宿坊あやかし奇憚 外伝 爺 2
「お父さん! た・・大変!! 早く!!」
「どうした?」
娘の慌てた声を聞き 息を切らせながらやっと追いついた父親が見たのは
吊り網罠にかかる間抜けな青年だった
「ど・・どうしよう? 死んじゃってるのかな?」
ピクリとも動かない青年を見上げて焦る波音
「網に包まれ上がるだけだから 死んではいないだろう・・
しかし・・間抜けな・・」
「とにかく下ろさなきゃ!」
太い幹に括り付けられた縄を解くと 2人でそっと網を下ろす
「・・・寝てる・・みたいね?」
波音の心配も他所に 青年は枯れ葉塗れでスヤスヤと寝息を立てていた
―― 可愛い・・
「そこの川にでも放り込むか?」
顔を赤らめ青年の寝顔を見ている娘に 不満顔の父は言い放つ
「そんな。お父さん酷いよ! ・・・ねぇ起きて!川に放り込まれちゃうわよ!」
『・・・・ん~・・あと5分・・』
「そんな暢気な・・・本当に川に放り込まれるわよ? ねぇ起きて?」
『 ん・・・』
「ほら!! 起きろ!!」
業を煮やした父は青年の尻を蹴飛ばした
「お父さん?!」
『いってぇ!!』
「漸く起きたか? 暢気者。しかも罠にかかるとは間抜けな」
『あはは。案外気持良かったもんで・・』
青年は顔を赤らめ頭を掻いた
「どうしてこんな所に?」
『道に迷って歩いていたら更に迷い込んでしまって・・・』
「はぁ・・・。何所かに行く予定だったんですか?」
『はい。・・・まぁ。いいえ』
「おい。どっちだ?!」
『・・・・はぁ。』
「もしかして・・・記憶がない・・とか?」
『あぁ。そうです! そんな感じ・・』
「しょうがねぇ。家に連れて帰るか」
「しかしお前。何か出来る事あるのか?」
『はぁ・・料理なら少し・・』
「本当かよ?!」
「もう。お父さん!そんなに攻めたら悪いわよ」
「だってなぁ・・」
獣肉が捕れなかったので 川で魚を捕り果実を求めながらの帰り道
「おい! 若いの!大きいのがそっちに行ったぞ!!」
『はい!』
魚をパシャパシャと音で岩場へと追い込む青年
「そっち!もっと右! ほら!今だ!!捕まえろ!!」
『はい。・・・・わっ・・・わっ・・わぁぁぁぁ!!』
バシャン!!と大きな音を立て川に嵌る青年
「だ・・大丈夫?」
『大丈夫。大丈夫。』
青年は立ち上がると 笑いながらびしょ濡れの服を絞った
「私が捕るから お父さんもう1度追い込んで!」
「おい! 若いのそこの木から柿を捕ってくれ。」
『はい!』
青年は勇んで木に登ると両手を柿へと伸ばす
「それじゃねぇ。隣の・・・そうそう!」
『はい。・・・・うっうわぁぁぁぁ!!』
「だ・・大丈夫?」
落ちてきた青年の上にガサガサと葉が舞い落ちる
『大丈夫。大丈夫。』
青年は笑いながら立ち上がり尻を摩った
「私が捕るから捕れたのを持ってて?」
「結局・・・全部お前がやってるじゃないか」
「しょうがないじゃない?記憶喪失のせいかもしれないし・・」
『料理は出来ますよ! ・・・多分』
「多分って言われてもなぁ・・・」
「まぁまぁ。お父さん。 手伝って貰う事から始めてみるから」




