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それから十日ほど、今まで通りリアと過ごしたり、報告に帰ったりした。
そして今日、いよいよリアのいる部屋に入る。リアからアエトスのルーティーンについて聞き出しておいた。拠点にいるのは火・木だけだという。なぜ分かるのかと聞いたら、その曜日は昼食を直接運びに来るからだそうだ。
今までの潜入で得た情報とも矛盾はない。組織のボスとなれば、会食なんかが多いのだろう。
いつもの黒い外套は日中だと目立つので脱いだ。シャツにパンツだけでは若干寒いが、致し方ない。
私は近くに人の目がないことを確認し、窓から身を乗り出す。今の時間、ほとんどの人間は仕事中だ。それでも見つかるリスクはゼロではない。急いで行動せねば。
外壁を伝い、隣の建物の窓にしゃがみ込む。ナイフを取り出し、上下窓の合わせ目に差し込んで、留め金を横に押しのける。窓をそっと開け、身をねじ込み、閉め直す。
ここはアエトスの執務室のようだ。書棚と執務机、ソファが視界に入る。家具も小物も必要最低限だ。金は腐るほどあるだろうに。
私は執務机に近づき、調べていく。物の配置が変わらないように注意して、引き出しを開ける。部屋への鍵は置いてなさそうだ。調べた形跡が残っていないことを確認し、近くにある扉の前に移動する。
扉の鍵をじっと見る。このタイプなら開けられそうだ。鍵穴に道具を差し入れ、指先にだけ意識を集める。床板の下から、帳場の話し声がくぐもって届いている。しくじれば、誰かがここへ来たことが知れてしまう。
カチッと、耳を澄まさなければ聞こえない音がする。私は慎重に、けれど素早く同じ音を奏でていく。
——これで最後
指を止め、息を整える。
カチッ
道具の先に手応えが返ってきた。手首をゆっくりと回す。ズッ、と鈍い感触が指に伝わる。最後のひと捻りをそっと加えた。ガチャ、と錠が小さく鳴る。
道具を抜き、鍵穴の縁を指でなぞる。傷はない。私はノブに手を掛けた。
扉を開けると、目の前には金髪に白いワンピースの少女が手を後ろに組んで立っていた。
「ごきげんよう、侵入者様」
少女はいたずらっぽく笑う。言動が裏切り者みたいだ。しかし、彼女にその気はないらしい。早く入れと目で促している。私は中に入り、音を立てないように扉をそっと閉める。
「思ってたより小さいのね」
リアは私の目の前に来て、手のひらを自分の頭と私の頭の間で行ったり来たりさせる。出会ってから半月以上経ち、かなりの頻度で会っていたが、ここまで近づいたのは初めてだ。
今まで上から見ている分には分からなかったが、かなり容姿が良い。ワンピースから覗く肌は全体的に白く、長い金髪には癖が一つもない。顔は小さく、丸く大きな瞳を長いまつげが縁取っている。
そして左頬には焼き印があった。デザインは装飾的で容姿を損ねるものではない。けど、リアには似合わないと思った。
「奴隷は生育環境が悪い。小さいのはその所為だろう」
私は彼女から視線をそらす。リアは「そう」とだけ口にし、部屋に唯一の椅子を指す。
「立ちっぱなしも何だし、そこ座って」
リアがベッドまで移動し、腰掛ける。正直、潜入中である身としてはいつでも動けるように立っていたい。リアに伝えるとしぶしぶ承諾してくれた。私はベッドの近くの壁際に立った。
◇◇◇
その後はいつも通り、他愛ない会話に興じた。違うのは、リアの顔や反応が見られる——ただそれだけだった。
それだけなのに、時間はいつもよりも早く過ぎ去った。
「お母様が『本日のディナーはいかがいたしましょうか』ってお父様に毎日のように聞いていたの。そしたらお父様が……」
リアが唐突に話を止め、固まった。
どうしたと聞こうとしたが、階段を上る音が耳に届き、口をつぐんだ。
音は一段ずつ、こちらへ近づいていた。




