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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
3/106

女かく語りて

――彼とは幼い頃に、ある約束をしていたんですけど・・


それから1人で山に来た彼・・弘明(ひろあき)に再会したのは初秋でした――





「やっぱり山の上なら紅になっていたか・・」


楓(かえで)、ミズナラの黄に栄える葡萄の葉、潅木に絡みつく蔦漆(つたうるし)・・


薄紅・韓紅・紅・猩々緋・・・


弘明は夢中でシャッターを切っていた


山頂付近を朱や山吹に染め、裾野の天鵞絨(びろうど)は悠々たる紅を讃えてる




夕日に栄える下界も美しい・・・



「・・・・しまった!」


夢中になりすぎて下山を予定していた時間はとうに過ぎていた


無理に下山して真っ暗な山道を1人行くのも気が引けるが・・


思案をめぐらしながらキョロキョロと見回すと


ちょっと下った所に赤い屋根が見えた


「・・・避難小屋・・か?」


廃墟にしろ避難小屋にしろ野宿の心配は無さそうだ


助かったとばかりに小屋へと足を進めた





――トントン・・


無人だと思うが弘明は一応ノックをすると律儀にも


「・・失礼します」


と言ってから小屋へと入った


見渡しても先客は居ず


10畳ほどの部屋の真ん中にポツンとランプが置いてあるだけだ




「まぁ・・屋根がある場所で寝れるだけでも良いか」


一人言うとリュックを下ろしゴソゴソと探るとライターでランプに火を灯した


弘明はタバコは吸わないのだが・・普段から山に写真を撮りに行くときは持っていた


その他にも高度計・方位磁石・携帯ラジオ・ヘッドライト・アルミシート・


小さな救急セット・カイロ・携帯食・水・発炎筒・・・


いつ遭難しても良い準備をしている


友人には「そこまでしなくても・・」と言われるが


―ー山に対しての畏怖――


自然の中で人間ほど弱い者はない・・


都会に慣れた人間なら尚更「暗闇」というだけで怖い。


「シーン」という音さえ聞こえる事もないだろう・・


弘明は栄養友達のチョコ味をモグモグと食べながら水で流し込んだ









トントン・・・トントン・・



「ん・・・」


もう少し・・あと少し寝かせてくれ





トントン・・・トントン・・






『え?!』


――いつの間に眠ったんだろう?


物音が聞こえた気がして弘明はガバリと起き上がった



トントン・・・トントン・・



ノックの音に訝しげに時計を見ると・・午前2時だ・・・


「こんな時間に・・?」



眉を顰めつつ戸の前に立つと、か細い女の声が聞こえてきた


「すみません・・どなたか、いらっしゃいますか?


・・すみません道に迷ってしまって」


弘明は慌てて閂を外し戸を開けた


「良かった・・・・道に迷ってしまって


あちこち歩いたんですけど・・ようやく灯りを見つけて・・


あの・・泊めてもらえませんか?」



――綺麗だ・・思わず見とれる程の美人


潤んだ瞳がたまらなく儚げで・・・



「あの・・?ご迷惑ですか?」


「い・・いいえ!!ここ避難小屋なんで・・どうぞ」


「ありがとうございます」


女は丁寧に一礼する


そんな女性を見ていると益々自分が気恥ずかしい


実は閂をかけたのも怖いから・・だ。


まさかこんな山奥で人が来るなんて思ってもみなかった


「登山ですか?」


「えぇ。そちらは写真を?」


「はい」


他愛の無い話から始まり・・話はつきる事なく、気が付けば朝だった・・







――2年後――


「ただいま~♪」


「おかえりなさい。弘明さん」


にこやかに迎える女の手には赤ん坊が


「美雪~♪パパ帰りまちたよー♪今日も美人さんでちゅねー」


弘明もすっかり親馬鹿となっていた


「弘明さんったら・・お風呂に入ってきて下さいな」


少々呆れ顔ながらも幸せな笑みを浮かべる女


「美雪~♪パパ、ちゃぷちゃぷ行ってきましゅね~」


「お風呂の後、ご飯にしますから早く入ってきて下さい」




――


「はぁ~これこれ!風呂上りの一杯♪」


弘明は冷蔵庫からさっそくビールを取り出すとグイッと煽った


「あなた・・ちゃんとおかずも食べてくださいね」


「勿論だよ!君の作る料理は最高だからね♪」


箸を持ち、頂きますをしてから西京漬けを頬張る


ふ・・と見れば、妻は繕い物をしている最中だった


「美雪も1歳になるしさ~今年は旅行に行こうよ」


「そうね・・結局、結婚してからあまり旅行に行ってないですし」


「そうだ!あの山に行こうか?」


「あなた・・美雪に山はまだ無理ですよ」


「あの裾野に温泉があるんだよ・・・」


弘明が、ふ・・っと苦しげな顔をした





「弘明さん?」







「・・・・思い出した!


子供の頃にあの温泉に泊まってから、叔父と山に登ったんだ


その時は季節外れの雪が降ってきて・・・あの小屋に逃げ込み


2人共疲れていたから、ぐっすり寝てしまって・・




真夜中に僕は寒さで目が覚めた



見れば戸が開いていて・・・閉めなきゃ!と起き上がろうとしたら




体が動かなかったんだ・・・




それで叔父が寝ている方を見て・・・有り得ない者を見た・・」





「・・・有り得ない者?」





「あぁ・・白い着物を着た女が叔父に馬乗りになり


ふ~ぅぅぅっと白い息をかけていた・・」





「それで・・?」





「それでその女は・・僕に気が付くと言ったんだ・・」





「・・なんて?」





「・・・・まだ幼いお前は見逃してあげる・・その代わり・・」





「その代わり?」







「誰にも話ちゃいけないよ。って約束して・・」




「そう・・弘明さん・・約束破っちゃったのね・・」







「そう言えば・・その時の女・・お前みたいに綺麗なひとだった・・」





弘明は目を見張り、しげしげと女を見つめた



お疲れ様です。

雪女ベースにしたので

意外に重い相談話しになりました

さて次回の未来の答えはいかに?

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