宿坊あやかし奇憚#5
「・・う~ん?」
半蔵が予想外の寒さに目を覚ますと薄明るい部屋の中、女の啜り泣きが聞こえている
――未来は・・?
やや面倒そうに顔を廻らすと未来が一生懸命に人形の涙を拭いている所だった
「・・・だから嫌だったんだよ」
――どう見ても曰く付き人形だったもんな・・捨てた嫁は正解だったか・・
クソ爺ぃめ・・・孫娘が可愛くないのか?!
「未来。寝るぞ」
半蔵は未来に言いながら布団をポンポンして見せた
頑なに首を横に振る未来
――人と区別がつかない事はないと思うが・・もしかして・・
中身が解ってて接しているのか?
半蔵は更に面倒くさそうに起き上がると未来を引き寄せ布団に無理やり入れる
ジタバタと暴れる未来を抑えシーっと人差し指を口へと持っていくと
「未来?あの人形の中身を解ってるのか?」
小声で聞いた
『・・・・?』
未来はさぁ?と言わんばかりに首を傾げる
――解っては・・いない・・・の・・か?
半蔵が悩んでる内にゴソゴソと這い出て未来は人形の元へと行ってしまった
「あ―!!面倒くせ~!!」
――これが未来に関係無ければ放っておくんだが・・
半蔵は起き上がり電気を点けると未来を膝に乗せ正面から人形と向き合った
「おい。電気をつけたら話せねぇとか言うなよ」
半蔵が言い聞かす様に人形に言うと啜り泣く声がピタリと止まった
「それだけ啜り泣いておきながら話せないとか今更言わないよな?」
「・・・何で、あんさんに話さなならんのどす?」
「未来は言いたい事を言えねぇからな」
「この子は自分の意思で話さんとちゃいますの?」
「俺の気持ちが変わらない内に話した方が利口だと思うがな・・
さっさと話さないとそこの川に叩きこむぞ!!」
未来の事でキレやすくなっている半蔵は人形に掴みかかったが
庇われてるのを解ってるのか解らないのか・・
未来は半蔵の手を押さえると首を横に振る
「どうやら、わっちに利があるみたいどすなぁ?」
人形は不敵に言うと一層、半蔵の顔が渋くなる
しかし人形の言葉にも未来は首を振った
「どうやら、そっちに利とやらが在る訳じゃ無いみたいだな?」
半蔵は人形にニヤリと笑った
その顔を見て未来は半蔵の頬を引っ張ると半蔵は手で包み未来の手を離さない
「あほらし・・」
2人のやり取りを見て人形は続けた
「はぁ~あ。ウチかてそうして可愛がってくれた愛さんが居りんしたんえ」
「その愛おしい人はもうこの世に居ないだろ?」
「遠の昔に亡くなりはった・・でもその人が愛した女性に、わっちは随分と可愛がられんした」
「爺の言っていた・・・近所の婆さんか?」
「あい。主様の愛した人と最期を共にと思てありんした・・なのに・・」
「婆さんの出棺は明日だが・・」
「あい・・・」
人形は頷くと、さめざめと泣き出した
「・・・棺桶に・・入れてやれば良いのか?」
泣き声にウンザリしながら半蔵は聞いた
「・・・。」
人形は黙って頷く。
「・・・お前、付喪神だろ?その様子だと愛しい人間に会う前から・・」
「・・・。」
「だったら人間はすぐに死ぬという事も解っているだろうに・・」
「あんさんは・・それで諦めなんしたか?」
潤んだ声色で言う人形に今度は半蔵が黙る番だった
――諦められる訳が無い・・人という生き物は俺達に比べれば酷く弱い・・
一生というモノの儚さは夢や現の間の様な物だが・・
それでも・・・愛おしさは募るばかりだ。




