宿坊あやかし奇憚#4
「やい。じじぃ!この人形どういう事だ?!」
半蔵は未来が抱いている市松人形を指差し爺に問い詰める
「近所の婆さんが亡くなってのぉ~婆さんは大切にしていたんだが
嫁が捨てるって言い出したから貰ってきただけじゃ・・勿体無いじゃろ?」
「勿体無いて・・」
件の市松人形は80cmはあろうかという大きさで
鶯色の絞りの地に紅梅が栄える本振袖に
帯は黒地だが銀の雲流が煌びやかに流れる
色白な肌にふっくらとした紅い唇・・黒目がちな目が印象的だ
――確かに値の張る物かもしれないが・・
これが名のある作家のものなら数十万なんて事もある。
「でもこれ・・入ってるだろ?」
「人形は何某か入ってるじゃろ」
――人形は厄除け。子供の身代わりになる為に作られるが・・
人型というのが魅力になるのか・・何某か入るのも多い・・
自身が憑喪神になるのも居る。
「はぁ~」
半蔵は溜息と共に未来を見つめる
半蔵がここに来て4年目・・未来8歳の時
未だ未来は話せないでいるが、その事以外は普通の子供と変わらない
田舎だし理由が理由だからか・・普通の小学校に通っていた
――女の子から人形を取り上げるのも・・・
「気に入ったのか?」
半蔵は思案しながら未来に聞いた。
未来はコクリと頷くと嬉しそうに人形の髪をとかしたり着物の襟を整えたり世話をしている
そんな未来の姿は可愛いものだが・・・
「まぁ・・未来が気に入ってるなら良いじゃろ?」
飄々(ひょうひょう)と爺は言うと、さて御通夜に行かなくては
と着替えに出て行った
――今日は客も居ない。
爺が通夜に行くと言う事は・・食べて酒も飲んで来るだろうから・・
夕飯は未来と2人分で良いな。
「未来。今晩は何食べたい?」
半蔵は素早く主婦じみた計算をすると未来を真っ直ぐ見つめ聞いた。
元が話せるのだから口の動きを読めば未来の言いたい事は判る
――心を読む事も出来るが・・
それは遭えてしない様にしていた。話せないのと話さないのは違う・・
言葉を使う事も止めてしまえば話さなくなってしまう。
未来はう~ん?と腕を組み考えると
『ハ・・オ・ム・ラ・イ・ス』
半蔵に判りやすい様に大きく口を開け1語づつ口の形を変える
「ハ・・オムライス?。・・・ハ?・・ハンバーグも食べたいのか?」
コクリと首を項垂れる。どちらかで悩んでいる様だ・・
「・・両方にするか?」
半蔵が素敵な提案をすると未来は飛び上がらんばかりに喜び抱きついた
――か・・可愛い・・
半蔵はこんな時、堪らなくぎゅっと未来を抱き締める。
柔らかい温もりが半蔵の心を癒す様に満たしていく心地が好きだからだ
今日は人形と共に抱き付いてきたからやや硬いが・・
――我ながら甘いというか・・
半蔵は最早、未来の笑顔の為なら何でも出来ると言い切る自信があった
「一緒に作るか?」
半蔵が抱き上げ言うと未来はうん。と頷く
未来は作るのも好きな様子でよく手伝うが・・・
今日は人形も一緒に手伝うのか?
「未来・・それは無理だぞ」
手伝うと言うものの頑として人形を離そうとしない未来に半蔵は困り顔だ
それでもイヤイヤ。と顔を振る
しょうがなく浴衣の帯で襷がけに背負わせると
満足げに微笑み早速、玉葱を持ってきて剥きはじめた
半蔵は作り置きのデミグラスソースを出すと鍋に入れ
そこに、しめじ・椎茸・マッシュルームを入れ温めると台所に秋の香りが立ち込める
煮てる間に未来が剥いた玉葱を微塵切りにし挽肉とスパイスを合わせ捏ねると
未来に渡す
粘土遊びよろしく楽しそうに形を作る未来
それを微笑ましく見ながらソースの味をみる半蔵
――濃いめにしたいが・・
酒を呑む身としては味濃い方が酒も進むというものだが・・
濃い味だと満足が早いのか?未来の食が進まない。
少量で止めてしまうのだ
ただでさえ他の子より小さいのに、それはいかん。
すっかり母の思考まで身に付け半蔵は自分がちょっと薄いかな?と思う程度で
止める事にした
「未来。あとは良いから風呂に入って来い。飯はその後だ」
未来はうん。と頷くと手を洗いトコトコと歩いていく
――未来は1人でも風呂に入れるから、こういう時は便利だ・・・・っておい!
見れば人形を背負ったまま風呂へ行こうとしている
半蔵は慌てて帯を外すと人形を取り上げた
「未来・・人形は風呂に入らないもんだ」
未来は首を傾げたが人形を取り上げられたので仕方なく1人で風呂へと行った
――考え方が幼いのではないか?
未来と他の子と比べても仕方が無いだろうけど・・
小学2年にしては、女の子と言うのも差し引いても・・小さいし
発育もそうだが行動も幼い気がする・・・
――まぁ。そう思うほど俺は人に接してないが・・
半蔵の心配を他所に、今晩の未来はモリモリ食べた
そうは言っても未来のディッシュ皿は15cmも無いのだが・・
バターライスに半熟オムレツを乗せハンバーグを隣において
茸入りデミグラスソースをたっぷりとかける
添えられた大根と水菜のサラダに半蔵特製胡麻ドレッシングをかけた物も
未来の好物だ
美味しい物を食べると両頬を押さえる癖がある未来は
今もそうして頬を押さえ満面の笑みだ
――ほっぺたは落ちないだろうに・・
そんな未来を見ながら呑むのが半蔵の至福の時となっていた




