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その夜、早寝の彼女にしては珍しく夜が更けてからもエルシャが談話室にいた。
両親たちは今頃晩餐室で酒でも飲んでいることだろう。
もう自室に下がってもよかったが、なんとなく、ルディガーはもう少しエルシャと話してみたい気がした。
「あら、珍しいわね」
「お前もな」
「なんだか眠れなくて」
「そうか。少し話すか?」
「そうねぇ……」
それでも少し眠気があるのか、いつもよりぼんやりした様子で考え込む。
湯を使ったからか、いつもよりしっとりとした栗色の髪が艶めいている。
この子の髪には少し癖があるのだな、と思った。
エルシャはアルマより更に小柄だが、ほっそりとした印象でもない。
どうやら少し日に焼けているように感じるが、それもエルシャらしくて良いだろう。
伏せたまつげは長く、頬に影を落とす。
そういえば、エルシャの瞳は青色だ。
「お前のような瞳の色は、どんな宝石に例えられるんだ?」
「え? 急になに?」
「いや、以前……あ、いや、なんでもない」
エルシャの目の上が平らになる。
う、と喉を詰まらせたルディガーに溜飲を下げたのか、ふんと鼻を鳴らした。
「あのね、私は『私とアルマ様を比べないで』って言ったの。アルマ様の話をしないでとは言っていないわ」
見透かされたようで少々座りが悪い。
だが確かに話し始めてしまったからには、隠すのもおかしな話だろう。
「アルマの瞳は、よくトパーズのようだと言われていた」
「そうね」
「だから、お前の瞳はなんなんだろうかと思ったんだ」
エルシャは肩をすくめ、力を抜くように深く座り直した。
ソファに横並びに座っていたので、二人の距離が少し近づく。
「あのねえ。瞳を宝石に例えられるなんて、普通のことじゃないんだから」
「そうなのか?」
「当たり前よ。アルマ様ほど美しい方だからそう言ってもらえるのよ」
そんなこと、思いもしなかった。
だって母もエルシャも、当然のようにアルマの瞳をトパーズだと言っていたから。
そういうものなのだと思い込んでいたのだ。
「でも、お前の瞳を宝石に例えたっていいんだろ?」
「良いか悪いかって言われたら、そりゃ良いでしょうけど……」
「じゃあ何が良いんだ。俺は宝石の種類はよく分からないから」
エルシャは再度目の上を平らにして、ルディガーの脇腹を遠慮なく抓った。
「いって!」
「今後のために教えてあげるわ。そういうときはね、図書館でもなんでも行って図鑑を広げて、私の瞳に似た宝石を探すのよ」
「えぇ……? だってお前、こんなのじゃない!って言いそうじゃないか」
「あなたって本当に勉強以外できないのね。これは試験じゃないのよ。正解なんてないの」
「じゃあどうやって探すんだよ」
「だから! あなたがどう思ったかって聞いてるの!」
エルシャの瞳が真っ直ぐにルディガーを見ている。
かつての自分は、婚約者の瞳をこんなに見つめたことはあっただろうか。
「あなたが私の瞳の色はこれだって思う石を見つけてくれて、そしたら私はこれがあなたが選んでくれた石なんだわって受け止めるの。そうしてそれが、私たちにとっての特別な宝石になるのよ」
部屋の明かりを反射して光る、澄んだ青。
何度もエルシャと共に過ごした避暑地の澄んだ湖が、ルディガーの脳裏によぎった。




