昔、大江山に鬼多く篭もりて
今は昔・・・大江山に鬼ありき
都では婦女が行方不明になる事件が多発していた
中納言の娘も攫われ
都一の陰陽師である安倍晴明に事件の解明を依頼した
都より西北の方角、丹波の国大江山に住む鬼が
行方不明事件に関係しているという。
源頼光は鬼の討伐を帝より命じられ
渡辺綱・坂田公時・碓井貞通・卜部季武の四天王を連れて大江山へ向かった。
途中、神仏の助言をうけ山伏姿に着替えた一行はこれまた神仏から頂いた
神便鬼毒酒
――この酒・・鬼が飲めば毒となり人が飲めば百人力となる奇跡の酒だ――
を携え更に山奥へと進む
途中、血に濡れた衣服の洗濯をしていた老婆に出会う・・話を聞くと
鬼に連れてこられて洗濯や身の回りの世話をさせられているらしい
婆に鬼の寝城に案内され4人はとうとう酒天童子の元へと着いた
「道に迷ってしまい難儀しています・・どうか一夜の宿を・・
宿代には遠いかもしれませんが、この酒を宿代の代わりに・・」
頼光が差し出した酒を嬉しげに受け取り酒天童子は一夜の宿を提供した・・
「さぁさぁ客人!たんと呑んで喰ってくれ!」
酒だ!宴会だ!と鬼達は盛り上がっている
しかし・・頼光達は出された膳と酒を見て一瞬怯んだ
・・朱の肉と朱の酒・・・もしやこれは浚われた女達の・・
「さぁ客人!遠慮はいらん」
さぁさぁと進められ・・怪しまれないように喰う決心をした一行は
無心を決め込み膳に箸を進め、酒を呑んだ
神便鬼毒酒が効いてきたのだろう・・鬼達があちらこちらで痺れ酔い潰れている
酒天童子は・・・まだのようだ。
「今晩は泊めていただいたうえ
こんなに盛大な宴会まで開いて下さりありがとうございます」
坂田公時は酒をさらに勧めると返杯で自分も呑む
――痺れて来たような力が漲るような・・不思議な酒だ・・
ようやく酔って来たのか酒天童子は独り言ともとれる風に
公時に語り始めた・・・
「俺は越後の生まれで・・鬼子だったらしいが・・
山寺に入れられ稚児として育てられた
ある日そこの法師と争って殺してしまい比叡山へ移り住んだんだ。
だがある時、最澄という僧が現れ、俺を追い払ったのでやむなくこの大江山に移った。
親の顔は知らん。今は鬼達が俺の家族よ・・・」
――鬼子は生まれながらに髪や歯も生え目も見えるというが・・人の子だ。
「なぁに・・そんな顔をするなお客人。山奥ではあるが楽しく暮らしているのさ
こうして稀人もやってくるし」
更に酒天童子は杯をあけた
「都では人攫いの話しがあるのですが・・」
公時は言い澱むように小声で言った
酒天童子はグッと顔を寄せると
「人は食べなければ死ぬだろ?鬼も同じさ」 ニヤリと嗤った
「食べなければ死にます。しかし人は人を食いません」
「そうか?・・そういう土地もあると聞いたがな・・
人は人を喰わん・・・か・・
人という生き物は余程、食べ物が豊富なんだな」
「・・・え?・・豊富とは?」
理解できない顔で公時が聞くと酒天童子はサラリと
「あぁ。鬼は人を食べる以外・・食べ物がない。
そうしないと生きて行けないのさ」
言い放ちグッと酒を煽る
「人間以外の食べ物がない?」
公時も呑みながら聞き募る
「あぁ。あとは・・酒かww」
あははは!と豪快に笑う酒天童子を見つめる公時
考えてもみなかった・・・
人間以外食べる物がないだなんて・・・熊でさえ木の実や果物も食べるのに
穀物・魚・肉・野菜・山菜に木の実・・果物・・
それは確かに「人は食べ物が豊富」だと思う筈だ。
俺は・・・こいつを斬って良いのだろうか?
鬼子として生まれた人の子の酒天童子を・・・鬼の子の俺が・・
公時は迷いに迷った・・・
――坂田公時・・幼名は金太郎という
鬼の母と人の父の間に生まれ、父の死と共に母の実家・・足柄山育った
動物達との日頃の鍛錬が高じたのか・・
足柄峠で源頼光に目をかけられ京へ上った
ひとえに母への孝行の思いだけだったが・・・
あぁ・・痺れが伴う・・・神便鬼毒酒のせいか・・
「公時!!何を惚けておる!!刀をもて!!」
頼光の怒声に公時は我に返った
「はっはい!」
思わず・・といった形で頼光に安綱の銘が入った刀を渡す
見れば酒天童子が酔い潰れていた・・・酒のせいか・・動かない。
そうしている内に神の化身たちが再び現れ
「よくぞここまで来た。我々が鬼の手足を鎖で四方の柱へ縛りつけてやる
頼光は酒天の首を斬り、他の者は残りの鬼を斬り捨てよ」と告げた
「お―――っ!!」
威勢よく他の3人が鬼達を斬り裂いていく
頼光は刀を上段に構えると酒天童子の首へ・・一気に振り下ろした
ギャァァァァァァァ!!
酒天童子の叫びが響き渡る
「おのれ~宿を乞うたのは主等ではないか!!
宿を貸し酒を振舞った俺達にこの仕打ちとは!!
人とはなんたる卑怯な生き物か!!
鬼神に横道なきものを・・・」
首だけになっても、ハタと睨みつけ言い募る酒天童子
公時は目が離せなくなっていた
「お前も・・・おまえ・・・も・・」




