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宿坊あやかし奇憚  作者: あやと
105/106

宿坊あやかし奇憚 外伝 爺

「おや・・お出掛けですか?」


珍しい・・と篁が言うと相手の男は衒い無く



『あぁ。那美(なみ)様の所に行って来る。漸く落ち着いたから茶でも・・と思ってな』


ケーキ屋の小さな箱を掲げると続けた


『マカロンだ。フランボワーズが那美のお気に入りだとケーキ屋が言ってたからな


 これで・・・不沙汰の機嫌も治るかな?』



「えぇ。治るでしょう」



『じゃ。行って来るわ』


そう言うと男は三途の川の橋を逆に渡って行った




「・・・なぁ? 今の誰?」


閻魔は男の後姿を追う様に見ると篁に聞いた



「え?・・・御爺様・・大国主様ですけど」



「えぇぇぇ!! あ・・あれが・・お爺?!」



閻魔が驚いたのも道理で 今日は爺の格好はしていなかった


闇を纏ったかの様な漆黒の髪はフワリと風に揺れ


弓なりの眉の下は 上目使いがよく似合う黒目勝ちな瞳


桃を思わせる頬は艶があり サラリとした唇は笑みを絶やさない




「あれじゃぁ女が放っておかないのも・・解る・・なぁ・・・orz」


閻魔の嘆きもこれまた道理で


兎に角 母性本能をくすぐる・・


常に自分が居なければ・・と女に思わせる風貌なのである


それで随分と大国主は浮名を流して来た



























太鼓橋を渡り花畑を過ぎると黄泉平坂・・・


そこの途中を右に曲がると那美の居る黄泉国がある


左に行けば根之堅州国(ねのかたすくに) 須佐之男の統治する国だ


今は黄泉にやってくる亡者が迷わない様に「あの世はこちら」と


白い看板に真っ直ぐ赤い矢印で示されている





大国主は岩戸の前まで来ると門番に軽く手を上げ


IDカードを岩戸に押し当てる


ガチャリと音がしゴゴゴッと重い音と共に戸が開いた



那岐(なぎ)が岩戸で閉めて以来 内側からは開かなくなっている


近年はIDカードを翳すと開く仕組みだが


そのカードも持っている者は1部の者に限られていた




『那美様の御機嫌はいかがかな?』


手土産の箱を執事の雷神に渡しながら大国主が言うと


「大国主様がいらっしゃると聞き 喜んでおられましたよ」


執事はにこやか返すと西洋作りの大きな戸を開けた




案内された部屋へと入ると


「今回は随分と長かったんじゃない?」


突然に那美の声が降りかかった



大国主はちょっと首を傾げ


『99年程だったから・・ そうでもないと思うけど』


とサラリと言うと那美の誘いで隣に腰掛ける




「まぁ。良いわ」


切れ長の目でチラリと睨むとメイドの入れた紅茶を口にする那美


「それで?今回はどうだったのよ? 噂によると孫までいたんでしょ?」


そう言いながら嬉しそうに木苺色の菓子を摘む



『さて・・どこから話したらいいかな?・・昭和天皇の時代だったんだけどさ・・』



「昭和は長かったものね~」



『古い宿坊の娘で出会ったのは偶然だった』



「大国主ともあろう神が・・・偶然で出会う?」


那美の言葉に含み笑いで返すと昔に想いを馳せた
























「お父さん!! ほら。罠に何か掛かってるみたい!」


「こら波音(わたね)! 危ないから先に行くな!」



父の声を意に返さず 波音と呼ばれた娘は身軽に斜面を行く



幼い頃から猟をする父に連れられて山に来る内に 


すっかり慣れ 今では年老いた父より頼もしい




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