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第3話 証明写真機とコイン精米機、消えたATM

 スーパーの隅に、証明写真機がある。


 その隣には、コイン精米機。


 少し離れたところには、何かがあった跡だけが残っている。


 この三つを見るたび、私は思う。


「……なぜ、ここに?」


 いや、便利なのは分かる。


 証明写真は、急に必要になる。


 履歴書。

 免許の更新。

 書類の提出。


 そんなとき、スーパーのついでに撮れる。


「買い物のついでに、写真も」


 こういうのは、かなり助かる。


 ただ、証明写真機を実際に使っている人は、あまり見ない。


 だから午後二時過ぎ、カーテンが閉まっているのを見ると、


「……誰か使ってる」


 と、ちょっとだけ珍しいものを見た気分になる。


 人が少ない時間だから、気兼ねしないのかもしれない。


 後ろに並ばれることもない。


 カーテンの中で、ゆっくり顔を作れる。


 最近の証明写真機には、「美肌モード」というものがあるらしい。


 プラス二百円。


「……二百円か」


 一瞬、迷う。


 でも、一生残るかもしれない写真だ。


 たかが証明写真なのに、少しでもましに写りたい。

 そういう小さな見栄だけは、年齢に関係なくしぶとい。


 機械にまで「もう少しきれいにしておきますか?」と聞かれると、ちょっと弱い。


 若いころにこれがあれば、と思わなくもない。


 まあ、今さらだけど。


 その隣にあるのが、コイン精米機である。


 こちらは、必要な人にはものすごく必要だ。


 玄米を持ってきて、ゴウン……ゴウン……と精米する。


 普段、使っているところをあまり見ない。


 だから実際に動いているところに出会うと、


「お、今日は働いてる」


 なんて思ってしまう。


 人が使っているだけなのに少し珍しく見えるのは、

 普段は自分に関係ないものとして通り過ぎているからだろう。


 午後二時過ぎ。


 朝いちばんほど人はいない。

 昼前の忙しさもない。

 夕方の買い物ラッシュには、まだ早い。


 そんな中途半端な時間だからこそ、普段なら気づかないものが妙に目に入る。


 証明写真機のカーテンが閉まっている。


 精米機がゴウン、ゴウンと動いている。


 そして少し離れたところには、ATMがあった跡だけが残っている。


 少し前まで、そこには地元の銀行のATMがあった。


「便利だったのに」


 と思う。


 でも、そう思ったあとで、ここ一年くらい使っていないことも思い出す。


 スーパーの支払いは電子マネーだし、メインで使う口座も、いつのまにか地元の銀行よりネット銀行になった。

 現金が必要になっても、どこの銀行にも対応しているコンビニATMで足りる。


 便利だったのに、なくなるまでほとんど使わなかった。


 なくなった途端に惜しむ。


 人間というのは、なかなか勝手なものである。


 もちろん、私もその中に入っている。


 そういうものが、最近は少しずつ増えている気がする。


 証明写真機も、コイン精米機も、ATMも、必要なときに使われる生活の脇役だった。


 主役ではない。


 でも、いなくなると困る。


 必要なときだけ思い出されるものは、たいてい普段は忘れられている。


 そういう扱いに、少し心当たりがある。


 たぶんあそこには、そのうち最新式の自動販売機でも置かれるのだろう。


 午後二時過ぎのスーパー。


 そんな時間だからこそ見られる光景も、案外ある。


 私は隅の機械たちと、そのひとつぶん空いた跡を眺めながら、


「……スーパーって、ほんと何でもあったな」


 と思った。


 その足元では、こぼれた米粒を目当てに、鳩が一羽歩いていた。

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