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暗殺に失敗した私は、殺すはずだった彼女と逃げることにした  作者: みのる


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2

「おはよう!」


軽快な挨拶と共に、水を浴びせられる。

急に体温を奪われた体が悲鳴を上げ、頭が一気に覚醒する。


「いや〜、この起こし方、顔と布団が同時に洗えて一石二鳥だね」


私は声のする方向を見る。廊下へ抜ける窓が、いつのまにか開けられていた。

案の定、窓からこちらに身を乗り出す茶髪の男——モズがいた。


モズは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、こちらを見ている。


ここで不快であると顔に出したり、目の前の男を睨み付けたりしてはいけない。

前に一度だけ睨み返したとき、水に氷を入れられた。


モズの機嫌ひとつで、この建物の奴隷の今日が決まる。

私も、その一人だ。


袖まで濡れた服に、部屋のすきま風が通る。身震いを噛み殺した。

モズの嫌がらせには慣れているが、真冬にこれを選ぶのは悪意しかない。


「……何の用件でしょうか?」


水で濡れた髪が顔に張り付く。前髪を後ろに流した。

会話を終わらせて、早く体を拭きたい。


「昨日は仕事お疲れさん!警備も多かったでしょ?よく頑張ったね〜」


モズは子供にするように、私の頭を無遠慮になでてくる。

頭を揺らされて、落ちきっていない鉄の匂いが立つ。


こいつのおもちゃにされるより、あのまま寝かして貰うほうがよほど労いになる。


「で、本題に入るけど、次の仕事して貰える?」


頭の上から手が消えた。代わりに、面倒くさそうな声が降ってくる。


「帰ってきて早々悪いな〜とは思ってるんだけど、なる早でやりたいんだってさ」


全く悪びれる様子もなく、モズは告げる。


「次の仕事は、マフィアの拠点の調査。具体的にはそこのボスの弱みを掴んできてほしい」


「……調査?」


モズが私に頼む仕事は、大体が暗殺だ。

時間、場所、顔の情報を渡し、「殺してこい」で終わりだ。


奴隷同士で口をきくことはない。

だから、調査には調査の担当がいるのだろうと勝手に思っていた。


「そう、調査。前任者、あ〜、だれくんだっけ?

まあ、いいや。その子殺されちゃったから、他に適任者がいないんだよね〜」


私が疑問に感じたことを読み取ったのだろう。モズは答えた。


使えない奴隷は、組織に処分されて死ぬ。

使える奴隷は、高難度の命令を遂行して死ぬ。


別に死ぬこと自体を恐れているわけではない。

ただ、どちらにしても楽に殺して貰えないことをよく知っている。


「しかも、前任者くんが失敗したせいで向こうの警戒度MAXなんだよね」


嫌な情報が追加される。

もちろん、私に拒否権はない。調査対象が間抜けであることを祈るのみだ。


「本当はね、君に暗殺以外の仕事を任せるのは嫌なんだよ」


モズが唇を尖らせ、窓の縁を指で叩く。

どうやら私が暗殺ばかり任されているのは、この男の采配だったらしい。


生き延びてきた分だけ、自分に向いているのだとは思う。

だが、人を殺す才能を育てられたことに、感謝はできない。


「君は僕が育ててきた中でも、最高傑作だしね」


ねっとりとしたモズの声が、私の思考を邪魔した。

どこまでも続く闇のような黒い目を見て、背筋が震える。


「だから、今回もちゃんと帰ってきてね」


穏やかな笑みのまま、モズは窓を閉めた。

前任者も、同じ言葉で送り出されたのだろうか。

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