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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
26/106

宿坊あやかし奇憚 ♯0

――「輝清坊」  ここ・・か?


「すみません」


男は中を窺うように声をかけた・・侘び寂れた宿坊からは返事はない。


――困ったな・・


キョロキョロと辺りを見ると庭に続くらしい小道がある


男はその道を辿りながら更に声をかけた


「すみません・・誰か居ませんか?」


「はいはい。お客さんでしたか・・これは失礼したの~」


見れば爺さんが女の子を抱いて庭先へと出てきた


「予約はしていないんですが・・」


「いやいや。構わんよ」


「坂田の紹介と言えば解る。と言われて来たんですけど・・」


「さぁて・・坂田・・?・・誰だったかの?」



――あいつ・・殺す。


何度目かの住み替えに伴い気になっていた場所がこの辺りで


自称親友の坂田が「じゃぁついでに輝清坊に行ってみろよ


面白い爺が居るし・・俺の紹介だと言えば解るさ」と言っていたんだが・・


さて・・どうするか・・



「まぁ・・そんな顔してないで玄関に回ってくれ」


爺は面白がるような顔をすると男を促した







「ようこそ輝清坊へ・・さぁさ狭い所じゃが上がって寛(くつろ)いで下され」


爺は男を迎え入れると早速、部屋へと案内する


その後をチョコチョコ続く女の子が微笑ましい


「こんにちは」


男は女の子に声をかけた、女の子はハニカミながら頷く



――人見知り・・では無さそうだが・・



「あぁ・・この子は・・未来(みき)は話せないんじゃ。気にせんでくれ」



――気にするなと言われても・・・



「なぁに。時機に話せる様になるかもしれんて・・」


のぉ?と女の子に爺が微笑むとニコニコしながら頷く



「さぁて。爺は御飯の支度してくるからの~未来はお客様を頼んだぞ」



女の子は頷くとお茶の用意を始める


「ほほほっ頼もしい事じゃ・・それじゃ」


爺は孫が可愛いとばかりに目を細め笑うとさっさと部屋を出て行く


「・・・・え??」


少女と取り残されてしまった男はしばし爺が去った方を見つめていた






――寛げって言ってたよな・・・?


体良く子守りを押し付けられたんじゃないか?


まぁ・・子供は嫌いじゃないが・・・



少女はお茶を淹れると茶菓子と共に出し男の腕を揺さぶった


湯のみを指差し口元に持って行くゼスチャーをする


飲めと言ってるらしい・・



「未来っていったか?」


少女はコクリと頷くと男を指さす


「俺か?今は半蔵(はんぞう)だ」


未来は首を傾げると『いまは?』と口を動かす


「あぁ。今は半蔵」



――土地を変わる度、名を変えてきた・・・


もう人ではない俺は歳の取り方も人とは違う・・


外見を現代に近い格好をし目立たぬ様に生きて・・・千と何百年経っただろうか・・



半蔵がぼんやりと考えていると未来が隣にちょこんと座った


「食うか?」


茶菓子をやると嬉しそうに頷き――いただきます。とでも言っているつもりか――


ぺこりと頭を下げると早速饅頭にかぶり付く


「美味いか?」


半蔵の問いに未来は頷き満面の笑みだ


「じゃぁ俺も・・・」


――って客は俺なんだが・・こんな小さい子に言ってもしかたがないか・・



茶を一口啜ると饅頭を口に放り込む


「美味い・・」


――懐かしいような・・ホッとする味だ・・


「そうだろう」とばかりにニコリと未来は微笑んだ











「おやおや。これは随分と待たせてしまったかの?」


爺の声に気が付けばもう辺りが暗くなってきている



2人で茶菓子を食べた後、未来は眠くなったのか・・うつらうつら船を漕ぎ出した


そのままなのも可哀相になり座布団を枕に寝かせて・・



――つられて寝てしまったのか?


しかし・・あの夢を見なかったのは何百年ぶりだろう・・



久しぶりの熟睡は軽い眩暈を伴うものとなり


頭をふりながら起き上がる半蔵


ふっと見ると未来がしっかり手を握り締めていた



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