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クローゼットから解放された後、私は鉄格子を切断するより、天井をこっそり切り抜いてしまう方が早く、見つかりにくいと考え、リアに相談した。
結果、トイレの個室の天井を切り抜くことになった。リア曰く、ここは普段自分しか使っておらず、たまに掃除に入るアエトスしか気づかないだろうとのこと。
私は天井を這い、隣の建物に脱出した。その際、リアも出たいと言ったが無計画にそんなことをしても、また捕まるだけだと諭した。
いつもの黒い外套に身を包み、日が沈みきるのを待つ。
彼女は出たいという思いが強すぎて、出た後のことを考えていない。彼女の容姿は目立つ。ふらふらと市井を歩くこともままならないだろう。仮に出歩けたとしても、元貴族の彼女には勝手が分からない。潜伏先を探し、食料・飲料を定期的に差し入れる必要が……
そこまで考えて、ふと思う。別に彼女が出た後にどうなろうが私の知るところではない。なぜ、そこまでしようとしているのだろう。
まあ考えるだけなら、時間を潰すには丁度良いか。
私は辺りが暗くなるまで、脱出後の計画を考え続けた。
◇◇◇
暗闇の中、建物の屋根を跳躍しながら移動する。自分の部屋の窓に近づくと、窓枠に寄りかかり、たばこを吹かす男の姿が見えた。
モズは屋根に立つ私と目が合うと、たばこを吸ったまま、片手を軽くあげる。
「遅かったね」
「申し訳ございません」
形だけの謝罪をし、ここで吸うなと睨み付ける。最悪だ。部屋に匂いが付くじゃないか。
「で、どうだった? 何か成果があったんだよね」
私が不機嫌なのが面白いのか、モズはニヤニヤ笑う。行動を全て把握しているような言動に不快感を覚える。
「ご命令を達成しました」
モズは嘘くさい笑みを消し、「そっか」と短く答えた。たばこを口に運び、ゆっくりと煙を吐く。
しばらくその動作を繰り返した後、口を開いた。
近くにあるものを取ってほしい、そんな些細なことを頼むような態度で言葉を放つ。
「じゃあ、次はそのリアって子を殺して」
殺しの命令だ
——今、誰って
「……は」
足下が揺らぎ、視界がぼやける。意識をつなぎ止めようと、左手が右腕を掴む。
「なぜ、」
思考が口から漏れる。言われた言葉が、理解できない。
「彼女は、ただの奴隷です。殺しても何の益もない」
モズは煙を吸い、こちらを焦らすように吐き出す。たばこを口から離し、少し笑う。
「君が殺しに理由を求めるなんて珍しいね」
言われて自分の異変に気づく。いつもは理由なんて聞かない。殺しの命令と共に伝えられるのは時間、場所、顔の情報で、そのどれも自分は既に知っている。
もう十分に、命令をこなす情報は揃っている。
「今回の目的は大きくなってしまったマフィアを弱らせる、もしくは解散させることだ」
「それなら、アエトスを殺せば……」
咄嗟に口からターゲット変更の提案が出てくる。自分でもなぜそんなことを言うのか分からない。
「ボスが誰かに殺されたとなると、マフィア同士の抗争に発展するかもしれない。だから、アエトスには自滅してほしいんだよね」
寒さのせいか、手足が震える。拳を握りしめ、この時間が過ぎ去るのを待つ。
「そこで、目をつけたのが彼の弱み——リアだ。アエトスは間違いなくリアに惚れているよ。彼が奴隷ビジネスを始めたのは、彼女を購入したのとほとんど同じ時期だ。よっぽど彼女を誰かに取られたくなかったんだろうね」
男の声がどんどん遠くなっていく。
「そこまで大切な人が無残に殺されたとなると、正気は保てないだろう」
——ああ、そうか
「この計画を立てれたのは、君の情報のおかげだよ。ありがとう」
リアが殺されるのは、私のせいなんだ。




