宿坊あやかし奇憚#11
「王様・・姫様の御召し代えが済みました」
朱地に小菊御所車の振袖、赤朽葉色の帯にはこちらも菊があしらわれている
髪止めの琥珀がキラキラと輝いていた
―― 未来の歳ではちょっと早いよなぁ・・もっと可愛い着物は無かったのか?
辻が花や楓でも良いだろ?・・・花簪は無かったのか?
侍女に手を引かれやってくる未来を見て半蔵は心の中で呟いていた
「おぉ麗しい・・・」
王は未来に見惚れている様だ・・頬を染めている
―― 麗しいより、まだ愛らしいだろ・・
「さて・・姫君に聞きたいのだが・・こちらの男をご存知かな?」
王は座らされている半蔵を刀で指し示し未来に聞いた
『てか・・・あんた誰?名乗らず人の事聞くなんて失礼じゃない?』
「ふっ・・・麗しいだけではなく気の強い女も好みだなぁ~」
『あんた人の話聞いてる?』
「では、聞かれたから答えましょう・・我の名は日本武
日の本一の武勇を謳われ日本武の名を送られた」
―― 求婚相手に聞かれなきゃ名前を答えないのかよ?・・しかも自慢げ。
半蔵はチラリと武を見る
『日本武って・・兄を殺して父に嫌われ遠征に出されて卑怯な手で勝って
女の人を犠牲にして旅を続けて最後は野垂れ死にした・・あの?』
未来の遠慮の無い言い様に周りは騒然となったが・・
「ぶっ・・あははははは」
1人吹き出したのは半蔵だった尚も愉快そうに笑い出す
武は切っ先を半蔵の喉下にあて「黙れ!!」と一蹴した
『え?・・・違う?
自分の力を過信して女の所に草薙刀を置いて
神を神使いと間違えて祟られ野垂れ死んだ人だよね?』
更に未来が言い募る
―― うん。と言うまで言うつもりか?何プレイだ?
当たってるから怒ってるだろ・・
怒りで切っ先が震えていたが未来に言われてるせいか平静を装う武
「うん。そうだよ・・そして美しい僕は白鳥になったのさ」
―― 美しい僕て・・・まぁ死神とは違うタイプだが美形・・か?
『・・・で?その武さんが何用?』
「御爺様に嫁に欲しいと言ったら断られてね・・浚うしかないでしょ?」
『・・・爺を嫁に?爺はじじぃだし・・男だけど?』
「・・姫を・・・」
『いや。そこは浚っちゃダメでしょ?こうして心配されちゃう訳だし』
「じゃぁ。心配の元を断ってあげよう・・」
武はニッコリと笑うと半蔵の喉元に当てた刀の切っ先をスッと動かす
血がツーっと流れた
―― この刀で薄皮一枚切るとは・・武の名は伊達ではないか・・
暢気なのか余裕なのか・・気にしてない風に半蔵が考えていると
ヒュッと気配が動いた
―― 着物で飛び蹴りかよ・・
半蔵が思わず心の中で突っ込んでいると
頭上でドカッッと音がし武が大きく後ろに倒れる
侍女の悲鳴と取り巻きの「王!?」という声が飛び交い
まさか未来が飛び蹴りを繰り出すとは思っていなかっただろう武は
気を失っているようだ
それ等を気にせず未来は半蔵の傷に手を当てる
『半蔵・・大丈夫?痛い?』
「痛い顔をしてるのはお前じゃないか・・」
眉根を寄せ唇を噛み締めている未来の顎に半蔵は手をやると親指で唇を撫でる
「ほら。唇・・切れるぞ」
『だって・・半蔵が痛いと私も痛いよ・・』
「未来が痛いと俺も痛いから・・ヤメロ」
半蔵はまだ唇を噛む未来の口に親指を無理やり入れ止めさせた
『わらしのひょうが・・いらぃんだかりゃ・・。』
―― まだ言うか・・
眉尻が下がり泣きそうな顔をしている未来の頭をポンポンとする
「さぁて・・帰るか?」
『うん。』
半蔵は、ようやく笑顔を見せた未来をひょいと抱くと東の印を結び
「オン ヂリタラシュタラ ララ ハラマダナ ソワカ
オン ヂリタラシュタラ ララ ハラマダナ ソワカ」
持国天の真言を唱え掻き消えた




