宿坊あやかし奇憚♯2
あの夜から半蔵は嫌な夢を見なくなった
未来は相変わらず話せなかったが
どうやら俺に懐いてると言うのは本当のようで、何処でも付いて歩く様になっていた
半蔵がここに来て2年目・・未来6歳の時
その日、爺は珍しく朝から出かける風で
「それじゃぁ・・未来を頼んだぞ」
と言うとさっさと行こうとしていた
「おい。爺・・その格好・・何処に行くんだ?」
「御主はこの格好何処に行くものと思っておる?」
――普通なら修行・・だが
「その通りじゃ・・」
「その通り・・じゃなくて!!長くなるんじゃないのか?」
「困るのか?」
――困るだろ!!
「困ったのぉ~」
――困ってるのは俺だ・・・
半蔵は心の中で呟いていた
「まぁ今回は修行じゃなくて祓いじゃから大丈夫じゃろ・・」
ひょうひょうと言ってのけ爺は出て行った
「・・・はぁ?・・・俺の事を試したのか?爺ぃ!!」
半蔵の叫び声だけが爺を追いかけて行く
「と・・言う訳で爺は居ないぞ」
突然やってきた坂田に茶を出しながら半蔵は不機嫌な顔をした
「まぁしょうがないか・・しかしお前が子供のお守りとはねぇ・・」
未来は他人が居るのが嫌なのか・・・半蔵の手を振りほどくと駆けていった
坂田はニヤニヤしながら半蔵を見つめる
「なんだよ?」
半蔵は未来を見送りながら聞き返した
「いんや・・それより見つかったのか?」
「まだだ」
「そうか・・」
「お前何しに来たんだ?」
「お仕事・・」
「そうか」
「あぁ。刀貸してくれ」
「あれは元から俺のなんだがな・・」
「だから貸してくれって言ってるだろ~」
「高いからな!」
「えぇ~?!手元に戻ったのは俺のお陰でもあるんだぞ!・・おい!!」
半蔵は坂田の叫び声を聞き流し刀を取りに行った
――未来の気配が・・しない。外で遊んでいるのか・・・?
いや。未来はあれからずっと・・俺が外に出なければ出ない・・・
押入れに乱雑に入れてあった刀を取り出すと半蔵は更に未来の気配を探った
――気配がない?・・そんな馬鹿な・・
未来。何処へ行った?
半蔵は刀を手に戻ると坂田の襟首を掴み
「おい。お前・・何しに来た?」
蒼白を貼り付けたような顔で詰め寄る
「く・・・苦しい。おい・・どうしたんだ?」
「未来が居ない・・」
「その辺で遊んでるんじゃないか?」
「それは・・ありえない・・」
半蔵は力なく手を離すと落ち着かない風にウロウロする
「ちょっと落ち着け。
お前に構ってもらえなくて何処かに隠れてるんじゃないか?
なぁに呼べば出てくるさ」
「未来は・・両親を殺されたショックから話せなくなっているんだ・・
話せなくなって・・・もう2年になる」
業と明るく言った坂田に半蔵の暗い声が返事を返す
「・・2年前に・・殺された?」
「あぁ」
「・・場所は?」
「東京だったと聞いているが・・地区までは・・」
「俺が・・・」
今度の問いに半蔵は答えず、ただ坂田をジッと睨んでいる
「・・・あの時の・・チビか・・」
――それで・・・未来は逃げたのか?
「お前の仕事に俺は何も言うつもりも権利もねぇよ!!
ただ・・未来に何かあったら只じゃおかないからな!!」
そう言うと半蔵は怒りをぶつける様にテーブルを激しく叩く
―ー気が付いてやれなかった・・
半蔵は後悔の念に押しつぶされそうになりながら一層拳を握った
「俺はあのチビに何もしていない・・
今回の依頼は姑獲鳥を消す事だからな・・」
坂田が項垂れながら静かに言う
「姑獲鳥がこの土地に?」
「あぁ・・・」
ハッと2人は顔を見合すと宿坊から飛び出した




