第二十六話 鬼と槍の戦場
第二十六話 鬼と槍の戦場
小牧・長久手の戦場へ向け、怒涛の進軍を続ける二千の丹波軍。
その本陣、馬上の朔太郎のすぐ脇には、一人の少女が整然と馬を並べていた。
バレー部の青木さくらの双子の妹――特進科トップ、青木ゆか(十六)である。
1 右腕・青木ゆか
明るく活発な姉・さくらとは対照的に、銀縁メガネの奥に知性的な瞳を光らせるゆかは、数学と統計学の天才であった。
「殿、前方三キロの地形データおよび風速の計算が完了しました」
ゆかは和紙に書かれた精密な確率・弾道計算表(政務補佐)を朔太郎に差し出した。
「敵の行軍速度から逆算すると、逢坂山のような狭隘地に追い込まずとも、この先の長久手の丘陵地帯(谷間)で『十字砲火』を仕掛け(智謀)、野球部の炮烙玉を四十度で投擲すれば、着弾誤差はわずか一メートル以内に収まります」
朔太郎は計算表を一瞥し、冷ややかな口元をわずかに吊り上げた(智謀八十)。
「……見事だ、ゆか。俺が頭の中で描いていた陣形配置の計算が、一瞬で数値化されたな」
「ちょっとゆか! 殿様の右腕だからって、馴々しく『ゆか』なんて呼ばれてズルい!」
後方の補給隊から、姉のさくらがキーキーと声を張り上げる。
「私は仕事の話をしているの、お姉ちゃん。感情論は兵糧計算の邪魔よ」
すました顔でメガネを上げるゆか。
側で長刀を構える剣道部の千佳子も「頭脳で殿の隣を奪われるとは……!」と悔しそうに拳を握りしめていた。
2 鬼武蔵と七本槍
天正十二年、四月。長久手の山あいに、凄まじい地鳴りが轟いた。
丹波軍の目の前に立ち塞がったのは、豊臣軍の誇る屈指の猛将たち――『鬼武蔵』と恐れられる森長可率いる三千、そして秀吉子飼いの筆頭格・加藤清正率いる二千の精鋭部隊であった。
「ハハハッ! 丹波の落ちこぼれと異形のガキどもが出しゃばってきたか!」
白い人間無骨の槍を振り回し、狂気の笑みを浮かべる森長可。
「秀吉様の天下の邪魔はさせん! 全軍、あの生意気な丹波軍を突きのけろ!」
十文字槍を高く掲げ、冷徹に陣を整える加藤清正。
二人の猛将率いる総勢五千の豊臣軍が、丹波軍の二千へ向かって怒涛の勢いで押し寄せてきた。
3 計算された殺戮地帯
「敵先鋒、森長可隊、突撃してきます! 速いです!」
物見の忍びが叫ぶ。
しかし、朔太郎のとなりに控えるゆかは、冷静に手元の紙とストップウォッチ(現代の懐中時計)を見つめていた。
「慌てないで。敵の突撃速度は時速十五キロ。……あと三十秒で『ポイントB』に到達します。……十、九、八……今です、殿!」
「放てっ!」
朔太郎の長槍が振り下ろされた。
カキィィンッ! カキィィンッ!
ゆかの精密な弾道計算に基づき、野球部の爆撃隊が金属バットと遠投で解き放った大量の『炮烙玉』が、森長可隊のど真ん中へ吸い込まれるように着弾した。
ドガァァァンッ! ズドォォォンッ!
「なっ……何だこの爆発はぁっ!?」
狂気で突き進んでいた森長可の先鋒隊が、爆風と破片によって一瞬で吹き飛ばされ、地獄の焦土と化す。
4 加藤清正の衝撃
「なに……!? 長可の軍勢が一瞬で潰されただと!?」
後方に控えていた加藤清正が、あまりの惨状に目を見張った。
さらに、爆煙の向こう側から、ゆかの指図によって配置されたアーチェリー部と弓道部の一〇〇名から、絶え間ない「コンパウンドボウの超遠距離射撃」が清正隊の頭上へ降り注ぐ。
「槍衾を揃えろ! 崩れるな!」
清正が叫ぶが、現代の弾道計算と新兵器が組み合わさった丹波軍の十字砲火の前に、豊臣方の精鋭たちが次々と血の海に倒れていく。
返り血を浴びた長槍を手に、馬上の朔太郎が冷ややかな眼光で二人の猛将を見下ろした(統率九十)。
「森長可、加藤清正……。我が参謀・ゆかの計算通り、一歩もここを通さん」
天才参謀・青木ゆかを得た新生・丹波軍。
戦国屈指の猛将たちを相手に、現代のデータ戦術と泥臭い軍力による伝説の「長久手の激突」が、いま完全に火蓋を切ったのである!




