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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
15/106

竜宮の亀さんが言う事にゃ

『・・・んで??』


「んで?って・・・?」


キョロキョロせわしなく目を揺らし落ち着かない亀


『亀さんは何したの?』


「未来さんは・・浦島太郎の話しをどう思います?」


衒(てら)い無く聞く未来に諦め顔の亀は質問で返した


『どうって・・・』


朝方、半蔵に釘を刺されたばかりだが・・


チラリと半蔵を見たら目で制された


が・・・・


本人じゃないから良いよね?



『言う事を聞かないで、玉手箱を開けた大馬鹿者?』


真顔で言う未来は半蔵の大きな溜息を・・・


この際、気にしない事にした


「私もそう思ってました」


亀は自嘲的な笑いを含みながら言う


『そう思ってました?』




「えぇ。実は・・浦島さんを浜に送ってから


帰る振りして岩に隠れて見ていたんですよ。


乙姫様に浦島さんが竜宮に帰りたそうなら連れて来る様にって


言われてましたから・・・そうして見ていたら


キョロキョロしたかと思うと・・1人の老婆に話しかけました」




――「あのぉすみません。この辺りに浦島太郎の家はありませんか?」


「浦島さん・・・?この辺りには聞いた事無いですね~


あら・・でも浦島ってどこかで聞いたような・・・?



あぁそうそう!!私がまだ小さい頃、祖父に聞いたんだわ


浦島太郎って男が海に遊びに行ったきり帰って来なかったって


でも・・・ずっと昔の話って言ってましたから・・


300年は前の話しですよ?」


「え・・・?」


あまりの事に固まる浦島に


「あの~?もう宜しいですか?」


老婆は不信顔だ


「はっはい!ありがとございます」


浦島は深く頭を下げた





「あっ・・あはははははは


300年?!


俺が竜宮で暮らしたのは3年だったんだが・・


300年?!


それは辺りも変わってて知らない人がいても・・しかたがないか・・・


これでは何処で暮らしても一緒じゃないか・・・


さっき帰ってきたばかりなのに・・竜宮・・懐かしいなぁ~


恋しい乙姫は泣いているだろうか・・


そうだ!竜宮へ帰ろう!」




思い至った浦島は先程帰った亀を探した




・・・目の前は海が広がるばかり





「どうやって亀を呼んだらいいんだ?


これじゃ・・・帰れない。帰れないじゃないか・・」




浜に座り込み放ける浦島・・・


すると何を思ったのかガバッと顔を上げると玉手箱を手繰し寄せ


紐を解くのも、もどかしく箱を開けた・・・


白い煙が出たかと思うと、たちまち老人になる浦島。




亀はそれを見届けると竜宮へと帰っていった




「そう・・浦島様は箱を開けてしまったの・・」


「えぇ・・そういう訳で1人で帰って来ました」


「そう・・亀さんもう下がって良いわ。ご苦労様」


「はい。失礼致します」



亀は一礼すると大広間を辞する



『これには人間の大切な物が入っています・・


帰って来たければ決して開けないで下さいとお伝えしたのに・・


帰って来たく無かったのかしら・・


そんなに人の世が良かったのかしら・・


蓬莱よりも・・・いいえ・・私よりも・・』


乙姫の嘆きは深く食欲もなく、日に日に痩せていく・・


その姿を見て亀は


「俺は・・悪くない・・悪くない・・箱を開けたのは奴じゃないか!


乙姫様は開けるなって言ったのに・・開けたのは奴の意思・・だ


俺は悪くない


・・・しかし・・箱を手に取る前に奴は俺を探していなかったか?


・・いいや。俺を呼ばなかったじゃないか!


帰りたかったら呼ぶだろう!俺は・・・悪くない!!」


――亀は呪文の様に「俺は悪くない」を繰り返していた







『でも箱を開けた大馬鹿者には変わりないよね?』


「・・・えぇ。でも気が付いてしまったんです


浦島さんは箱を開ける前・・惚けた様な・・懐かしむ表情をしていた事に


俺が声を掛けさえすれば箱を開ける事も無く・・


乙姫様も元気でいた筈だという事に・・・」


亀は今でも痛いという顔をした


『ふ~ん~・・それで自殺を?』


「えぇ・・本当にあの時は自分勝手で傲慢でした」


『まぁ・・自殺なんてそんな物よ?周りの為に自分が居なくなれば・・な~んて


周りの気持ちを考えられない証拠だもの


残された者の気持ちとか・・後悔とか全てを虚しくする行為だわ』


「はい。お爺様にも言われました」


『え?そうなの?』


「はい。それで・・乙姫様に全て話して謝れ。と・・


生きて自分の全てで償えと言われました」


『許してくれた?』


「はい。乙姫様は振られた訳ではないと知ると嬉しそうでしたが・・


父神から大変お叱りを受けまして・・蟄居(ちっきょ)を言いつかりました」


『そう・・それで間に合わなかったのね』


未来はそう言うとすっかり氷の溶けたグラスを置いた


「はい・・」


『でもさ~お爺は喜んでると思うよ?こうして亀さんが来てくれてさ』


「・・はい!ありがとうございます。」


亀はお礼を言うと笑顔になった

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