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今なら君にできること  作者: マスターオブあんかけうどん


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6

そして次の週末。

渋々言い付け通りに家に戻ると、不貞腐れた新たな婚約者が客間に居座っていた。


「はぁ」

「ため息をつきたいのは俺なんだが」

「何言ってるの? 私だけがため息をついて良いに決まっているでしょう。一回失敗しているくせに」


ぐ、と喉が鳴った。

別に失敗したわけではない。


アルマとのことは、彼女の気鬱が原因で仕方なく解消されただけだ。

ルディガーにしてみればまだ卒業まで間があるし、治るまで待てと言われたら待てたのだ。


「まぁこうなったからには仕方ないわ。精々お互いがんばりましょ」

「お前は本当に、もうちょっとマシな言い方はないのか?」

「じゃあなんて言えば良いの?」

「……アルマはこういうとき、努力しますとか、心得ましたとか、そんなようなことを言っていた」


瞬間、ルディガーは室内の温度が下がったように感じた。

目の前のエルシャの視線が、かつて無いほどに冷たい。


「これから婚約者として過ごすからには言っておくわ。二度と私とアルマ様を比べるようなことを口にしないで」


はっきりと、しかし平坦な口ぶりだった。

エルシャにはこれまで散々文句や不満をぶつけられてきたが、こういった言い方をされたのは初めてのことだった。


「だが、」

「反論は認めないわ。私との婚約を続けたいのなら、私が嫌だと言っていることはしないと誓って」

「……」

「大体、だがもしかしも無いのよ。私は『嫌だ』と言ったの。それ以上の理由が必要?」


アルマは年上で、未来の貴族夫人としてよく教育された、いわば理想的な婚約者だった。

身内しかいないからとだらしない姿勢をとったりしない。

婚約者が望めば、それに従う。

そもそも、こんなに感情を露わにされたことなど無かった。


「それでも、お前の主張が間違っていたらどうする」

「は? そのときは繰り返す前にそう言えばいいじゃない。あなたの口は飾りなの?」

「お前は……一を言えば十返すのをやめろ」

「あなたはもう少し他者と対話することと、相手を慮ることを学ぶべきだわ」


エルシャは不愉快を隠しもせずにつぶやき、紅茶を飲んだ。

テーブルに用意されたやたらと豪華な菓子は、彼女の機嫌をとるために母が用意したのだろう。

そういえば、アルマはこういうときにはどんな菓子を食べていたのだったか。


「あともう一つ。手紙は送らないわ。どうせ返事を寄越さないのでしょう?」

「あぁ、まぁ、必要があれば」

「そう。じゃあ不要ね」


そう言われると、婚約者としていかがなものかという思いが湧く。


「つまり休みのときに顔を合わせるだけということか?」

「そうなるのかしら? 今まで通りでいいんじゃないの?」

「今まで通りって、年に数回でいいってことか?」


また何か怒らせたらしい。

とうとうエルシャの目の上が平らになってきた。


「あのねぇ。会いたいならあなたがうちに来たらいいでしょう?」

「だが今までだってお前がこちらへ来ていたじゃないか」

「予定が合えば今まで通り来るわ。私だって暇じゃないのよ」

「だがアルマは、」


小さな手のひらがルディガーの口を覆う。

なんて女だ。こんな速さで動いたうえに、男の顔に躊躇なく触るとは。


「もう一度だけ言ってあげるわね。私とアルマ様を比べないで」


焼き付けるように睨んだ後に手を離し、苛立ったように布巾で拭う。


「いいこと? あなたとアルマ様が三つ違ったということは、私とも三つ違うのよ」

「確かにそうだ」

「それだけじゃない。アルマ様はこの世で一番忍耐力が強いのよ。そんな方と比べられたらたまったものじゃないの」

「大袈裟な」

「大袈裟じゃないわ。なんたって、あなたなんかと四年も婚約を続けられたんだもの」


そう言ってエルシャは立ち上がった。

そして、ルディガーの膝に布巾を落としてから退出した。

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