宿坊あやかし奇憚 外伝 篁3
屋敷に忍ぶ篁が異変に気が付くにはそう掛からなかった
戒められた戸が放たれて闇より暗い口を開けている
『・・・媛珠?』
訝り篁がそっと声をかけるが返事は無い
―― 連れ出されたか・・・?
そう思い戸口を離れようとした時 不意に月が顔を出す
冴えたる輝きに照らされた土床の上 無音に伏す媛珠が見えた
『・・媛珠?! 媛珠!!!』
駆け寄り抱き起こすも既に骸となった躯体は虚しく揺れるばかり
初雪の様に白い肌を猩々緋に染め見開かれた瞳はもう・・・何も映す事も無い
『媛珠・・・』
―― 何故に・・・憎いのは俺だったのでは?
仕打ちをしようと母と娘だ。ここまでするとは・・
それとも父の差し金か・・・
次々に浮かぶ思いは更に冷たい現実を晒す
―― 此れが2人に科せられた罪か?
『・・・うっ・・・ぁぁぁぁぁああああああああああ!!』
篁の慟哭が夜の静寂を突き破る様に響いた
「遅かったようじゃのぉ・・・」
あれから何時間経ったのか・・・篁はのろのろと声のした方へ顔を向けた
戸口を見れば手燭の灯しに反し影ばかり濃く映りこむ
『何者・・』
篁は手燭の明るさに晒さぬ様 媛珠を袖で隠した
『父の手の者か!!』
恨みを宿す瞳は鋭く垂加する声は荒々しい
2人を睨みつけながらも放すまいと媛珠を強く抱く
「黄泉より参りました」
手燭を持つ者は静かな声で言い一歩近寄る 白髪が仄かに輝いていた
『・・・鬼。 来るな!! 媛珠は黄泉にも渡さぬ』
「魂は彷徨ってる様子じゃが・・」
もう1人・・・漆黒に金色を纏う爺が言い募る
「・・そのままに抱きて女が元に戻るかの?」
『・・・・反魂法なら知っている』
「ほぉ。絶える事無く伝わっておったか。 しかし。魂を見失っておって反魂とは」
爺はニヤリと嗤うとそっと袖から手を出す
その手にゆらゆらと揺れる紅梅色の炎
『媛珠・・・ 媛珠を返せ!!』
炎を愛しき女と見た篁は躯体を抱いたまま手を伸ばし求める
その動きにも揺れる魂は掌に遊ぶ胡蝶の様に儚い
「これ。触るな。この灯火が消えれば永久に消え去る」
それを嗜める様に爺は言った
「それに・・そこまで体躯が痛んでは返しても苦しむだけじゃろうて」
『ならば埴土で形代でも創ろうぞ・・』
「それこそ罪」
『罪と言うなら・・既に妹を愛し交わる禁を犯している
媛珠と再び見える為なら更なる罪も厭わぬ』
言い切る篁 瞳は一層暗く光る
「よし! 採用!!」
爺はポンと手を叩くと話の流れからは程遠い台詞を口にする
『・・・採用とは?』
虚を突かれ篁は普通に返した
「良いじゃろ?」
爺は篁の問を流すと白髪の男へ目を向けた
「しかし御爺様・・・この者・・人・・ですよ?
それに此度の事を何も説明していないじゃないですか」
男はそう言うと篁に向けて話し出す
「此度の件・・こちらの管理が行き届かずにおきた事でして・・」
『媛珠の死が・・・黄泉の管理不足とは・・』
「いいえ。貴方達の恋愛が・・です」
『この愛其の物が間違いだと?』
篁は強く唇を噛み締めた
―― 間違い?
烈火の如く湧き上がる想い
・・・この苦しみ
これが間違いだと?
『媛珠と共に過ごした事を間違いだと言うのか!!』
「はい」
怒りを露にする篁に対し男は静かに返す




