3
ルディガーは寄宿学校に在籍しているため、基本的に長期の休み以外は生家に戻ることはない。
家族との交流でさえほぼ手紙のみ。
筆まめな性質でもないため、義務付けられている定期的な報告の手紙以外はほとんど書いたことがない。
家族相手でさえその調子であったのだから、まして婚約者宛に恋文を書いたことなど一度もない。
だが彼女とて女子寄宿学校にいるわけなので、暇ではないはずだ。
時折送られてくる手紙には返事をしたこともあったが、応答を求められている場合以外は返事をしなかった。
一応、寮にはたった一台だけ電話があるにはある。
だがアレは本来緊急時のためのものであるし、皆が取り合っているうえに金もかかる。
あの激戦を乗り越え、さらに小遣いを注ぎ込んでまで電話を使うという発想はルディガーには無かった。
「ルディガー! 遅かったじゃない」
「エルシャ。もう来ていたのか」
「あなたね、いつ帰ってくるのかは事前に連絡すべきよ」
「手紙は送った」
「手紙じゃ遅いのよ。電話したらいいじゃない」
「そこまでのことじゃないだろ」
新しい年を迎えるために生家へ戻ると、自分より先に幼馴染のエルシャが到着していた。
父親同士が寄宿学校時代の親友で今も交流が続いており、彼女とは幼い頃から長い休みなどを共に過ごすことが多い。
なぜか自分よりこの家に馴染んでいる気すらするが、彼女の図々しさがそうさせるのだろうか。
「そういえば、婚約したんですって? おめでとう」
「ありがとう」
「どんな方なの?」
「別に、普通だよ。ときどき手紙が来るけど、日記みたいな内容だし」
「手紙をもらっておいて、何よその言い草!」
「そんなこと言ったって。お茶だお花だの話をされても、返事に困るんだよ」
一体なにに腹を立てているのか分からないが、エルシャは信じられない!と言ってどこかへ行ってしまった。
かと思えば今度は母に捕まり、重ねて婚約者のことでお小言をもらう羽目になった。
「ルディガー。アルマとはきちんと交流をしているの?」
「していますよ。手紙だって来ているし」
「返事は書いているのでしょうね?」
「まぁ、たまには」
「まったくあなたときたら。女性の扱いは学校では教わらないようね」
「おばさま、もっと言ってやって!」
さてはエルシャが言いつけたか、母の後ろからやいのやいのと騒いでいる。
「本当に。あんなによくできた娘の何が不満なのです」
「ルディガーのくせに、そんなに素敵な婚約者なの?」
「ええ。それは綺麗なトパーズ色の瞳なのよ」
「素敵! 一度お会いしてみたいわ」
ルディガーが黙り込んだので気が済んだのか、母とエルシャは二人ではしゃぎながら部屋を出ていった。
これだから女は嫌なんだ、とルディガーは心の中で悪態をつきつつ、久しぶりの実家で羽を伸ばした。
この年もアルマからは新年を祝うカードが届き、ルディガーもまたそれを返した。
顔を合わせずともこういったやりとりはきちんとしているのだ。
文句を言われる筋合いはない。
万事このような調子のルディガーであったが、流石に夏や冬といった、長い休みの間にはできるだけアルマと過ごす時間をとった。
避暑として別邸に行くのに連れていったり、アルマの友人とのお茶会でエスコートしたり。
正直に言えばその時間を学業に充てたい気持ちはあったが、婚約者の義務として受け入れた。




