第6話 ガチャガチャの壁 (前編)
スーパーの出入口脇に並ぶガチャガチャ。
一台や二台ではない。
ずらりと並んでいる。
もはや、壁である。
キャラクター。
動物。
ミニチュア。
キーホルダー。
子どもにとっては、ものすごく魅力的らしい。
生活に必要かと言われれば、たぶん必要ない。
――いや、今の時代、こういうものこそ絶対に必要だと真理子は思う。
人に癒やしやときめきをくれる。
そういうものがあるから、人はまた少し頑張れる。
土日の午後2時過ぎ。
この時間なら、きっと子どもたちが吸い寄せられている。
店に入る前から、
「これ、やりたい」
帰るときには、
「一回だけ!」
そんな声が聞こえてきそうだ。
親は、
「今日はやらないよ」
子どもは、
「一回だけ!」
たった数百円。
なのに、なかなか話が終わらない。
小さな家庭内交渉である。
……親は大変だ。
でも、この壁。
子どもだけを狙っているわけではない。
たまに、大人買いをしている人を見かける。
同じガチャガチャを何度も回している。
「……本気ね」
私は、こういうの嫌いじゃない。
むしろ、ちょっと応援したくなる。
好きなものは、好きでいい。
……まあ、ほどほどにね?
平日の午後2時過ぎなら、子どもも少ない。
人目を気にせず、思う存分回せる。
夕方や土日だったら、そうはいかない。
「それ、私の分なくなるじゃん」
そんな子がいても不思議じゃない。
だから、大人が本気を出すなら、平日の午後2時過ぎ。
……案外、狙い目なのかもしれない。
そして、大人買いをしている人を見ていると、たまに思う。
ダブったもの。
もし、そばで子どもが、
「何が出るかな!」
「それ、欲しいやつ!」
なんて、自分のガチャ結果をゲーム実況でも見るように純粋に応援していたら。
少しくらい、分けてあげたくなるかもしれない。
「応援してくれたから、お礼にあげるね」
……なんてことがあったら、ちょっといい。
もらった子は嬉しい。
あげた大人も、たぶん嬉しい。
ガチャガチャは、お金を入れて回すだけじゃない。
たまには、知らない誰かと小さな楽しさを分け合うこともある。
……まあ、そんな場面に出会えるかどうかは、別として。
平日の午後2時過ぎ。
子どもたちが少ない時間に、大人がひっそり大人買い。
その一方で、週末になると、今度は子どもたちがこの壁の前に集まる。
たぶん店のほうも、それを分かっている。
週末に向けて、カプセルを補充しているのかもしれない。
大人の時間が終われば、子どもの時間がやってくる。
そんなふうに考えると、
ガチャガチャの壁も、ちゃんとスーパーの時間に合わせて動いているように見える。
生活必需品ではない。
なくても困らない。
でも、生活には、こういうものも必要なのだと思う。
なくても生きてはいける。
でも、あったほうがいいもの。
それが、たぶんこういうものだ。
スーパーの外には、そんなものがいくつもある。
私はガチャガチャの壁を眺めながら思う。
「……スーパーって、食べ物だけじゃないのよね」
そして今日は、帰りに一回くらい回してみようと思った。
運試し。
少し気分を変えるくらいなら、いいだろう。
何かいいことでも起きるかもしれない。
……まあ、きっと店を出る頃には忘れている。
そう思いながら、私は店の中へ入った。




