宿坊あやかし奇憚 ♯1
「この子が懐くとは珍しいんじゃが・・」
爺は半蔵に酒を注ぐと自分の杯も満たす
「はぁ・・」
――そう言われてもな・・
半信半疑で未来を見ると視線に気が付いた未来がニコリと笑う
その頬に御飯粒がついているのを見つけ取ると半蔵は普通に食べた
「子供がいるのかの?」
「いや。独り身だが・・」
「ふ~む・・いつまでここに居るつもりじゃ?」
「別に決めてる訳でもないが・・人を探しているんだ」
「ほぉ・・この地区に探し人がいると?」
「解らん・・」
「寝泊りはどうする?」
「長くなるなら・・家を借りてもいいし・・まぁまだ決めてはいないな」
「・・・よし!!採用!」
爺はポンと手を叩くとニヤリと笑った
「・・・なに?」
「若いの。うちで働け」
――はぁ?・・・・働け・・・っておい!!
「おい。爺さん!俺はここに就職に来たわけじゃねぇ!!」
「似たようなもんじゃろ?」
「ど・こ・が・・・だっ!!俺の言ってた事を聞いてたか?」
「あぁ。わしゃまだ耳は遠くないからの~」
「だったら解ってるよな?人探しに来たんだ!」
「見つかったら、ここから去るのかの?」
「・・・それは・・」
「縁でここに来たなら、この地を離れないと思うがの~」
ふぉふぉふぉと不適に笑う爺を半蔵は睨みつけた
――やはり子守りを押し付けるつもりか?
「それに御主の為にもなるはずじゃが・・」
「俺の為?」
「そうじゃ。」
「俺の何の為になると言うんだ?」
「それは御主がその内に気が付くじゃろうて・・」
「やい。爺!子守りを押し付ける為の嘘じゃないだろうな?」
「さぁてどうかの?・・・なんじゃ?未来眠いのか?」
未来は目を擦りながらコクリと頷く
――喰えない爺だ・・
半蔵は爺を睨みながら酒を煽る
睨まれてる爺は気にする風も無く未来を寝かせに行った
「これもまた珍しいんじゃがな・・・」
戻ってきた爺が更に言い募る
「何がだ?」
半ば呆れながら半蔵は聞き返した
「未来が寝るのが・・じゃ。」
「はぁ?子供は・・いや普通に眠くなれば寝るだろ・・」
「あの子は・・両親の死を見てから眠らない・・。
いや。眠れなかったんじゃ・・1人で寝ようとしない
寝てもすぐに飛び起きる・・」
「あんな幼いのに?いったい・・どんな死に様だったんだ?」
「詳細は誰も聞いてない・・・いや。聞きたくても誰も聞けないんじゃ」
――未来は口がきけない・・
「ただ・・父親は肢体を喰いちらされ・・母はバラバラに刻まれ
未来は部屋の隅で独り・・倒れていたそうな・・」
――そんな・・・まさか・・
苦い想いを飲み込むように半蔵は酒を流し込んだ
「早速、明日から働いてもらおうかの~」
「おい爺。今のはお涙頂戴の嘘じゃないだろうな?」
「さぁて・・・どうかな?御主・・未来に聞いてみるか?」
――聞ける訳ねぇし・・しかし・・
「長旅で疲れた・・仕事は明日からではなく明後日からにしろ!」
「大丈夫じゃ。未来は手のかからない子じゃて」
「このクソ爺~!!」
爺は半蔵の悪態なんぞ気にせぬ風に、お開きじゃと言うと片付け始める
しぶしぶ半蔵は部屋へと戻った
――呑み足りない気もするが・・寝るか・・
・・・ん?
見れば布団に不自然な膨らみが・・そっと中を見るとスヤスヤと未来が眠っている
――寝かせたって此処にかよ!?・・・あのクソ爺~!!
爺に怒りはあるが未来に罪は無い・・
半蔵は未来の寝顔を見ながら思案していた
・・・こいつと眠れば・・・俺は悪夢を見ずに眠れるの・・か?
半蔵は未来を起こさない様にそっと布団に体を滑る込ませる。
と・・人恋しいのか未来がピタリと寄り添ってきた
半蔵は戸惑いながらも未来に腕枕をし
抱き締めない様にそっと手を添える
・・・何だコイツ・・温かいし・・柔らかい
あぁ・・今宵は酔い潰れなくても眠れそうだ・・
それは半蔵にとって久々の安心できる夜となった




