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「残念、今日は起きてるんだ?」
自分の部屋の天井を見つめていると、聞きたくない声が頭上から降ってきた。廊下側の窓には、水入りのバケツを持った茶髪の男が立っていた。
起きたわけではない。昨日は一睡も出来なかった。まあ、マフィアの拠点からここまでの移動でかなり時間を使う。寝れたとしても、数刻だ。この男に会わずに済むなら、むしろ外で寝てたい。
私は寝台から上体を起こし、モズの方を向く。
「……今回もほとんど収穫はないです」
私はリアから得た情報を、自分で調査したかのように報告していく。ふと、モズの顔を見るとなぜかニヤついている。その顔が薄気味悪くて、私は徐々に早口になった。
モズは「いや〜ご苦労さん」と言いながら、顔を下に向けククッと笑う。私の義務は果たしたので、早く去ってほしい。次の言葉を待っているとモズが顔を上げ、言い放った。
「もしかして、奴隷ちゃんと喋ってない?」
——バレた
一瞬、思考が止まった。恐れていたことが起きた。
今伝えたことの何が原因だった? どこかで矛盾した? いや、原因を探ってもしょうがない。私は今、どうするべきだ?
モズは笑顔で許して貰えそうな雰囲気だが、騙されてはいけない。この男は笑顔で人殺しを命令できる。少しでも対応を間違えたら、ひどい目に遭う。
「……申し訳ございません」
散々悩んだ末、私の口から出たのはそんな言葉だった。
「ああ、別に責めるつもりはないよ。対象と喋るなとは言っていないし」
モズは私の謝罪を興味なさそうに流す。そして窓枠から身を乗り出し、それにしても、と切り出す。
「君が誰かと会話するとは思わなかったよ。いつから話してたの? 何がきっかけ?」
モズが矢継ぎ早に質問し、私はそれに答える。さっきの対応は正解だったようだ。悟られないように内心で安堵する。
何度かの問答の末、モズが静かになった。彼は窓枠から身を起こし、目を閉じて頭を指で軽く叩く。しばらく間があった後、何かを思いついたように言った。
「そうだな、君にはリアって子と仲良くなって貰おうかな」
——仲良く?
意図の分からない命令に戸惑う。ふざけているのかと思ったが、モズは先ほどまでのニヤついた顔とは打って変わり、真顔だった。
「基準が難しいな。後々の計画のことを考えると、部屋への出入りが自由にできるぐらいが目安かな」
「……分かりました」
何を企んでいるか見当が付かないが、私にはこの返答しか許されない。
「じゃあ、よろしくね〜」とモズは手をひらひらと振り、窓から離れる。私は次の潜入への準備のため、寝台から立つ。
ああそれと、と低く冷たい声に身が固まる。廊下側の窓に視線を戻すと、モズがこちらを見ていた。
「僕に、嘘や隠し事が出来ると思わないでね?」
そう言い残し、モズは去って行った。




