が鳴り響き閃光で辺りが昼間の様に明るく光る
『わぁ綺麗~♪ねぇあれ・・龍じゃない?』
未来は濡れるのも構わず喜び指差す
「未来には脅しになって無い様ですね?」
ふっと笑うと小町の方を見る死神の瞳が蒼く輝く
睨み付けた辺りの小さな邪が霧散した
死神は大鎌と邪視をもつ故に魔だと言われる事もあるが
本来、病人や死人が邪に捕り憑かれる事が無いように祓うのが役目だ
当然、大きな鎌で命を狩る事も無い
死神が瞳に力を入れると辺りは蒼白く光り輝く
雷の閃光も重なり眩しい程だ
「くっ・・・」小町が短く唸ると膝を折る
十二単の裾が艶やかに広がった
「やはり・・定期的に来なきゃダメですかねぇ」
死神は溜め息混じりに1人ごちる
『・・・御祓いに?』
その独り言に不意に未来が疑問を投げた
「えぇ・・」
死神はもう一度、溜め息をつくと遠い昔の話を語り始めた




