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そして次の週末。
渋々言い付け通りに家に戻ると、不貞腐れた新たな婚約者が客間に居座っていた。
「はぁ」
「ため息をつきたいのは俺なんだが」
「何言ってるの? 私だけがため息をついて良いに決まっているでしょう。一回失敗しているくせに」
ぐ、と喉が鳴った。
別に失敗したわけではない。
アルマとのことは、彼女の気鬱が原因で仕方なく解消されただけだ。
ルディガーにしてみればまだ卒業まで間があるし、治るまで待てと言われたら待てたのだ。
「まぁこうなったからには仕方ないわ。精々お互いがんばりましょ」
「お前は本当に、もうちょっとマシな言い方はないのか?」
「じゃあなんて言えば良いの?」
「……アルマはこういうとき、努力しますとか、心得ましたとか、そんなようなことを言っていた」
瞬間、ルディガーは室内の温度が下がったように感じた。
目の前のエルシャの視線が、かつて無いほどに冷たい。
「これから婚約者として過ごすからには言っておくわ。二度と私とアルマ様を比べるようなことを口にしないで」
はっきりと、しかし平坦な口ぶりだった。
エルシャにはこれまで散々文句や不満をぶつけられてきたが、こういった言い方をされたのは初めてのことだった。
「だが、」
「反論は認めないわ。私との婚約を続けたいのなら、私が嫌だと言っていることはしないと誓って」
「……」
「大体、だがもしかしも無いのよ。私は『嫌だ』と言ったの。それ以上の理由が必要?」
アルマは年上で、未来の貴族夫人としてよく教育された、いわば理想的な婚約者だった。
身内しかいないからとだらしない姿勢をとったりしない。
婚約者が望めば、それに従う。
そもそも、こんなに感情を露わにされたことなど無かった。
「それでも、お前の主張が間違っていたらどうする」
「は? そのときは繰り返す前にそう言えばいいじゃない。あなたの口は飾りなの?」
「お前は……一を言えば十返すのをやめろ」
「あなたはもう少し他者と対話することと、相手を慮ることを学ぶべきだわ」
エルシャは不愉快を隠しもせずにつぶやき、紅茶を飲んだ。
テーブルに用意されたやたらと豪華な菓子は、彼女の機嫌をとるために母が用意したのだろう。
そういえば、アルマはこういうときにはどんな菓子を食べていたのだったか。
「あともう一つ。手紙は送らないわ。どうせ返事を寄越さないのでしょう?」
「あぁ、まぁ、必要があれば」
「そう。じゃあ不要ね」
そう言われると、婚約者としていかがなものかという思いが湧く。
「つまり休みのときに顔を合わせるだけということか?」
「そうなるのかしら? 今まで通りでいいんじゃないの?」
「今まで通りって、年に数回でいいってことか?」
また何か怒らせたらしい。
とうとうエルシャの目の上が平らになってきた。
「あのねぇ。会いたいならあなたがうちに来たらいいでしょう?」
「だが今までだってお前がこちらへ来ていたじゃないか」
「予定が合えば今まで通り来るわ。私だって暇じゃないのよ」
「だがアルマは、」
小さな手のひらがルディガーの口を覆う。
なんて女だ。こんな速さで動いたうえに、男の顔に躊躇なく触るとは。
「もう一度だけ言ってあげるわね。私とアルマ様を比べないで」
焼き付けるように睨んだ後に手を離し、苛立ったように布巾で拭う。
「いいこと? あなたとアルマ様が三つ違ったということは、私とも三つ違うのよ」
「確かにそうだ」
「それだけじゃない。アルマ様はこの世で一番忍耐力が強いのよ。そんな方と比べられたらたまったものじゃないの」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃないわ。なんたって、あなたなんかと四年も婚約を続けられたんだもの」
そう言ってエルシャは立ち上がった。
そして、ルディガーの膝に布巾を落としてから退出した。




