第十一話 『二匹は聞いてないんですが?』
ずし、ずし、と。
地下通路全体が震えていた。
「……来た」
真琴の触角が硬直する。
通路奥。
暗闇の向こうから現れた巨大な影。
一匹。
そして、もう一匹。
「いや二匹は聞いてないんですが!?」
完全に増えてる。
しかも前回見た個体と同格。
巨大。
重装甲。
高威圧感。
見ているだけで恐怖フェロモンが漏れそうになる。
さらに後方には通常兵隊アリまで並んでいた。
「これ完全に討伐部隊じゃん……!」
敵女王、本気でこちらを潰しに来ている。
真琴は周囲を見回した。
働きアリたちが慌ただしく動いている。
幼虫移送。
資源退避。
防衛配置。
コロニー全体が緊張していた。
「……戦うしかない」
女王フェロモンが静かに広がる。
その瞬間。
群れ全体の空気が変わった。
最初の衝突は、一方的だった。
どごぉっ!!
「うわっ!?」
巨大兵の突進で、通路壁が半分崩れた。
硬い。
強い。
そして馬鹿みたいにパワーがある。
働きアリたちが群がる。
だが。
ぶんっ!!
一振り。
それだけで数匹まとめて吹き飛ばされた。
「強すぎるでしょ!?」
しかも二匹いる。
一匹が正面突破。
もう一匹が側面制圧。
完全に連携していた。
「敵もちゃんと戦術使うの!?」
いや当たり前なのだが。
アリ社会、想像以上にガチ戦争だった。
その時。
エース兵隊アリが飛び出した。
ガギィィン!!
巨大な顎同士が激突する。
「エース!」
押し止める。
だが苦しい。
前回より明らかに押されていた。
しかも今回は相手が二匹。
もう一方の巨大兵が、横から回り込もうとしている。
「まずい……!」
真琴は即座にフェロモンを放つ。
通路封鎖。
働きアリたちが一斉に土壁へ群がった。
掘削。
崩落。
だが。
どがぁん!!
「えっ」
巨大兵が正面から崩落箇所を突破した。
「嘘でしょ!?」
力技。
完全な力技である。
土砂を押し潰しながら進んでくる。
恐怖しかない。
「これ本当にアリ!?」
すると後方から、さらに敵兵隊アリが流れ込んできた。
数が多い。
止まらない。
このままでは防衛線が崩れる。
「……撤退」
真琴は苦しそうに触角を震わせた。
悔しい。
でもここで全滅は駄目だ。
「第二幼虫室へ後退!」
フェロモン指示が飛ぶ。
働きアリたちが幼虫を抱えて移動を始めた。
巣の一部放棄。
苦渋の決断だった。
その間も。
エース兵隊アリは、たった一匹で巨大兵二匹を抑えていた。
「無茶しすぎ……!」
外骨格が砕け始めている。
脚も傷付いていた。
それでも退かない。
女王へ近付けさせまいと、必死に立ちはだかっている。
その姿に、真琴の胸が熱くなる。
「お願い、死なないで……!」
だが。
次の瞬間。
どごんっ!!
巨大兵の一撃で、エース兵隊アリが吹き飛んだ。
「――っ!」
壁へ激突。
動きが止まる。
「エース!!」
真琴が思わず駆け出しかけた、その時。
どくん、と。
身体の奥が脈打った。
「……え?」
女王フェロモンが、勝手に溢れ出す。
今までより濃い。
強い。
熱い。
その瞬間。
周囲の働きアリたちの動きが変わった。
「……っ!?」
速い。
統率が上がっている。
まるで群れ全体が一つになったみたいだった。
さらに。
倒れていたエース兵隊アリが、ゆっくり立ち上がる。
「え……」
触角が真琴へ向く。
そして。
再び巨大兵へ突撃した。
「うそ……」
今まで以上の速度。
今まで以上の迫力。
まるで真琴のフェロモンに反応して、身体能力が引き上げられているみたいだった。
「これ……女王能力?」
だが考える暇はない。
巨大兵の一匹が、防衛線を突破していた。
ずしり、と。
重い脚音が近付く。
そして。
真琴は気付く。
ここが。
巣の最深部だということに。
「……っ」
敵巨大兵が、ゆっくりこちらを見た。
その瞬間。
真琴は本能で理解した。
自分が死ねば。
このコロニーは終わる。




