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リアに調査がバレてから、1週間。
モズへの報告に戻るとき以外、私は屋根裏で雑談に付き合わされている。
彼女が貴族だったことを報告すると、モズは、貴族関連の記録はこっちで調べると言ってきた。調べる手段があるのだろうか。物心ついた頃から知っているが、謎の多い男だ。
私は引き続き、リアを観察している。彼女は私に慣れてきたのか、最近はふとしたタイミングで話を振ってくる。部屋に同居人がいれば、こんな感じなのだろうか。
「あの男とはどういう関係なんだ?」
今日は話が切れたところで、私から聞いた。ベッドに腰掛けたリアの、ぶらぶらしていた足がピタッと止まった。金髪の間から、赤い目がこちらを覗いた。
「アエトスのこと? 唐突ね」
怪訝に思われたようだ。上手い聞き出し方が分からなかった。あれでは、妻に間男のことを問い詰める夫のような言い回しだ。
「次の報告の日が近い。収穫が一つもないのはまずいんだ」
正直に白状した。リアの好きな食べ物や色、貴族だった頃の趣味を報告なんてしたら、どんな目に遭うか分からない。
「しょうがないわね」
リアは髪を後ろに流し、手を前に組んだ。しばらく目を閉じながら、頭を捻っている。何を話せば良いか迷っているようだ。
「話すと言っても、私、あの男のことは買われた後のことしか知らないのよね」
目を開けこちらを向くと、リアは言った。
「なぜ、閉じ込められている?」
少し間を置き聞くと、リアは呆気にとられた顔をした。
「閉じ込められるのは当たり前じゃないの? 私がここに来た頃から部屋の扉は閉まっていたわ。鉄格子がはめられたのは、窓から脱走した後だけど……」
「脱走?」
私が聞き返したのに対し、リアはそうよ、と続けた。
「だって、こんなところで閉じ込められる人生なんて嫌よ」
予想だにしない答えに戸惑う。逃げる——奴隷にその選択肢はない。逃亡歴が付けば、女も男も関係なく闘技場行きだ。特に女の奴隷が負けたらどうなるかなんて、考えたくもない。
「君は、逃げた奴隷がどうなるか知っているのか?」
声が若干低くなる。自分でもなぜこんなことを聞くのか分からない。答えがどちらにしろ、任務には関係ないのに。
「知らないわ。まあ、ろくなことにはならないのでしょうね」
彼女は興味なさそうに答える。私が逃げた奴隷の末路を話そうとすると、逆に、とリアは続けた。
「あなたはなぜ、従ってるの?」
虚を突かれ、返答に困る。奴隷が命令されて、それに従うのは当たり前だ。でも、彼女にはその当たり前がない。だから「命令だから」という答えは違う。
逃げたらどうなる? 最悪の場合、捕まって、闘士にされ、凌辱の果てに死ぬのだろう。だが、そのことに恐怖はない。じゃあ、なぜ逃げないのだろう。
『命令だから、仕方がないんだよ』
ねっとりとした男の声が耳にこだまする。
——駄目だ、思い出すな
薄暗い空間を鉄の匂いが満たしている。周りには何人もの子供が床に転がったまま、ピクリとも動かない。
目の前には、血だまりに横たわる少女。微かに肩が上下しており、手は腹部を押さえている。
私は震える手でナイフの柄を必死に握りしめている。少女のものか、私のものか、荒い呼吸と心音が耳を襲う。
「どうかした?」
軽やかな声が聞こえ、ハッとする。心臓がどくどくとうるさく、冷や汗が気持ち悪い。
「……すまない、今日は帰る」
それだけ言い残し、私は屋根裏から出て行った。
私は、このときのリアの言葉によほど動揺していたのかもしれない。
「もしかして、奴隷ちゃんと喋ってない?」
次に報告に行くと、モズにそう迫られた。




