宿坊あやかし奇憚#3
「ほぉ・・・姑獲鳥が浚うのは乳飲み子だと言うが・・これは珍しい」
修験者姿の爺は姑獲鳥の前で笑みを見せると呟いた
「それに未来を浚うとは・・偶然ではない気がするがのぉ
てか・・あの若造・・子守も出来んのか」
孫が人質にされているのに爺の余裕は何処から来るのか・・
半蔵の悪口を織り込みながらも言い募る
姑獲鳥は姑獲鳥でそれに答えず妖艶な笑みを浮かべるだけだ
「未来が居れば・・・手を出せないとでも思っておるのかのぉ?」
爺は独鈷を高く上げると気を集めはじめた
――温かくて・・甘い匂い・・ママ?
未来は姑獲鳥に抱かれながら夢を見ているような心持をしていた
フワフワと温かく甘~い幸せ・・パパとママがいて・・
――背中にお羽がある・・ママは・・天使になったのかな?
母親と勘違いしている未来は姑獲鳥をぎゅっと抱き締めると胸に顔を埋める。
生前・・母にしていたように
――ママ・・ママが魔じゃなくて良かった・・
「おい!姑獲鳥が浚うのは乳飲み子じゃないのか?」
焦って出てきたものの坂田は走りながら半蔵に疑問をぶつけた
「乳飲み子だけじゃないだろ!」
こちらは坂田を10mほど離し怒鳴り返す
「え?そうだっけか?!」
――姑獲鳥はその街で一番悲しい子を浚い・・寂しさに漬け込みその子を喰らう。
より一層・・力を増す為に・・
「くそっ!!」
「おい!!半蔵・・あの光!!」
見れば未来の気配のする方・・森が輝いている
「あれは・・」
2人は更に足を速めた
高く掲げられた独鈷は気を集めると太陽の様に光り輝き辺りを照らす
木々という木々・・草花・・
岩や川までもが爺に答えるように力を貸している様だ
姑獲鳥は輝きを遮る様にその大きな羽で身を隠す
「眩しいか?そうじゃろのぉ・・
たとえ可哀相な死に方をしたとしても子を捕って食べる理由にはならん
穢れたお前には眩しいじゃろ」
「お前の娘も魔じゃないか・・」
姑獲鳥は、光を避けながらもふふっと嗤う
――未来の心を読んだか・・
「あぁ。じゃから退治された。それが今の人の世じゃ」
爺は口を引き締めると独鈷の先を姑獲鳥へと向けた
「そう。だからこの子は母親が魔になり、それを看破した事を後悔し
やがて自分も魔になる事を・・母と同じになる事を恐れているわ
この子の父を喰らったのはお前の娘・・・」
――パパ・・
姑獲鳥は未来の悲しみを増幅させ・・糧にする
その度に黒くなっていく羽が意思を持った違う生き物の様にモゾモゾと蠢く
――もう少し・・もう少しじゃ・・
爺は何かを待つ様に心の中で呟いていた。その刹那
「爺ぃ~!!どけ―――ッ!!」
半蔵は叫ぶと刀を抜きざま下払いに姑獲鳥に斬りかかった
「若造!!止めろ!!止めてくれ!!」
爺の声が聞こえないのか・・半蔵はそのまま刀を上へ振り被り斜めに斬り下ろす
刀は半蔵の怒りに応じる様に深紅の軌跡を弾けさせ姑獲鳥を切り刻んだ
「すげぇ・・」
半蔵の刀捌きに見惚れる坂田の呟きと
「ヤメロ――――ッ!!」
爺の絶叫が同時に聞こえた時・・半蔵は切っ先を姑獲鳥へと沈めた
辺りが深紅に輝くと浄化されるが如くに姑獲鳥の姿は消えていく
「未来・・・未来!!!」
爺はその場で崩れ座ると拳を握り地を叩く
ハラハラ舞う雪の様に散る漆黒の羽の中・・未来が無傷で立っていた
「未来・・」
半蔵は未来を抱き上げると力いっぱい抱き締めた
未来が半蔵の首へと小さな手を回す
「・・嘘じゃろ」
未来ごと葬られたと思っていた爺は目を見張った
「おい。爺!!お前の孫は魔を斬る刀では斬れない。
この意味が解るか?!
未来はこんなにも綺麗なのに・・お前は何を待っていた?!」
半蔵の言葉が自然とキツクなっていた
「・・・姑獲鳥が未来の魔を吸い尽くすのを待つしか無いと思っておったわ」
爺は項垂れながらもキッパリと言い切った・・己にはそれしか方法が無い。
だが・・・未来は両親の死の穢れを受けても穢れず
親の死は自分のせいだと自身を責めても魔に犯されはしない・・
――どうかこの子はこのまま・・・
爺は心でそう願うしかなかった
お疲れ様です。
ちょっと昔話から離れてますが・・
未来と半蔵の昔話バージョンに暫くお付き合い下さい
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