5
モズに調査継続を言い渡された日から3日、私は屋根裏からマフィアの奴隷——リアの様子を観察している。得た情報は名前くらいだ。アエトスが呼んでいたので分かった。
リアは何もしないし、何もされない。夜の相手ぐらいはしていると思っていたが、本当に何もしない。厳密にいえば、生きることに関わることはやっている。
風呂や厠には行くし、着替えもする。飯はアエトスが運びに来て、それを食べている。たまに食べていないときがあると、アエトスが注意する。
彼女を初めて見たときから、部屋の外に出ているところを見たことがない。飯を食べたくないのも分かる。運動量が少なすぎて、腹が減らないからだ。
その様子を朝から晩まで見ている私は退屈だ。サクッと殺して帰れる暗殺任務が恋しい。モズの適性判断は正しかったようだ。調査任務は私に向いていない。
退屈はダメだ。
——油断を生むから
◇◇◇
その日も屋根裏の隙間から覗いていたら、リアは唐突に天井を見た。その視線の先は私のいる位置だ。赤い目と視線が絡まった気がした。向こうからは見えないはずだ。
「……ねえ、そこに誰かいるんでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が嫌な音を立て、頭が真っ白になる。私は反射的に隙間から顔を離した。
——まずい、バレた。殺すか?
いつもの癖で、腰のナイフを抜いて握ってしまう。ダメだ、殺しはまだ命令されていない。とにかく、ここを離れよう。
私はナイフを腰に戻し、隣家の屋根裏の方へ体を向ける。界壁の途切れ目まで這えば、音は立てずに抜けられる。
「待って、あなたのことを告げ口するつもりはないわ」
凜とした声が私の歩みを止めた。耳を貸すな、帰れ。頭の隅でそんな警告が流れる。次の声が来るまでの間が、やけに長い。
「あなた、2日以上は見てたわよね? だったら分かるでしょ。私、凄く暇なのよ。何か話してくれない?」
昨日からいるのがバレていたのか。いや、彼女のはったりの可能性だってある。
「あ、アエトスが帰ってくる心配をしているのね? あの人は今日、夕飯以外は来ないわよ」
「……なぜ、それが分かるんだ?」
情報が得られるなら、話す価値はある。
私は再び彼女の様子を覗く。隙間の下に寝台が見える。彼女はそこに腰掛けたまま、まだ天井を見上げていた。
「あなた女の子だったのね! よかった〜。えっとね、あの人はルーティーンで動いているの。だから今日は夕食以外は来ないわ」
彼女は胸に手を当てホッとした様子を見せる。男に見られているのを危惧してたのだろう。そういえば、この調査の前任者は男だった。
「ルーティーンっていうのは?」
私がそう聞くと、彼女は人差し指を唇の前に立てる。声が少し軽くなった。
「今はそこまで教えてあげない。全てを知っちゃうとあなた、もう来ないでしょ?」
リアがいたずらっぽく笑った。私が調査の目的で、ここに来ていることが分かっているようだ。
「お仕事したかったら、私のこと退屈させないでね?」
挑戦的なリアの要求に、私は「分かった」と短く返した。




