第3話のあとで ATM
ATMの跡には、最新式の自動販売機が入っていた。
災害対応型らしい。
普段は飲み物を売り、いざというときには無料で提供できる。
Wi-Fiまで使えると書いてある。
ずいぶん立派である。
地元の銀行のATMが消えた跡に、今度は地域に役立つ新しい機械が来る。
そう聞けば、たしかに文句のつけようがない。
むしろ、ちゃんとしている。
最近のスーパーはそこまで考えるのかと、少し感心した。
ただ、立派だなと思う一方で、気になる。
君はそこにいて大丈夫なのか、と。
最近やたらと聞くようになった。
線状降水帯。
別に覚えようと思って覚えた言葉ではない。
なのに、何度も聞かされるうちに頭に残った。
そういう言葉が増えたのは、たぶんあまり良いことではない。
大雨による冠水被害も、もう人ごとではない。
ニュースの中の遠い話だったはずなのに、今ではどこで起きてもおかしくない気がする。
昨今、という言葉まで妙に似合ってしまう。
そうなると、災害対応型の自動販売機がスーパーの隅、それもあまり高いとは言えない場所に置かれているのを見ると、少し落ち着かない。
君、そこよりもう少し高い場所のほうがよくないかい。
災害時に役立つための機械が、いざ大雨になったら水につかって使えない、というのは、立派な話のわりに絵としてだいぶシュールである。
もちろん、実際にはそのへんも計算されているのかもしれない。
私が知らないだけで、冠水くらいは想定済みなのかもしれない。
だとしたら失礼な心配である。
ただ最近は、立派な理念を見ると、まず先に置き場所や足元のほうが気になる。
世の中を信用していないというより、たぶん看板より現場のほうを先に見るようになってしまったのだと思う。
あまり褒められた性格ではない。
それでも、災害対応と書かれた機械が、いかにも水のたまりそうな場所に静かに立っているのを見ると、
応援したい気持ちと、いや本当にそこか、という気持ちが半分ずつ湧く。
便利さも防災も地域貢献も、今どきは全部まとめて背負わされる。
自動販売機も大変である。
前は現金を出すだけのATMが、黙ってそこにあった。
今度は無料提供とWi-Fiまで求められる。
機械にだって、時代の圧はずいぶん強い。
そう思うと少し気の毒になるが、
それはそれとして、やはりもう少し高い場所のほうがいい気がする。




